守るも攻めるも
「ってことは、あなたが鍛冶の仕事をしてないのは奴らの嫌がらせってこと?」
「まぁ、それもあるだろうな。街の外縁部が開発されて、外から来る客がこっちへ流れて来なくなったのもあるが、ガンディーノが街の実権を握ってからは、すっかり鍛冶仕事を頼みに来るヤツはいなくなっちまったからな」
「そんな……何てヤツなの!本当にムカつくわね、そいつ!」
ボッシュの説明を聞き、トグサ達……いや、その上に立つガンディーノという男の暴君ぶりを理解したジャンヌは、この場にいる者達がどうしてこれほど熱狂しているのかがようやく理解できた。彼らにとってガンディーノは街の支配者であり、逆らえない相手なのだ。だが、ジャンヌ達は街の人間ではなく流れ者だ。そういうしがらみのない人間でなければ、ガンディーノ達に一矢報いる事は出来ないという事なのだろう。皆、胸がすく想いで浮かれるのも、当然である。
(ただ、こうなると奴らがどんな報復をしてくるやら……ジャンヌが手を出した以上、俺達も無関係とは言えないしな。少し、考えておく必要があるか)
ソロは一人、冷静に自分達の置かれた状況とガンディーノ達の反撃に意識を向けていた。連中がただのチンピラでないのなら、間違いなく何らかの報復があるはずだ。かといって、先手を打って相手を叩く訳にもいかない。少なくとも話を聞く限り、敵はこの街のほとんどを牛耳る権力者だ。例え横暴であってもこの街における正当性は未だ彼らの方にある。真正面からぶつかれば、確実に立場が悪くなるのはこちらだろう。最悪の場合、こちらが罪人としてNeckにされる可能性すらあるのだ。そうならない為の策を考える必要があると、ソロは思っていた。
そんな中、ワイワイと騒ぐ客達を横目に、ボッシュはジャンヌとソロに向き合って、改めて頭を下げた。
「ジャンヌさんとソロさんだったか、アンタ達はMIRAだって言ってたな?だったら、頼みがある。少しの間でいいから、娘を、ジーナの護衛をしてやってくれないか?」
「護衛?ジーナちゃんの?」
「ああ、脅し文句とはいえ、奴らはジーナに危害を加える様な口ぶりだった。実のところ、奴らが本気で仕掛けてきたら、とても俺だけじゃ娘を守れねぇ。しっかり金は払うし、この店の二階には空き部屋もあるからそこに泊ってくれてもいい、もちろん食事もだ。だから、頼む!」
「それは願ってもない話だけど……ソロ?」
「……ふむ」
ジャンヌとソロはコンビで活動するMIRAだ。正確に言えばそこに使い魔である梟のアーデを入れた二人と一羽のパーティなのだが、彼女達の間にはいくつかの決められたルールがある。その内の一つが、仕事を引き受けるかどうかを判断するのはソロの役目だ、ということだった。これはジャンヌの頭や判断力が悪いという訳ではなく、元々、二人がコンビを組む事になった時からの決め事だ。二人が出会った時、ジャンヌはまだ15歳で、ソロは二十歳を超えていた。この国の成人は18歳なので、ソロはジャンヌの保護者兼、パートナーとして行動の是非を決める立場になったのだ。そもそも冷静沈着でリーダーとしての気質を十二分に持っているソロに任せれば、ジャンヌとしても安心なので、この取り決めは今でも残っている。
「俺達にとっては悪くない話だが、ボッシュさん、少しの間というのはいつまでなんだ?」
「一ヵ月……いや、二週間ほどでいい。それまでに何とかする」
そう語るボッシュの目には、強い決意のようなものが宿っているように見えた。たった二週間で彼が何をするつもりなのかは不明だが、そのくらいこの街に滞在した所で二人には何の問題もない。むしろ、宿代が浮いて給料が出るのならば御の字だ。それに何より、ソロもジャンヌも、ここで彼らを見放す事など出来るはずがなかった。ジャンヌは既にトグサに直接手を出してしまっているし、ここへ来た理由であるハバキリを収める鞘を手に入れる為にもだ。
「なら、こちらの頼みも聞いてもらえるか?ボッシュさん。俺達はジャンヌの持っている刀の鞘を作って欲しいんだ。もちろんその分の金はちゃんと払う。どうだ?」
「鍛冶の仕事か……解った。久し振りだが、仕方ねぇ、引き受けるぜ。その代わり、必ずジーナを守ってくれ、頼む!」
客達が熱狂に沸く中で、ボッシュは静かにそう言うと、深々と頭を下げた。ザカロという鍛冶屋が言っていた通り、彼が頑固で偏屈なら、人前で他人に頭を下げるなどかなりの屈辱であるはずだ。だが、ボッシュは人目をはばからずソロとジャンヌに頼み込んでいる。彼にとって、この店と娘のジーナがどれだけ大切な存在なのかがよく解る行動だろう。ソロは彼の行動にいたく感銘し、敬意を表してジーナの護衛を引き受けることにしたのだった。
その日の夜、街から少し離れた丘の上に建つ、大きな屋敷。街を一望するその場所に建つ屋敷は、巨大な門や屋敷をぐるりと囲む大きな塀までもが華美な装飾で彩られ、成金趣味が全面に押し出た造りだ。一方、屋敷の周辺には何人もの武装した男達がいて、屋敷の見た目とは裏腹にかなり物々しい雰囲気が漂っている。その中の一室で、顔中に包帯を巻いた男と、少し痩せた中年の男が顔を突き合わせていた。
「なぁにぃ!?いきなり出てきたよく解らん女にやられただぁ!?テメェ、どの面下げてそんな報告しにきやがったんだ、トグサ!」
「へ、へい!すいません。まさかあんな女がいやがるとは……!」
どうやら顔面包帯男は、昼間ジャンヌに顎を蹴飛ばされたトグサという男のようだ。逃げ出した時にはまともに喋れなかったはずだが、魔法による治療と包帯の固定でなんとか話せる程度にはなったらしい。だが、その包帯まみれの痛々しい姿は余りにも無惨である。相対する中年の男……ガンディーノは、そんな部下の情けない姿に憤るばかりで、少しも心配している様子はなかった。
「こんのバカ野郎がっ!あとはボッシュの店さえ手に入れりゃあ、この街の全てが俺様のものになるってのにしくじりやがって!」
「す、すいません!勘弁してくださいっ!」
「ったく!しかし、女か……ボッシュの野郎とどういう繋がりかは知らねぇが、これは逆にチャンスかもしれねぇな」
「へ?な、何がです?」
「テメェは本当に目端の利かねぇ野郎だなっ!流れ者の用心棒となりゃ、MIRAに相場が決まってるだろうが!」
「た、確かに!でも、ありゃあ相当腕の立つ奴らですぜ。あんなのが敵に回ったら、チャンスどころじゃねえんじゃ?」
「このスチパが!いいか?MIRAって奴らはな、総じて金も身寄りもないようなはぐれ者がほとんどよ。奴らは金の臭いに敏感だが、その分、金で転ぶヤツも多い。どうせそいつらをボッシュの奴が雇ったんなら、ろくな報酬じゃねぇだろう。……なら、それ以上の金でこっちに引き込んじまえば」
「な、なるほど!流石はガンディーノ様だ!確かにそれなら!」
「ふん!テメェもこのガンディーノファミリーの一員なら、こんなこたぁすぐ思いついて当然だぞ。……それよりもトグサ、覚えとけ。俺は無能なヤツは嫌いだ。次にもし同じような失敗してみろ、ただじゃおかねぇぞ。解ってるな?」
「ひぃっ!?わ、解ってますううううっ!」
ガンディーノに脅されたトグサは震え上がり、飛び上がるようにして部屋を飛び出していった。部屋に残ったガンディーノは高級そうなソファにどっかりと腰を下ろすと、酒の入ったグラスを傾けながら窓の外から街の明かりを見下ろし、呟いた。
「しかし、MIRAか。奴らがもし本当にMIRAを雇ったんだとしたら、好都合だぜ。こっちの手駒ももうすぐ到着する。ボッシュ……今度こそ、テメェから何もかもを奪ってやる。今に見ていろ……!ククク、フヒャヒャヒャヒャ!」
そう呟いてグラスの中の酒を飲み干し、ガンディーノが悪辣に笑う。彼のその姿を、窓の向こうの夜空に浮かぶ三つの満月が静かに見つめているようだった。
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