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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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大逆転

「ガァ、ゥオォッ!」


 まず先に動いたのは、ヴォルフの方である。昨晩の戦いで、彼はジャンヌを蹴散らしたことを覚えているのだ。昨晩、一度は勝った相手に後れを取るなど、夢にも思っていないのだろう。その瞬間、オルソラの目から見て、まるでヴォルフが巨大化したように見えたほどの凄まじい勢いで林から抜け出て、ジャンヌに肉迫すると、その太い前足から生えた鋭い爪でジャンヌを引き裂こうとした。


「そこっ!」


 だが、ジャンヌはその攻撃に怯むことなく、一歩前に出て、爪ではなく前足を受け止めた。それでも体格からみて相当な力の差があるはずだが、ジャンヌは決して力負けをしておらず、地面に足を沈ませながらもしっかりと受け止めている。


「グググ……!」


「昨夜とは違うのよ、こっちもね……っ!」


 そもそも、ジャンヌが昨晩ヴォルフにしてやられたのは、不意打ちに近い状況があったからである。森の魔獣退治を引き受けたソロとジャンヌだったが、今回は彼女が単独で魔獣退治をすることにした。当初依頼人から受けた依頼内容では、小型のヴォルフの群れを討伐するだけだったからだ。本来、小さな群れであれば単独でも討伐は十分可能である。しかし、蓋を開けてみれば、森の奥には群れのリーダーである大型のヴォルフがいて、初手で奇襲を食らい武器を破壊されてしまった。

 夜間かつ森の中という動きを制限される場所で、素手で魔獣と戦うのは難しい。ましてや、ジャンヌは()()()()から魔法を使う事が出来ない為に、今のように肉弾戦か武器を使った格闘戦に持ち込むしかないのだ。このヴォルフを相手に体格で不利なのは言うまでもなく、その上で多勢となれば逃げるしか手段はなかった。

 だが、今は昼間で、周囲は森と違って広い街外れである。状況的には十分勝算が見込めるはずだ。何よりも、この戦いには200万ドルゴという大金が掛かっている。この仕事を達成すれば、しばらくは何不自由ない左団扇の暮らしが待っているのだ。その為にも、絶対に負ける訳にはいかないという思いが、ジャンヌの背中を強力に後押ししていた。


 (200万ドルゴもあれば、着替えだけでなく新しい剣と鎧も買える。それに、それに!三食+お風呂付の宿に泊まれるっ……!このチャンス、絶対に逃がさないっ!)

 

「ええいっ!200万んッ!」


「ガッ!?」


 ジャンヌは絶叫しつつ、受け止めたヴォルフの右前足を掴むと、全身の力を振り絞ってそれを持ち上げ、スイングするようにして強引に投げ飛ばした。街外れだけあって近くに家屋などはないが、ヴォルフの巨体が宙に舞い、街を守る外壁にぶつかって壁が崩れてしまう。恐ろしいパワーだ。ヴォルフはよろめきながら立ち上がり、信じられないモノを見る様な目で、ジャンヌを見つめていた。


「フゥ……!まだやるつもり?今なら逃げても追いかけたりしないわよ」


「グルル……!」


 ヴォルフは元々、非常に知能の高い魔獣だ。声帯が違うので喋る事は出来ないが、人間の言葉はある程度理解しているし、状況を高度に判断できる頭脳もある。だが、それ以上に彼らはプライドの高い生物でもある。群れのリーダー個体として、また森一番の大型種に成長した自負と経験、それに、昨晩の爆発で吹き飛んでしまった仲間の仇を討ちたいという強い想い。何よりも、圧倒的にサイズ差のあるジャンヌを相手に、おめおめと尻尾を撒いて逃げるという選択肢を取る事は出来なかったのだ。


 そして、次の瞬間、ヴォルフは自らの魔力を体外に展開させると、それを矢のような形に収束させて撃ち出してきた。それは、通常のヴォルフにはあり得ない攻撃手段だった。

 

「へっ!?ちょ、ちょっとっ!」


 これには流石のジャンヌも面食らって驚愕するしかなかった。いかにヴォルフが知能の高い魔獣とはいえ、自らの魔力そのものを武器として放つなど前代未聞だ。基本的に、この星の生き物は皆総じて高い魔力を有しているものの、ヴォルフがその魔力を魔法や武器に変化させたなどというのは聞いたことが無い。精々、身体能力を魔力で大幅に底上げする程度が関の山だというのが一般的なのだ。

 だが、どうやらこの大型のヴォルフは、その体格の良さも含めてイレギュラーな個体であるらしい。こうなると、魔法の使えないジャンヌにはかなり厳しい相手である。


 ジャンヌは咄嗟に魔力の矢を躱したものの、それを目の当たりにしたヴォルフは自らの放った攻撃の威力と効果を本能で理解した。これはジャンヌに対して極めて有効な攻撃手段だと、ヴォルフは気付いたようだ。そして、ヴォルフは天性の狩りの才能を持つ魔獣である。たった今身に着けたばかりの技術であるはずが、それをすぐさま完璧な形で扱い始めていた。


 ヴォルフは空中に発生させた魔力の矢をジャンヌに向けて撃ちだすと同時に、自らの巨体を利用して突進攻撃を仕掛けてきた。ヴォルフの身体はジャンヌを軽く上回る3メートルほどの巨体であり、全身の筋肉を使って体当たりをしてくるだけでも相当な破壊力がある。


「くぁっ!?」


 魔力の矢を避ける事に意識が向いていたジャンヌは、その矢を追いかけるように突撃してくるヴォルフの体当たりを躱しきることが出来なかった。真正面から鳩尾付近にヴォルフの一撃を受け、ジャンヌの身体が成す術もなく吹き飛ばされる。並の人間ならば、それだけで即死してもおかしくないほどの破壊力だったが、鍛えられたジャンヌにとっては、まだ必殺の一撃ではない。しかし、何度も受ければ確実に命はないだろう。それほどの威力だった。


 勝利を確信したヴォルフはニヤリと口角を上げ、更なる追撃に出る。今度は複数の魔力の矢を空中に展開しつつ、体当たりを放ってきたのだ。その破壊力の高さを身を持って体験したジャンヌはヴォルフの攻撃を躱す事に意識を集中させる。ここで先程と違ったのは、魔力の矢がヴォルフの体当たりからワンテンポ遅らせて放たれたことだ。

 ジャンヌはヴォルフの体当たりこそ避ける事に成功したものの、遅れて飛来した魔力の矢を完全に避けることは出来なかった。それでもなんとか身を捻り、二発の矢を回避しただけでも大したものだろう。だが、最後の一発は、完璧なほどジャンヌの腹に突き刺さっていた。


「か、はっ……!」


 直後に大量の吐血をし、ジャンヌの服が朱に染まる。煤だらけの状態でなければ、間違いなく目立つ血汚れだが、今は服自体が黒ずんでいるため、逆にあまり目立たない。しかし、一部始終を目の当たりにしていたオルソラはその光景に絶望するしかなかった。この凶暴なヴォルフが、ジャンヌを仕留めただけで満足するだろうか?いや、確実にそれだけでは飽き足らず、次の獲物を探すだろう。そしてそれは、目の前にいる自分だと確信した、その時だ。


「……やれやれ、戻ってくるのが遅いと思ったら、こんな所で何をやっているんだ」


「っ!?」


 オルソラの背後に立ってそう呟いたのは、アーデを肩に留まらせたソロだ。彼は血を吐き、膝立ちになっているジャンヌを心配するどころか、それがさも大した事ではないという様子で見つめていた。


「お、お前はさっきの店にいた……それよりお前、あの女の仲間じゃないのか!?アイツ、やられてしまったぞ!」


「おや、自分の心配よりジャンヌの心配とはお優しいことだ。だが、心配いらないさ。()()()()ならな」


「なに……?」


 ソロの言葉の意味が解らず呆然とするオルソラだったが、彼はすぐにその意味を知る事になる。血を吐き、崩れ落ちたはずのジャンヌがゾンビのようにゆっくりと立ち上がったからだ。しかも、それまで暗緑色に輝いていたジャンヌの瞳が、真紅に染まっている。そして、その紅い眼の中に金色の光が波打っていた。


「な、なんだ!?あれは」


「……お前さんが力を得たと喜んでいたように、ジャンヌもまた加護を持っている。その加護の名は『大逆転』、彼女が真に追い詰められた時だけ発動する力だ。実に使い勝手の悪い加護だが、その効果は絶大だ。彼女があの力を発現させれば、あの程度の傷など何の問題もない。見ろ」


 ジャンヌの身体に突き刺さっていたはずの魔力の矢はいつの間にか消え去り、傷口すらも残っていない。それだけではなく、彼女の全身からはほとばしるような魔力が黄金の光となって溢れ出ていた。そして。


「ガウゥ……ッ!?」


「ハァァァッ!」


 立ち上がったジャンヌに気付き、ヴォルフが再び牙を剥こうとしたその時、ジャンヌは既にヴォルフの懐へ飛び込んでいた。溢れんばかり……いや、実際に溢れ出すほどの莫大な魔力を右手に集中させ、目にも留まらぬ速さでアッパー気味にヴォルフの顎を殴り抜くと、ヴォルフの身体は遥か空の彼方まで吹き飛んで行ってしまった。

 

「あ、あわわ……」


「とまぁ、こんなものだ。……さて、大人しく捕まるか、それとも戦うか、どっちにする?」


 ソロが爽やかな笑顔でオルソラの肩を叩くと、腰を抜かしたオルソラはそのまま意識を失った。二人はこれ幸いにとオルソラを捕らえて商人組合に引き渡し、無事、賞金の200万ドルゴを手に入れる事に成功したのだった。


 

 だがその翌日、大金を手にして喜ぶジャンヌの元に、壊してしまった街の外壁の修理代の請求書が届いた。その額は、オルソラを捕まえて得た賞金とほぼ同額だったという。

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― 新着の感想 ―
まずは新連載ありがとうございます! お待ちしていました!! 今回は久々の王道系(能力こそピーキーだけど)な主人公ではないですか!? ジャンヌからは狛のような周りを元気にさせる主人公の気配がします。相…
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