彼女達の生き方
あくる日の昼、ジャンヌとソロ達は、パロウという街に移動していた。
パロウはこの辺りでは大きめの部類に入る街であり、人口も多く中々発展している都市だ。昨日ジャンヌが捕らえた誘拐犯のモンドを官憲に引き渡す為、この街に来たのである。ジャンヌは知らなかったが、モンドにはかなりの余罪があり、指名手配までされているNeckの一人だったのだ。懸賞金の額は30万とそう高くはないが、臨時収入としては悪くない。ただ、余罪が明らかになればもう少し金額は上乗せされただろう。その意味では、ジャンヌは少しタイミングが悪かったとも言える。
モンドを引き渡し、ソロとアーデが賞金の受け渡しに行っている間、ジャンヌは一人溜息を吐いて、空を見上げていた。
「……はーぁ、まさかソロがあんなに怒るなんて。別に私がアーデにネズミを食べろって捕まえさせた訳じゃないんだけど。まぁ、アーデにあんな気遣いさせた私が悪いってことか」
せっかく臨時収入が入るというのに、ジャンヌの表情は暗い。朝方になって合流したソロは、ジャンヌと別行動をしている間もアーデを通して逐一情報を受け取っており、アーデがマッド・ラットを捕獲して、ジャンヌに食べさせようとしたことも知っていた。使い魔とはいえ、アーデをとても可愛がっているソロにとってはそれは許しがたい行いであったようで、相当な剣幕でジャンヌに雷が落ちたのだ。
ジャンヌ自身、アーデに対しては悪い事をしたなという思いがあるので、ソロの怒りに反論することはしなかった。二人は大人だし、付き合いもそれなりに長いので喧嘩をすることもある。なので、この位の事では関係が変わる事はないと解っているのだ。
とはいえ、一人になると流石に少し気が滅入るというか、手持無沙汰なのは否めない。ボーっとしながらソロの帰りをまっていると、ジャンヌの視界に行方不明者の情報提供を呼び掛けるビラが目に入った。中身は昨日助けた女性のものとは違っていて、数日前に別の街のバーの入口で見たものとも違うようだ。つまり、他にも複数、行方不明になっている人間がいるということになる。その答えに辿り着くと、ジャンヌは嫌なものを見たという風に顔をしかめていた。
「行方不明って、ここでも?どういうことよ。…………そういえば、あのモンドってヤツが誰かに頼まれたって言ってたっけ」
モンドをこの街まで連れて来る際、ソロとジャンヌは縛り上げた彼にいくつかの尋問をしていた。そこで解ったのは、彼が女性を攫ったのが、何者かによる依頼であったということだ。もしも、他にも被害に遭った女性がいるのなら、何とかしてあげたいと思う気持ちはある。
だが、実際に手配された犯人を捕まえるのならそれはジャンヌ達MIRAの仕事だが、それ以前に捜査をするのは彼女達の領分ではない。仮に、一連の行方不明者達の事件にモンドへ依頼をした人物が関わっているとしても、ジャンヌ達が勝手にそれを調べて動く事は難しい。場合によっては、捜査の邪魔になってしまう可能性もあるし、相手が万が一政治的な大物だったとしたら、ジャンヌ達の立場が危うくなる可能性すらあるのだ。
MIRAが世間一般の常識からは道外れた生き方であると自覚はしているが、貴族主義で成り立つこの社会では、おおっぴらに貴族と事を構える事は出来ない。何も解らない今の現状としては、せめて自分達の手の届く場所まで事態が降りてくれることを祈るしかない。
そうこうしていると、ジャンヌの傍に一人の少女が立っている事に気付いた。少女はじっとジャンヌの顔を見つめたかと思うと、手に提げたヤナギのバスケットからサフォラという花を一輪取り出してジャンヌの前に差し出した。
「なぁに?くれるの?」
「おねえちゃん、いやなことがあったんでしょ?そういうときはおはながオススメだよ!」
「嫌な事……まぁ、そうね。少し気分は悪かったかも。解るの?」
「うん!ママがそういうかおしてるの、みたことあるもん!」
「そうなんだ。じゃあ、ママに買ってあげた方がいいんじゃない?」
「ママはおはながうれたほうがうれしいんだよー。たくさんおはながうれたら、いっぱいほめてくれるし、なでてくれるからね!」
胸を張ってそう語る少女は、どうやら花を売って生計を立てているらしい。少し覚束ない言葉を含め、どう見てもまだ年端も行かない少女のようだが、こんな歳で働いているというのは、普通ではない。ジャンヌはふと、自分の子供時代を思い出して胸が痛んだが、それを少女に察せられないよう明るく笑ってみせた。すると、今度は別の方向から見知った声がする。
「大した商魂だ、君はいい商人になれそうだな。いくらだい?」
「あ、ソロ。おかえり」
「おにいちゃん、おねえちゃんのおともだち?えっとね、おはなは1ドルゴだよ!」
「そうか、ほら。お釣りはいいよ」
「えっ……?いいの?!」
「ああ、その代わり、あまり危ない売り込み方はするなよ?悪い大人もいるからな、気を付けて家に帰るんだぞ」
ソロはそう言いながら、丸めた10ドルゴ紙幣を少女の胸ポケットに差し込んで笑った。こういうキザったらしい所が彼の悪い所だ。また顔がいいので様になるのが尚更悪影響である。少女は子供らしからぬ表情で顔を赤らめて微笑み、「ありがとう」と大きな声で叫ぶとペコリと頭を下げてどこかへ走っていってしまった。
「あんな小さな子が働かなくてはいけないなんて、困ったもんだな」
「そう?私もあのくらいの歳の頃には一人だったわよ?」
「君と同じ苦労をするようなら余計にダメじゃないか」
「……そうかもね」
ジャンヌの場合、働いていたというよりも、生きるのに必死だったというべきなのだが、二人共そこは敢えて口にしないようだ。過去は変えられないのだから、今更言っても仕方がないということだろう。ジャンヌは黙ったまま、少女から受け取った花を手の中で遊ばせている。少しの沈黙の後、ソロが何気ない口振りで話を始めた。
「そういえば、モンドの事だが、官憲から30万ドルゴの賞金が出たよ。これで君の新しい剣と鎧を買えるだろう」
「え?そんなに?!なによ、アイツ、どんだけ余罪があったっての!?」
「さてな。詳しい罪状なんかは聞かせてもらえなかったが、もう少し後なら賞金の値が釣り上がってた可能性はあるな。……まぁ、これも巡り合わせだよ」
「そうよね。うん、解ってる」
ソロの言葉に、ジャンヌは納得して頷いた。もしも、ジャンヌがモンドを捕まえるのが数日遅ければ、確かに賞金額は上がったかも知れないが、代わりに誘拐された女性は助からなかっただろう。ジャンヌとしても今後の生活の為に金は欲しいが、人の命と天秤にかける訳にもいかないのだ。まだモンドの価値がそれほど高くないということは、被害者が少ないという証拠でもあるのだから、それを悔しいと思うのは違うとジャンヌ達は考えている。
常識外れなアウトローな生き方を選択したからこそ、そうした人の道からは外れないようにしたい。そう願って行動するのが、ジャンヌやソロという人間であった。
「ところでさ、今日はここに泊まるのよね?30万もあるんだから、少しいい宿にしない?」
「君の装備に金をかけると言ったばかりなんだが……まぁ、仕事の前だ。英気を養うのも必要か」
「やった!ソロってばわっかるぅ!ここへ来た時から気になってたのよね~。あの大きなホテル!どんなご飯が出て来るのかしら!あとはやっぱりお風呂よね~!」
「やれやれ、暗い顔をしてるばかりじゃなくていいが。現金だな、まったく」
先を行くジャンヌの背中を呆れたように見つめながら、ソロは一人呟いた。少女のお陰で喧嘩の後のわだかまりも消えたのは好都合だ。なんだかんだ言いつつジャンヌに甘い自分に気付き、ソロは少しバツの悪そうな顔をするのだった。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白い」「気に入った」「続きが読みたい」などありましたら
下記の★マークから、評価並びに感想など頂けますと幸いです。
宜しくお願いします。




