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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊


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出航

 宇宙で戦う戦闘用艦艇の出陣というものは、言い換えるならば、大規模な人と物との移動ということになる。

 何しろ、この給糧艦アマテラスの乗員は235名。ミドルスクール丸々一つ分だ。

 それだけの人間と、彼らが日々生活していけるだけの物資を可能な限りの迅速さで積み込んでいくのだから、宇宙港とアマテラスを接続するアーム内は、とてつもない慌ただしさとなっていた。


 まあ、それだけならいかなる戦艦であっても同じこと。

 ただ、このアマテラスに関しては二つ……通常の戦艦と異なるところがある。


 まず一つ目は、人員。


「ふっふ……まさか、この歳になって再び最前線へ行くことになるたあなあ」


「ああ、退役して開いた店を潰しちまった時はお先真っ暗かと思ったが、拾う神ありだ」


「せいぜい、腰を痛めねえように気ぃつけるんだなあ!」


「違いねえ!」


 肩にボンサック――サンドバッグみたいなアレ――をかついだTシャツ姿のマッチョ爺ちゃんたちが、そう言いながら笑い合って乗降用の通路を歩いていく。

 彼らこそ、このアマテラスで働いてもらう料理人として雇い入れた者たち……。

 前身は、揃って元軍属の飲食店開業失敗者たちだ。


 サラリーマンや軍属が引退後、飲食の道に走りがちなのは旧地球文明時代から同じ。

 そして、いざ開業した個人営業の飲食店というものが、大体五年以内に潰れるのもまた同じである。


 そんなわけで、我らが銀河帝国にも「無事軍役を終えたから飲食チャレンジしてみたけど失敗したよトホホ」というお爺ちゃんたちが、履

掃いて捨てるほどいるのであった。

 彼らは、そんな中から声がけして雇った者たち。

 給料安くて済むし、軍艦で働いてた経験あるしで、こりゃお買い得と思ったのであった。


「ひっひひ……まさか、この年齢になって軍艦勤めをするだなんて、あたしゃ思っていなかったよ」


「これで、孫におもちゃを買ってあげられるわ」


「みんなで頑張りましょうねえ」


 そんな爺ちゃんズと同様、宇宙港での休息を終えてアマテラスに乗り込んでいくのが、お婆ちゃんたち。

 こちらは、格闘術の心得とか一切ないのが丸分かり。

 完全無欠、民間人から雇ったパートタイムのお婆ちゃんたちである。

 求人サイトで募集かけた結果、払えるお給金で集まったのが暇してるお婆ちゃんたちだけだった。以上!


「銀河を行く老人ホームだな。こりゃ……」


 アーム内の監視室から、読唇機能付きのガラス窓越しに乗員通路を見下ろしていた俺は、苦笑いと共にそう漏らす。


「あるいは、生鮮市場でしょうか。

 宇宙戦艦の積み込みリストに、ミサイルの一発すらないというのは、初めてです」


 隣にいる彼女が話した通り……。

 アマテラス固有の事情二つ目は、積み込んでいる物資に武器類が一切存在しないことである。

 代わりに積み込んでいるのは、冷凍保存された食品類。

 安全な後方……それも、帝国の中心地である親父殿(銀河皇帝)のお膝元なだけあり、ラインナップは種々様々。

 まさに、銀河帝国の食がここへ結集していた。

 こうして、物資搬入レーンで運び込まれている様をモニタリングしていると、単なるコンテナの連なりにしか見えないけどな!


 ただ、とてつもない……あるいは、途方もない量の物資が積み込まれていくことだけは、圧倒的リアルさで感じられる。

 ああ、俺は本当に最前線へと行くのだ。

 親父殿を呆れさせ、後方宙域でこのお菓子工場(アマテラス)を稼働させ、ついでに雇用からあぶれてる爺ちゃんたちの受け皿をしようとしてただけなのに!

 嫌だー! 死にたくなーい!


「んで、君は?」


 ……そんな想いを抱えつつ、しれっと俺の隣に立っている黒髪美少女を見据える。

 年齢は、十代半ばといったところか。

 細身の体を、女子広報士官用のミニスカ軍服で包んだアジア系……いや、日系のお嬢さんだ。

 腰まで伸ばされたストレートの黒髪は、まさにヤマトナデシコここにあり。

 翡翠の瞳からは、少々の勝ち気さと、深い知性が感じられた。

 手にしたタブレット型の端末には、どうやらアマテラスの様々な情報が表示されているようだ。


「マミヤ・ビルケンシュトック少尉です。

 イラコ殿下の副官として、着任致しました」


 少女――マミヤちゃんが、そう言いながら片手で敬礼してみせる。

 その姿はなかなか様になっていて、俺なんぞよりよほど真面目に士官教育を受けていることがうかがえた。


「副官か。

 聞いてねえけど?」


「皇帝陛下が15分前に命令し、あらゆる手続きを省略して直接参上しました。

 こちらは、命令書です」


 言いながら、懐から一枚の紙片を取り出し、手渡してくる。

 ざっと目を通したが、これは間違いなく正式な勅令書。親父殿しか使えない帝印もきっちりと押されていた。

 書簡にすら収まっていないのは、それだけ急な命令であったからだろう。


「要するに、お目付け役ってことか。

 それなら、もっと経験豊富な元軍属とか寄越してくれればいいのに……」


「ご冗談を。

 その条件に該当する人材ならば、イラコ殿下はご自身で招集されているではありませんか?

 皇帝陛下は乗員リストからそれを知り、ならば同年代の相談相手をということで、私を派遣したのです」


「え、ああ? うん……。

 確かに、お爺ちゃんたちは経験豊富な元軍属ではあるなあ」


 ただ、俺が欲してるのは参謀タイプの人材であって、ああいう前線でバリバリやってた感垂れ流してる人々ではないんだけど……。

 まあ、このマミヤちゃんが参謀系であることを祈ろう。見た感じ、仕事はできそうだ。


「よっし……。

 とりあえず、ここにいても仕方ねえからブリッジへ移動するか」


 そう宣言した俺は、着任したての副官と共に、監視室を後にしたのである。




--




「んで、エステ。

 どうしてお前が、ここにいる?

 つーか、どうして俺の膝に乗っている?」


 銀河帝国の艦船は高度なモジュール化が施されており、どの艦であってもブリッジの内装は変わらない。

 そのため、士官教育の実習でも座り慣れたキャプテンシートで、慣れない重さとやわらかさを膝に感じながら、俺は妹にそう問いかけた。


「ん……。

 わたしのシールド艦――クシナダは鈍重なこの艦を護衛するのに最適。

 だから銀河皇帝(パパ)について行っていいか聞いたら、二つ返事だった」


 重さとやわらかさの正体……。

 末の皇女(いもうと)であるエステが、女子広報士官用のミニスカ軍服姿で、俺の膝にお姫様抱っこされる形で座りつつ答える。


「なるほど……それで、クシナダがああして傍らに浮かんでるわけだ」


 ブリッジ内に三基存在する大型モニターの内、サブに該当する一枚が映し出している映像を見ながら、頷いた。

 そこに映し出されている艦影は、サイズこそこのアマテラスと同等だが、艤装に関しては大きく異なる。

 最大の特徴は、船体の両脇に配置された超大型のアームユニット。

 それに取り付けられているのは、艦そのものを覆えるほど巨大な電磁シールドだ。

 シールド艦と呼ばれる艦種である。


 見た目通り圧倒的な防御力を誇る艦種であるから、護衛として随伴するのはまあ、理解できた。

 親父殿は末娘のエステに関してのみ、やたら甘いところがあるので、その願いを聞き入れたというのも……。


「で、それは分かったんだが、どうして俺の膝に乗っている?」


「ん……あちらの艦長であるわたしがこちらに乗船して、息を合わせるのが最も合理的。

 そして、ここのシートはわたしの背丈に合ってないので、こうするのが最も見やすくて合理的」


 いつも通りテディベアを抱きしめながら、俺を見もせずに答えるエステだ。


「合理的かなあ?

 普通に通信で連絡取ればいいと思うし、こっちへ乗船するにしても、空いてるシートへクッションでも敷けばいいと思うけど」


「そんなことはない。これが最も合理的。

 イラコはバカだからわたしの指示に従うべき」


 そうかな? そうかも……。

 このエステは、一種のギフテッド。

 天才の名を欲しいままにしている。

 実のところ、ベルトルトが披露した高速艦スクルドの新型リアクターが、こいつの開発したものであることを俺は知っていた。

 その天才少女がそう言うなら、きっと合理的であるに違いない。


「それじゃあ、艦長! 出航の指示を出してくだせえ!

 へへ、艦のステアリングを握るのは久しぶりだぜ!」


 操舵手兼料理人の爺ちゃん――長い茶髪で片目を隠したナイスシルバーだ――が、振り向きながら俺に問いかける。


「ようし! クシナダを伴い出航する!

 目的地はジンバニアとの最前線――ポイント203!」


「おー!」


 俺が号令すると、膝に乗ったエステが気の抜けた声で追従した。


「艦内各員、発進準備。

 各部署の担当者は、順次ステータスを報告されたし」


 続いて、キャプテンシートの傍らに立つマミヤちゃんが、タブレット片手に具体的な指示を出し……。

 絶対に死にたくないこの俺を乗せた給糧艦アマテラスは、広大なる銀河の海へ乗り出したのである。

 お読み頂きありがとうございます。

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