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光煌の逆転姫~その女、追い詰められるほど煌めき輝く~  作者: 世界


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底知れぬ刀

 エルダートレントの討伐から一週間が過ぎた頃、ジャンヌ達は無事、鉱山都市ドルトへ到着していた。サシャ達の住んでいたパロウからドルトへは、通常ならばおよそ五日ほどで到着する距離だったのだが、結局その二倍ほどの時間がかかってしまったのは、途中で旅の路銀稼ぎのために仕事をこなしていたからである。

 というのも、ドルトへ行く最大の目的であるハバキリの鞘を作る為には、手持ちの金では心許なかったからだ。


 パロウを出発する前に下りたドゥガンの賞金10万ドルゴは、サシャを巻き込んでしまった事への詫びとして、その半分を置いてきた。ハバキリのお陰で、ジャンヌが新しく剣を新調する必要はなくなったものの、五万ドルゴは一ヵ月の生活費程度の金額である。決して少ない金額という訳でもない額だが、旅をして物を買うにはやや厳しい金額だ。

 

 そういった事情もあり、旅の合間にトレント討伐依頼だけでなく、迷いキャツ()の捜索だったり、隊商の護衛だったりという細々とした依頼を受けてきた。それによって時間がかかってしまったのである。

 それらに加えて、野宿などをして支出を抑えた結果、手持ちの金額はパロウを出る前の4倍ほどまで増やす事が出来た。これならば、納得のいく鞘を買って、ドルトでホテルに泊まるくらいできるだろう。


「着いたぁ!ここがドルトね!鉱山都市って聞いてたけど、割と綺麗じゃない」


「ここには国内の様々な場所から、業者が買い付けに来るらしいからな。観光地とまでは行かないが、外部の客に対するもてなしも重要なんだろうさ」


 街に入る手続きを済ませ、二人と一羽はドルトの中を進む。外敵を阻む分厚い防壁を抜ければ、そこは和やかな雰囲気が漂う美しい街であった。鉱山都市と聞き、ジャンヌはどこか粗野で荒々しい街を想像していたようだが、予想していたよりも洗練された街並みである。キョロキョロと視線をあちこちに向けると、ソロの言う通り、商人達と思しき集団が何人も闊歩していて、パロウにも負けない賑やかさだ。


 ドルトが有するテムト鉱山は、品質のいい鉱物が数多く採取できると有名な鉱山である。主に産出されるシャルバ()やダレイン鉱といった金属は、日用品から武具・工業製品に至るまで幅広く使用されていて、国内外にも流通するほどの品質の良さを誇るものだ。また、この街にはそれらを加工する職人達も集まっていて、街の規模はかなり大きいと言ってもよい。

 ジャンヌ達がいるのは、そんなドルトの外縁部に位置する、商店が立ち並ぶエリアだ。ここは外から来た客に対応する為の店が多く、品揃えも豊富である。その中でも一番大きな鍛冶屋へ、ジャンヌ達は入っていった。


「あぁ?オーダーメイドで鞘を作れだぁ?!」


「ええ、この刀に合う鞘を作って欲しいんだけど、どう?」


 筋肉質で背の低い鍛冶屋の主人が声を荒げて答えたが、ジャンヌはその威圧感たっぷりの言葉などどこ吹く風で、ハバキリを主人に手渡した。初めは不機嫌そうだった主人も、やはり職人としての性なのか現物を手渡されれば黙っている事は出来ず、巻かれた白布を丁寧に剥くと、食い入るようにハバキリを観察し始めていた。

 「おお」と何かに感心したり、「ふむふむ」「むぅ」と唸るような声を上げつつ、主人はハバキリ全体をつぶさに観察した後で、天を仰いでボソリと呟く。


「……ダメだな、こりゃ」


「へ?ちょ、ちょっと待ってよ!ダメって、何が?!」


 すっかりハバキリを自慢の一刀と思っていたジャンヌは、その予想外の返答に素っ頓狂な声を上げた。多少ワガママな所はあるが、ハバキリは間違いなく名刀と言っていい部類の業物であるはずだ。武器なのにワガママというのはよく解らない評価だが、ハバキリが生きている以上、そう表現するしかない。だが、それを正直に言える訳もなく、ジャンヌはただ質問する事しか出来なかった。


「そうだなぁ、実際に見た方が早いだろう。どれ……よく見とけ」


 そう言うと、主人は作業場に置いてあった金敷に近づくとおもむろにハバキリを振り下ろした。普通なら、片手で特に力も腰も入っていない雑な動きでは硬い金敷を切る事など出来はしない。精々、弾かれて終わりのはずだ。だが、そんな何気ない行為でさえ、ハバキリは驚くべき結果をもたらす。


「あ!ウソ。金敷が、真っ二つに!?」


「……ま、こうなるわなぁ。言っとくが、コイツはウチで一等硬い金敷だ。例えダルトヴァン製のハンマーを使ったとしても傷一つ付かんだろう。それがこれだ。こんなものを納める鞘なんぞ、ウチじゃあ作れんわ!下手をすりゃあ、鞘ごと中からぶった切っちまうぞ、コイツ(ハバキリ)は。一体どこのスチパ(間抜け)が作ったんだ?!」


「ええ~……」


 鞘に納めることも出来ない剣は、欠陥品だと言いたいらしい。確かに、刀身を保護する意味合いもある鞘すら切ってしまうようでは、取り回しという意味では最悪である。そのままの抜き身では危険すぎて持ち歩く事も出来ないし、常に握り締めて歩いていたらどこからどう見ても辻斬りの犯人だ。数メートル歩いただけで捕まってしまうだろう。ちなみにダルトヴァン鉱はこの(せかい)に存在する金属の名前で、とにかく硬い事で知られている。それを弾くほどの金敷を苦も無く両断してしまう結果には、流石のジャンヌも開いた口が塞がらないようだった。


 一応、刀というものは鯉口によって保持されるので、鞘の内部に刃が当たることは無いように出来ているのだが、下手な扱いをすると鞘の中に刃が当たって削れてしまうこともある。しかも、ジャンヌは刀の扱いに慣れていないし、状況次第ではNeckとの乱戦にもなるMIRAとしては、そうそう慎重な扱いをするのも難しい。いざという時、武器に気を遣うようでは、逆に危険だろう。

 

 ――失礼ね。斬っていいものとそうでないものの区別くらいは出来るわ。まぁ、窮屈な鞘なら願い下げだから、どうなるか解らないけど。


「そういう問題じゃないし、それじゃ怖くて使えないわよ……!」


「ん?何か言ったか?」


「ああ、いえ、何でもないわ!」


 突然脳内に響いたハバキリの声に、ジャンヌは思わず小声でツッコミを入れた。ここまで何事もなく白布を巻いてきたのだから、確かに何を斬るかはハバキリの自由なのだろうが、武器を扱う上で普段から布が巻いてあるのは、やはり緊急時には使いにくいものである。ジャンヌの潔白とハバキリ自身を守る為にも鞘は必要不可欠だろう。

 とはいえ、周辺で一番大きな店の主人が作れないと言い切っているものを作ってくれる場所などあるのだろうか?どうにかならないかと思いあぐねるジャンヌの様子を見ていた主人は、渋面をしながら手近な紙に何かを書いて、ハバキリと一緒にジャンヌに手渡した。


「おじさん、これは?」


「その刀は儂の手にゃ負えんが、そこの店主ならなんとかできるかもしれん。そいつは頑固で変わり者だが、ドルト(いち)の腕利きと評される鍛冶屋だ。店の名と住所を書いてやったから、自分らで行って交渉してくりゃいい。ザカロの紹介だと言えば話くらいは聞いてくれるだろう。そこから先はお前さん達次第だ。解ったらさっさと行きな、他の客が来たら迷惑だからな!」


「おじさん……ありがとう!」


「あぶねぇからその刀(ハバキリ)をしまえ!商品に傷がついたらどうする!?」


 ジャンヌは喜んで主人の手を握ったが、その手にはハバキリも一緒に握られていて、恐ろしいことこの上ない絵面だ。ともすると、ジャンヌが刀で主人を脅しているようにも見える様子に、後ろで見ていたソロは苦笑いを浮かべて頭を掻くのだった。

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