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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊


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イラコ皇子万歳!

 ――ポイント203。


 銀河帝国とジンバニア王立連合との間で勃発した戦争において、現在、最も激しく……そして、膠着した戦いが繰り広げられている戦線であった。

 最大の特徴は、ポイントの大半を占めるアステロイドベルト帯……。


 一体、いかなる天文学的事象が重なり、このような宙域が生み出されたのか?

 ともかく、平均して10kmほどしか隙間が空いていない小惑星の連なりは、通常では考えられない過密さだ。

 しかも、特殊な鉱石が含まれた小惑星群は電波を吸収してしまう性質があり、遠距離での通信及び電波的索敵は極めて困難なのである。


 結果、生じたのが旧地球文明時代に行われたというベトナム戦争を彷彿とさせる戦い。

 大規模な会戦で雌雄を決することができず、偶発的な遭遇戦が繰り返されるこのポイントは、銀河最大の地獄であると言われていた。


 そのような場所に長期間送り込まれれば、兵士の心はどうなるかといえば、これは――乾く。

 怒りも悲しみも、喜びも楽しみもない。

 ただ、機械的に最前線で過ごす日々。


 人類が銀河に進出して以来、国家間での戦争というものは艦隊同士での戦いを指すものとなり、一個艦隊というものは、無数の艦艇で構成される一つのマシーンとして例えられるようになった。

 ならば、それぞれの艦に搭乗する乗組員たちは、末端のそのまた末端に位置するパーツ。

 そこから感情が失われるというのは、ある種、理想的な姿であるのかもしれない。


 かようにして理想的な兵士たちが集まっているポイント203の銀河帝国軍前線基地であるから、ある報が届いた時も皆が「そうか」と頷くだけで、大きな驚きも動きもなかった。

 その報とは、すなわち――イラコ皇子とエステ皇女の前線慰問。

 となれば、聞いた兵士たちが何も思わなかったのは、ごく当然のことであろう。


 誰がどう見ても明らかな皇族の人気稼ぎであり、なんならば、これの出迎えや護衛で余計なタスクが増やされるばかりなのだ。

 というわけで、斜めに構えた者が「皇族がそこまでするほど厭戦感情が高まっているのか」と考察する程度で、ついにその日を迎えた時、基地の誰もが「そんな予定もあった」と思い出したのである。

 だが、実際にイラコ皇子の給糧艦――アマテラスを迎えた後、兵士たちの態度は一変した。


 全体的なシルエットは、輸送艦のそれをアップサイジングしたかのようであり、無骨な箱型。

 艦全体を覆う電磁シールドのシールド圧も、スラスターの推力も、見るからに特筆したものがない。

 おまけに、まったくの――非武装。

 レーザー機銃一つ付いていない艦が、しかし、どんな大戦艦よりも兵士たちの戦意を高揚させたのだ。


 いや、いっそこれは、生き返らせたと言えるかもしれない。

 冷凍レーションとサプリにより肉体こそ十全であったものの、心は乾き死んでいた兵士たちが、復活を遂げたのであった。


 兵士たちを蘇らせた妙薬の正体は――菓子。

 それも、レーションセットのおまけに付いているチューブゼリーのような代物ではない。

 入港に合わせアマテラス艦内で焼き上げられていた、出来立てほやほやの焼き菓子などである。

 クッキーにしろ、ケーキにしろ、鮮度が命。

 出来立てのそれは、冷凍や真空で保存されていた品よりも、味の上で数段勝った。

 しかも、これらにはアマテラス艦内で飼育しているのだという牛のミルクや鶏の卵が、ふんだんに使われているのだ。


 ミルクと卵……。

 人間の原始的な渇望を満たす味わいに前線で再会した兵士たちの喜びは、筆舌に尽くしがたい。


 そして、焼き菓子と同様の熱気をもって迎えられたのが、アイスクリームであった。

 やはりアマテラスの艦内で製造されたというそれは、バニラ、チョコ、ストロベリー、チョコミント、クッキー、ラムレーズン、抹茶という具合に、選べる七種のフレーバーを備えている。

 これを舐めると、口の中で溶けていくアイスと一緒に、体中へ蓄積されていた疲労も溶けて消えるかのよう……。

 味わい終わった後には、驚くほどの活力が湧いてくるのだ。


 自分たちを皮肉げに死人たちの兵団リビングデッドアーミーと呼んでいた兵士たちが、次々と蘇り、息を吹き返していく……。

 菓子ほどではないものの、それに大きく貢献したのが、意外な伏兵――紙巻きタバコだ。


 今回は帝国タバコ公社から仕入れたというそれは、基地の兵士全てに三箱ずつ配布された。

 喫煙者、非喫煙者に関わらずである。


 喫煙者にとっては、束の間、戦場のストレスを吐き出させる潤滑剤として……。

 非喫煙者にとっては、やはり平等に配布されたアマテラスの菓子を喫煙者から巻き上げる交換材料として……。

 高位の将官ほど眉根をひそめたものの、とにかく、兵たちにはありがたく受け入れられたのだ。


 その英雄的活躍とカリスマ性で知られる現皇帝フリードリヒ・ジーゲルならばともかく、それ以外の皇族というものは、帝国軍兵士たちにとってただ存在すると認識している者たちでしかなかった。

 だが、給糧艦アマテラスと共にこの前線へ訪れ、自分たちに忘れていた喜びを思い出させてくれたイラコ・ジーゲル皇子は……ひいては、その護衛役を務めたエステ・ジーゲル皇女に関しては、話が変わったのである。


 ――イラコ皇子万歳!


 ――第四皇子殿下に栄光あれ!


 もはや、ポイント203で戦う兵士たちにとって、皇子皇女といえばイラコ・エステの両殿下以外に存在しないも同然であり、帝国の行く末を担うのもイラコ皇子であると考えられるようになっていた。




--




「イラコ殿下! 今日も宇宙戦闘日和ですな!

 自分、本日の哨戒担当なので、ちょっくらジンバニアの連中をぶっ殺して参ります!」


「自分はジンバニア側の防衛線へ深く浸透し、帝国とイラコ殿下の栄光を刻み込んできます!」


「イラコ殿下! お喜びください!

 自分が指揮する駆逐艦は、薄汚いジンバニアの隠密艦めを見事に轟沈致しました。

 トドメの光子魚雷を叩き込む寸前、『イラコ殿下がおわした際に死ねることを誇りとするがいい』と通信しておきましたので、きっと地獄で殿下の名を広めていることでしょう!」


 ポイント203を支える前線基地の高級士官用ブロックにおいて、通路ですれ違った士官たちがそんなことを言いながら、元気よく敬礼してくる。

 それに対する俺の返事はといえば……。


「ご苦労」


「よきにはからえ」


「そやつらにとっては過ぎたる栄誉であっただろう」


 とまあ、こんな感じ。

 頭の中に作ってある定型文が、全自動で吐き出されている形であった。

 やめて……。

 敵対国の艦を沈めるだけならまだしも、その刹那で俺の名前出すのやめて……。

 一つの艦沈める度に、百単位で怨念が生み出されちゃうんだから、本当にやめて……。


 などと、言うわけにはいかない。

 そんなことしたら、ヘッドショット待ちのゾンビみたいな状態から元気いっぱいになった彼らのテンションが劇萎えである。

 親愛なる将兵たちには、力の限り――俺の代わりに戦ってもらわなければいけないんだから。


「イラコ殿下の勇名は、早くもこの最前線で轟いているようですね。

 私も副官を務める身として、鼻が高いです」


 俺の隣を歩くマミヤちゃんが、鼻息荒くしながらグッと拳を握りしめてみせた。


「あっはは、そうか」


 それに対し、半ば空返事で返すこの俺である。

 さすが、我が軍の士官教育は行き届いているな。新人の少女少尉も大変に戦意旺盛だ。


「わたしは少し不満。

 アイスのフレーバーはもっと増やしてほしい」


 一方、マミヤちゃんと反対側から俺を挟むエステが、いつも通りテディベアを抱えながらつぶやく。


「それは俺も思ってるけど、課題だなー。

 他にもドーナツとかバーガーとか、作らなきゃいけない料理は数多いわけだし。

 期間を設けてルーティンでフレーバー変えてくとかが現実的かね」


 俺はアイスクリームに関してはバニラが一番好きだが、かといって、バニラしか食わないというわけでもない。

 毎日アマテラスで働いているお爺ちゃんお婆ちゃんたちにとっても癒しとなる甘味の味変は大事だろうし、真摯に改革へ取り組まないとな。

 ……当然、こんな最前線ではなく後方で。


 そして、その鍵を握るのがこれから対面する人々なのだ。


「よし、それじゃ、気を引き締めていくぞ。

 この扉の先にいるのは、ここポイント203で指揮を執る将軍たちだ。

 それも、散々面会を後回しにされていた、な」


 最前線基地というのは、要するにモジュール化されたユニット同士の接合体であるわけで、眼前のスライドドアも他と変わらぬ素っ気ない造り。

 しかし、それがどこか重々しく感じられるのは、内部から放たれる圧力ゆえかもしれなかった。

 お読み頂きありがとうございます。

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