襲来、ガンディーノ一味
「よお、邪魔するぜぇ~!」
ズカズカと足音を踏み鳴らして入ってきた男達は、いずれも明らかに挑発的な態度を取っていた。彼らの姿を見た途端、客達は誰もが警戒感を露わにして、静かにその動向を見守っている。しかし、男達はそれを意に介さず、真っ直ぐにカウンターへと進んでいく。
「い、いらっしゃいませ!お好きな席に……」
「ウルセーぞ、ガキ。しっかし、テメーら、昼間っから酒盛りたぁずいぶんお楽しみじゃねぇか、なぁ?」
いかにも荒くれ者といった風体の男達の中で、リーダーと思しき男が怒鳴り声を上げ、嫌味ったらしく周囲の客達に言葉を投げ掛ける。怒鳴られたジーナは震えてしまっているし、客達も苛立ちを隠さずに男達を睨みつけているが、何故かそれ以上の荒事にはならなさそうだ。すると、様子を見ていた店主が静かに声を上げた。
「おいトグサ、その辺にしとけ。コイツらはお前らが強いた無茶な深夜作業の為に一晩中働いて、ようやく一息吐いている所だ。お前達に文句を言われる筋合いはねぇ。それより、お前らの飲むような高級酒はここにはないぜ。客じゃないならとっとと帰れ」
「おいおい、つれねぇこと言うんじゃねぇよ、ボッシュさんよぉ。お前の店には安酒しか置いてねぇことくらい解ってるが、そんなお前に良い話を持ってきてやったんだぜ?もっと喜べよ」
「いらん。お前らの話なんぞ聞いてもろくなことが無いのは解り切っている」
「へへっ、素直に聞いておいた方がいいと思うぜ。かわいい娘の為にも、なぁ?」
「……なんだと?」
冷静であろうとしていた店主のボッシュだったが、流石に娘を巻き込むような台詞を言われては無視する事は出来なかったようだ。ジャンヌ達の目から見ても、この男達は何をしでかすか解らないタイプだ。目的の為なら娘……つまり、ジーナに危害を加える事も平然と行うだろう。怒りを浮かべた視線で睨みつけるボッシュに対し、トグサという男は不必要なほどに顔を近づけて囁いた。
「お前のこの店、俺達に売れや。今ならガンディーノさんが二割増しでイロ付けてくれるって言ってんだ。悪い話じゃねぇだろ?お前だって娘抱えたまま、こんな店続けた所で将来はたかが知れてるはずだ。本業も上がったりだしな。それよりまとまった金を受け取って、王都へでも出て行きゃいい。そうすりゃかわいい娘も学園へ通わせてやれるし、大して儲かりもしねぇこんな店をやってくより裕福に暮らせるはずだ。そうだろ?」
「ふざけるなっ!この店は、俺と女房が必死になって築いた大事な場所だ。テメェらの好きにさせてたまるか!」
「お、お父さん……!?」
「おいおい、そう興奮すんなよ、ボッシュ。いいのか?これ以上ガンディーノさんに逆らって……俺達が優しく話してる内に乗った方がいいと思うぜ。娘の安全を守りたいならよ」
トグサはそう言うと、恐怖で動けなくなっているジーナにいやらしい視線を向けた。ボッシュがどれだけこの店を大事に考えていても、娘と天秤にかけられるはずもない。彼が怒りの余り、思わずその手から血が滴り落ちるほど握り締めたその時、黙って様子を窺っていたジャンヌが声を上げてトグサへ近づいた。
「ねぇ、ちょっと」
「ああ?なんだこのア……まがばぁっ!?」
「あっ!?」
「あら、ごめんあそばせ。あんまり汚い話ばっかり聞かされたからつい手が出ちゃったわ」
「な、何が手が出ちゃった、だ!思いっきり顎を蹴っ飛ばしやがったじゃねぇか!?トグサさん、大丈夫すかっ!?」
蹴り飛ばされたトグサの仲間達が騒めく中で、ジャンヌは手を口に当てて謝罪してみせた。しかし、その口元に笑みが浮かんでいるのを隠せておらず、丸わかりだ。その内に、蹴とばされて倒れたトグサがヨロヨロと身体をよろめかせて立つと、呂律の回らない口で怒り始めた。
「は、はひしやふぁる……!?ほれはひを、ひゃれはとほもっへ……」
「ええ?何を言っているのか解らないわ。まぁ、言っていることが解っても聞く気はないけどね。私、アンタ達みたいなクズが大っ嫌いだから」
「ひっ!?」
ジャンヌが凄味と共に一歩踏み出すと、その威圧だけで男達はすっかり震え上がった。この手の輩というのは、自分が暴力を振るう立場にいる間は強いのだが、いざ反対に暴力を振るわれると非常に脆い。本当に強く厄介な悪党ならば、有無を言わさずジャンヌに襲い掛かっていただろう。それ以前に彼らが悪知恵の利く悪党ならば、ボッシュに脅しをかけるにしてももっと巧妙な手口を使ってくるはずだ。その意味で、彼らは頭も悪い正真正銘の小物である。
そもそも、半ば不意打ちとはいえ仲間がやられたという事は、その時点で戦闘状態に入った事を意味するものだ。何をするなどと問いかける事そのものがナンセンスで、実戦経験の少ない証拠と言えるだろう。事実、既にジャンヌは次の獲物に狙いを定めて行動を開始していたのだから。
「はぶっ!?」
「ほげぇっ!」
「ぐわぁっ!」
ハバキリを振るうまでもなく、ジャンヌはあっという間に三人の男を殴り倒してみせた。残ったのは最初にやられたトグサを入れても四人だけだ。恐らく、やられた本人でさえ何が起こったのか理解していないだろう。周りで見ていた客達だけでなく、ボッシュやジーナも唖然として、その光景に見入っているようだった。
「……呆れた、素人もいい所じゃない。一端のワルみたいな恰好してる癖に情けない、弱い者いじめばっかりして自分が強くなったって勘違いしてるパターンね。いい?アンタ達、これ以上この人達にちょっかい出すようならこの私が黙ってないからね。覚えときなさい!」
「は、はわわ……!?ほ、ほふぉえへやふぁれっ!」
「なーにがはわわよ、いい歳した大人が気持ち悪い。……ほら忘れ物、よっ!」
仲間を見捨てて逃げていくトグサに向けて、ジャンヌは彼が落とした靴を拾って思いっきり投げつけた。それがドアを開けようとしていた彼の後頭部にクリーンヒットして、小気味良い音が店内に響く。その一部始終を見ていた客の誰かが笑うと、それが一気に広まって店内は大爆笑の渦に包まれていき、残っていた者も起き出してトグサ一味は屈辱に塗れた這う這うの体で逃げ出していった。
「ふん、一昨日来なさいっての。……大丈夫?怖かったわよね」
「は、はい。ありがとうございますうぅ……!」
ジーナが泣きながらジャンヌの胸に飛び込むと、客達の笑い声が歓喜の叫びに変わった。どうやら、彼らもトグサ達の行いには腹に据えかねるものがあったらしい。突然の狂喜にジャンヌは驚いた顔で辺りを見回している。そんな中で、ただ一人ボッシュだけは、目の前で起きた光景を信じられない様子で見つめていた。
「あ、あんたら、一体……」
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私、ジャンヌ・パルテレミー。MIRAよ。で、こっちが」
「バーソロミュー・サマーヘイズです。ボッシュさん、でしたか?お困り事ならお話を聞かせてもらえれば。今のヤツらは何者なんです?」
「あ、ああ……奴らは、この街を仕切ってるガンディーノってヤツの子分共だ。どいつもこいつも親分の権力を笠に着て、無体な真似をしてまわる、まあろくでもない連中だ」
「ガンディーノねぇ。名前はずいぶん立派だけど、子分を見る限りじゃ大した事無さそうね」
「そうだな。ガンディーノは元々、この街を治める長の一人息子でな。昔から小さな悪事をしちゃあ人に迷惑ばかりかけていやがった小悪党さ。長自身は決して悪い人じゃなかったんだが、遅くに出来たガンディーノを甘やかす所があって、奴も調子に乗ったんだろう。だが、一年前、長が病気で倒れちまった事で、状況が大きく変わっちまった」
「……なるほど、悪童がそのまま権力を得て悪性が肥大化したと」
「ああ、鉱山の監督権と経営権を引き継いだガンディーノは、近隣の村や街からも働き手を搔き集め、鉱山を24時間稼働させ始めたんだ。その上、それに反発する人間を抑える為、同時にあちこちからチンピラ紛いの不良共を寄せ集めて自分の配下にまとめやがった。さっきのトグサ達は、そうやって集められた連中なのさ」
「なんというか聞けば聞くほど、こすっからい連中じゃない。でも、それがどうしてこの店を欲しがるわけ?」
「ガンディーノは鉱山だけじゃなく、この街で働く人間達全てを手中に収めたいらしい。外からの客向けだった小さな食堂から安宿に至るまで、権利を買い取り、片っ端から利益を吸い上げている。昔は無かった娼館を建てたのも、労働者の懐から根こそぎ金を巻き上げたいからだ。街の利益を一手に引き受ければ、自分が労働者に払った金も還元されるようなもの……という腹なんだろう」
ボッシュは、吐き捨てるようにそう言うと顔をしかめた。もしかすると、彼には他にも、個人的にガンディーノと因縁があるのかも知れない。ソロは自分が予想していた以上の面倒に巻き込まれた事を感じ取り、腕を組んで何かを考え込むのだった。
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