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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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誘拐犯を探せ

 それから数十分かけて、ジャンヌはひたすらその隠された足跡を追っていた。


 アーデの視界は単に視力がいいというだけではない。その眼は魔力を使うことで、対象を立体的に、様々な角度から見る事も可能だ。ただし、それは本来の主であるソロの方が得意な芸当であり、ジャンヌが同じ事をするには数倍の精神力を必要とし、体力も使うことになる。

 よって、たった100メートルほどその足跡を追うのに、これだけの時間がかかってしまったのだ。だが、そのお陰で確実に犯人に繋がる手応えはあった。


「ふぅ、少し休憩しようか。水の音がするから、近くに沢があるのね。沢……沢か」


 ジャンヌはアーデの視界から視線を外して目頭を押さえつつ、周囲の様子に耳を傾けた。人間が生きていくには、絶対に水が必要不可欠である。誘拐犯が何の目的で女性を攫ったのかは不明だが、人間の、しかも大人の女性一人を連れて簡単に山を抜けられるとは思えない。少なくとも隠された足跡から解るのは、犯人が一人であるということだ。女性がいなくなってからは、まだ一晩しか経っていないようだし、もしかすると、犯人はまだ女性と共に山で潜伏しているかもしれない。


 そう考えた時、敵が水辺の近くにいる可能性は十分に考えられた。そして自分の目で見てみると、沢へ降りる道は多少整えられていて、思ったよりもずっと近い。ここを通れば、安全に降りていけそうだ。ジャンヌはそこに一縷の希望を見出し、沢へと下る道を進んでいった。


 (これは、ビンゴね)


 沢へ降りて再びアーデの視界を借りると、今度はさっきよりもしっかりと、誘拐犯らしき存在の痕跡が見つかった。土の上とは違い、沢辺は石が多い。それを踏んだり砕いたりした跡は、流石に隠しきれないのだろう。しかも、その足跡は、ちょうど沢と接する場所にある、大きな洞穴へと繋がっていた。

 その穴はかつて、何か大きな獣が、巣穴として利用していたのだろう。人間が立って歩くにも十分すぎる高さと、二~三人が並んでいても歩けるほどの横幅がある洞穴だ。こんな所にわざわざ入っていくのは、命知らずな子供か、身を潜めていなければならない人間かのどちらかだろう。だが、少なくともここは子供の足で遊びに来られるような場所ではない。となれば、答えは一つだ。


 ジャンヌは洞穴の入口まで進むと、アーデに中の様子を見させた。真っ暗な洞穴の中は、外からジャンヌの目で見ても何も見通せない。しかし、夜目の利くアーデなら話は別だ。


「思ったよりだいぶ広い洞窟ね、ここ。……もしかして、昔存在したっていうダンジョンってヤツ?」


 ジャンヌは思わぬ発見に驚きつつ、洞穴よりも規模の大きい洞窟の中へと足を踏み入れた。


 その昔、この(せかい)にまだ冒険者という職業の人々が世に溢れていた頃、俗にモンスターと呼ばれる怪物達の棲み処として存在していたのがダンジョンだ。冒険者達はこぞって人類の天敵であるモンスターを倒し、皆が名を馳せることを夢見て世界中を旅してまわったという。その結果、モンスターは駆逐され人類に未踏の地はなくなった。今では魔獣と呼ばれる、通常の獣よりも強力な生物が残るのみであり、冒険者達の大半はその役割を終えた。その代わりにMIRA(賞金稼ぎ)と呼ばれる者達になったのだ。

 この洞窟は、そんな時代の遺物かのように思える造りをしていて、ジャンヌはただ圧倒されるばかりであった。

 

 ちなみに、ダンジョンは最深部にダンジョンコアと呼ばれる心臓部があり、そこからモンスターを生み出したりしていたらしい。ソロ曰く、ダンジョンというのは、それ自体がモンスターを産む巨大な生物だったのではないか?ということだ。ジャンヌはそれを聞いて素直に感心したが、納得はしていない。


「これがもしダンジョンだったら……なんてね。ソロは喜ぶかもしれないけど、私は別になぁ。お金にならなさそうだし。それより、ここに攫われた人がいてくれればいいんだけど」


 ジャンヌが独りで軽口を叩いているのは、内心では緊張しているからだろう。ちなみに、アーデはジャンヌの言葉を聞いてある程度理解しているが、話し相手にはなってくれないようだ。言葉とは裏腹な慎重な足取りで、ジャンヌ達は洞窟の奥へと進んでいく。


 いくつかの曲がり角を曲がり進んだ先で、ジャンヌは前方にゆらめくものを見つけた。壁に映ったそれは影だ。どうやらこの先はまた曲がり角になっていて、そこで火を焚いて誰かが潜んでいるらしい。よく目を凝らしてみると、影は二つあって、一つの影は動かずに佇んでいる。ごそごそと動いている方が、もう一つの影を世話しているのだ。


 (あれが女性を攫った犯人かしら?……何をしてるのかなんて、考えたくもないわね……!)


 金目当ての誘拐でないとしたら、人攫いの目的は限られている。攫われたのが若い大人の女性ということもあり、ジャンヌは嫌な想像をして顔を歪ませた。女性が殺されていなければいいが、考えてみれば今まさに()()()()()()()()()()()()()()の可能性もあるのだ。そんな想像に憤りつつも、ジャンヌは努めて冷静に、その現場へ忍び足で近づいていった。




 

 「……ちっ、面倒くせぇ。女を攫うだけならともかく、こんな辛気くせぇ場所で受け取りを待たなきゃいけねーとは」


 焚火に薪をくべながら、男が呟く。その隣には、猿ぐつわを噛まされ、手足を縛られた若い女が怯えた表情で座らされていた。数日前、男は街で奇妙な依頼を受けた。条件に合いそうな若い女を捕まえて攫ってくれば、高額の報酬を用意するという依頼だ。話半分に受けてみれば、本当に前金が払われたので、男は喜んで条件に合う獲物を探す事にした。


 普通に働けば稼ぐのに数年はかかるだろう金額の報酬に目がくらんだのも束の間、依頼人は何故か女を捕まえた後、迎えに行くまでこの場所で女と一緒に待機するよう要求してきた。一応、女に手を出すなとは言われていないが、もしも傷つけたり死なせてしまったりして、やり直しを命じられるのも厄介だ。仕方がないので、男は女の面倒を最低限看てやっている。


「おい、姉ちゃんよ。命が惜しけりゃそのまま大人しくしてな。まぁ、騒いだ所でこんな場所じゃ誰も助けになんか来てくれねーだろうがな」


 そう言いながらペンペンと剣先で頬を叩くと、女は恐怖のあまり涙を流して震え、頷いた。男は先述の通り女を殺す気は全く無いのだが、こうして脅しておいた方が楽だろう。既に合図を出し、依頼人が迎えに来るのは今夜と聞いている。このままあとほんの数時間待つだけで、大金が舞い込んでくるのだ。欲望を満たすのならば、その金で満たせばいい。そう考える程度に、男は理性的であったようだ。


「金が入ったら何をするかな。久々に旨い物でもたらふく食って、その後は……ククク、楽しみで仕方ねぇぜ」


「……あら、ゲスの割にはずいぶん礼儀正しいのね」


「あ?!な、なんだぁっ!?げぶっ!」


 突然背後で声がして、男は慌てて振り向いた。と同時に、その顔面に鋭い蹴りが叩き込まれる。もちろん、蹴りを入れたのはジャンヌだ。どうやら彼女が想定していた状況よりは、被害者の状態は悪くなかったので礼儀正しいと感じたらしい。とはいえ、一切の手加減なく、割と殺意マシマシで蹴りを入れていたので、怒りはしているようだが。


 蹴飛ばされた男は、数メートルほど横に吹き飛んで止まった。そして、しきりに頭を振りながら立ち上がってきた。


「驚いた、ずいぶん頑丈な頭と首をしてるじゃない。私、手加減なんかしなかったのに」


「ふ、ふざけやがって……っ!こちとら元軍人だぞ。テメェみてぇな女のやわな蹴りで俺様を殺せるもんかよ!」


 男はギラリと鋭い視線で、ジャンヌを射抜くように睨みつけた。そうして火に照らされた二人の影もまた、闇の中で対峙している。

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