アマテラスオオカミ 4
「銀河帝国め、こけおどしを……。
あれではまるで、巨大な玩具ではないか」
宇宙戦艦ほどの巨大建造物が、二隻揃って大幅に変形し、挙句、それぞれ上半身と下半身を構成する形で合体する……。
あまりに常識外れかつ、兵器史を見ても類例なき事態に、ジンバニア隠密艦――コードネーム:サンイーターの艦長ケンネ・レンケンホックは、ようやくそのような感想を漏らした。
第二次世界大戦時の潜水艦がそうであったように、敵地へ深く浸透し、秘密裏に行動する艦というものは、何もかもを機能的に……それでいて、コンパクトに収めるものだ。
よって、帝国軍の艦船はどうなのか知らぬが、この艦のブリッジも四方八方が計器類とコンソールで埋め尽くされた狭苦しい空間となっている。
そのような場所で、ケンネ同様、白地に青いラインの入った軍服をまとう男たちが、驚愕と緊張の色を浮かべていたのであった。
驚愕する理由は、単純。
あんな無茶な変形合体を見せられれば、誰もが驚くというものだ。
緊張する理由も、また単純。
かような前例なき兵器に対し、自分たちはこれから戦いを挑まねばならないのである。
「まるで、試しに動かしたかのような挙動だったが……。
とにかく、敵艦――いや、巨大ロボットの機動力は、高速艦並。
隠密艦である本艦では、向こうが見逃さない限り逃げ切れぬ。
総員、覚悟を決めよ。
ジンバニアの……いや、故国ヨーギルの名を背負う軍人として、堂々とあれと戦い、討ち果たすのだ」
茶髪よりも白髪の占める割合が多くなった頭へ、ぎゅっと軍帽を押し付けながら命ずる。
艦とは家族であり、艦長こそは家長。
その命には誰も異を唱えず、皆が旺盛な戦意を燃やす。
ヨーギル王国とは、王立連合たるジンバニアを構成する国家の一つ。
その所属艦である自分たちが上げた軍功は、そのまま連合間でのパワーバランスに影響するのだ。
素人ならば本来無用な内部対立だと思うだろうが、国家間の関係というものは、童話のごとき単純さで成立するものではないのである。
「進路、3-7-1へ。
敵巨大ロボットは、シールド艦と給糧艦とやらの合体であり、ろくな火器を保有していないことに違いはない。
ならば、相手の狙いは一つ。
スピードにモノを言わせての格闘戦である」
ケンネが口にしたのは、あらためての意識共有。
敵巨大ロボットの腕部にあたる部位は、シールド艦の電磁シールド付きマシンアームをそのまま転じたものだ。
火力艦の主砲すらしのぐだろうシールド圧で殴りかかれば、それはあらゆる防御を貫く槍となるに違いない。
つまり、それのみ警戒すればいいということ。
他の武装として、シールド艦が変形した上半身は各所にレーザー機銃を配置しているが、そんなものは対艦戦闘でなんの役にも立たないのだ。
「本艦は、敵巨大ロボット以上の速度を誇る光子魚雷のカウンターでもって、これを撃滅する。
各員、奮闘されたし。
また、小回りがきく敵M2に関しては、常に監視へ努めよ。
M2の出力であっても、戦艦クラスの相手を沈めた例はいくつか存在する。
敵パイロットが歴戦のエースに違いないことを思えば、むしろこけおどしの巨大ロボット以上に脅威であると心得よ」
「「「アイサー!」」」
「進路3-7-1、最大戦速」
艦長命令に奮起した各員が、それぞれの役割をこなしていく。
こうなれば、ブリッジクルーというものは一心同体。
皆が心を一つにして、その瞬間を待ちわびた。
すなわち、直上に位置した敵巨大ロボットへの――光子魚雷発射。
「ようし! 一番、二番、MKR光子長魚雷装填!
一番は進路そのまま敵巨大ロボットへ発射。
二番は、回避機動を取った敵への本命とせよ。
発射タイミング、角度は一任する」
「アイサー!
一番、二番、装填確認……。
一番、MKR光子長魚雷――発射!」
ケンネの指示を受けたベテラン砲撃手が、この艦最大の武器――艦首対艦光子魚雷の一発目を発射する。
811ミリを誇る長魚雷の威力は、後背で大破状態となっている帝国火力艦を見れば明らか。
戦場の主役が荷電粒子兵器となって久しい昨今であるが、発射する艦のリアクター出力に左右されず威力を発揮できる光子魚雷は、まだまだ強力な兵器なのだ。
「いけ……」
正面メインモニターに映された映像を見ながら、誰かがつぶやく。
果たして、上下左右いずれに避けるのか?
はたまた、強力なそのシールドで防ぐのか?
敵巨大ロボットは、猛進する光子魚雷にじっとツインアイを向けていた。
そして、驚くべき動きを見せたのだ。
シールドで防いだわけでは、ない。
ならば、上下左右いずれかに避けたのかと思えば、それでもない。
ただ……前進あるのみ。
死の威力を秘めた魚雷に対し、防ぐことも避けることもせず、自ら巨大なシルエットを進めさせたのだ。
「バ――」
驚いたケンネは、思わずそう漏らす。
何しろ、超高速を誇る光子魚雷だ。
言葉を紡ぎ終えるより早く、敵巨大ロボットへ接触せんとしている。
「――カな」
そして、言葉を言い切った時……。
まさに、「バカな」と口にしたくなる光景を見た。
まるで、自分から当たりにきたかのような巨大ロボットが、上半身を逸らし……。
まさに、光子魚雷が接触する寸前――紙一重のところで、これを回避したのである。
なんという――神業。
しかもこれは、全長18メートル級のM2でやっているわけではない。
全長400メートル以上もある戦艦同士の合体で生まれた巨大ロボットが、これをやっているのだ。
慣らし運転すら、ロクにしていなさそうな雰囲気……ことによればぶっつけ本番の操縦だろう巨大な機体を完全掌握できていなければ、不可能なマニューバであった。
そして、それを果たして敵が得たアドバンテージは、果てしなく大きい。
何しろ、一番の光子魚雷は本艦の進路上へ直線で放っている。
それを真っ直ぐに進んで回避したということは、最短最速で距離を詰めてきているということ……。
「に、二番発射!」
半ば反射的に、砲手が装填済みのもう片方を発射した。
が、これも――駄目。
間合いを詰めている分、先ほどよりも回避の難易度は上がっているというのに、やはり、半身の構えで紙一重の回避をされたのである。
「化け物か!」
もはや、そう称するしかない。
だが、これは、機体を指しているのか、これを操る乗り手を指しているのか、どちらであろうか?
いや、きっと――両方。
全長数百メートルの巨体が見せた機動性と運動性は、特異点レベルのテクノロジー向上がなければ不可能。
さらに、それを十全に操り、光子魚雷も完全に見切った操縦者の技量!
どちらか片方でも絶望的な相手が、よりにもよって合わさってしまったのだ。
「有史以来、存在したか?
通商破壊作戦で狙われた側が、攻撃してきた相手を返り討ちするなど……。
あるいは、これは罠か……?
給糧艦に見せかけた最新鋭艦の活躍を派手に喧伝し、我々隠密艦をおびき出すための……!」
その可能性に思い至ったところで、もう遅い。
見抜こうと思って見抜ける策ではなし……。
何より、敵機の腕部を形成する巨大な電磁シールドが、バチバチと電磁スパークを放ちながらこの艦へ振り下ろされているのだから……。
隠密艦ごときの電磁シールドなど、悪あがきにすらならない。
紫電をまとった超質量の鉄拳は、たやすく本艦のシールドを貫通し、ケンネたちを瞬く間にこの宇宙から消滅させた。
かくして……。
太陽を喰う者のコードネームを帯びた隠密艦は、太陽神の名を持つスーパーロボットによって、ただ一撃で撃沈されたのである。




