ピンチが日常
という訳で、本日から新作投稿開始です。
本日のみ五話まで連続更新で、明日以降は毎日夜20時頃の更新となります。
どうか皆様にお楽しみいただけますように。
雲が見当たらないほどどこまでも続く晴れた夜空に、大きな月が三つ、三角形に並び浮かんでいる。人々が大三連月と呼ぶそれら三つの月は、この星の夜を照らす柔らかくも強い光を放つ月達だ。それらの月はそれぞれが濃密な魔力を有しており、三つが合わさればその力は月光さえ特別なものとなる。悠久の時代からそれに照らされることで、この星に生きる者達は強い魔力を持つこととなった。この星の人々にとって、輝く三つの月こそがまさに、神にも等しい存在なのだ。
その神秘的で眩い月の光さえも満足に届かない深い森の中を、一人の女性が息を切らせて懸命に走っていた。鼻につく草花の匂いを味わえるほど、今の彼女には余裕がない。理由は明らかで、背後からずっと一定の距離を保って、恐ろしい何かが追いかけてきているからだ。追われる側の彼女には、立ち止まって休む事など出来るはずがなかった。
「はっ、はっ!ま、まだついてきてる……あっ!?」
走りながら後ろを振り向き、追跡者の様子を確認しようとしたせいで、その足元に大きな木の根が伸びている事に気付けなかった。そのせいで、彼女はそれに足を取られて前転するように勢いよく転んでしまう。しかも、転んだその先は小さな崖状の段になっていて、背中から落ちると物凄く痛い。息を吐くだけで激痛が走るものの、足を怪我していないようなのは不幸中の幸いだろう。
「痛ぁ……っ!な、なにやってるのよ、私……!はっ?!」
そこで彼女は気付いた、気付いてしまった。闇に満ちた木陰から、彼女を取り囲むようにして無数の怪しく光る瞳が見えていることに。そこには荒い息と鼻を衝く獣の臭いが立ち込めており、獰猛な捕食者達が手ぐすねを引いて、女を食い殺すその瞬間を今か今かと待ち構えているようだ。
ハメられた、と彼女は直感した。先程の追跡者が敢えて追い付かずに一定の距離を保っていたのは、仲間が待ち構えているここに自分を追い込む為だったのだ。相手は魔獣とはいえ、高度な知能を持っているらしい。
「これってもしかしなくても……絶体絶命、よね。もう」
彼らと戦いたくとも、最初に遭遇した魔獣との戦闘で肝心の武器を失くしてしまい、おまけに負傷もしているとなれば抗う手段は皆無に等しい。歯噛みする思いを抱きつつ立ち上がり、そう呟いたのと同じタイミングで、左側の草陰から一匹の獣が飛びかかってきた。狼に似たその獣はまだ若く身軽で、先陣を切るには打って付けだ。女は咄嗟に身を翻してみせたが、その攻撃を完全に躱す事は出来なかったようだ。
「つぅっ!」
左手の前腕に爪が食い込み、皮膚が切り裂かれて出血する。革の手甲を身に着けていたおかげでまだ傷は浅くて済んだが、それでも相当な痛みだった。あまりの痛みに顔を歪めつつ、身体をずらして獣の身体を蹴り剥がすと、その獣はくぐもった声で呻いた後、素早く着地して女から距離を取った。
恐らく、次は他の獣が背後や死角から襲い掛かって来るだろう。そうして、獲物が弱るのを待って、最後のトドメを仕掛けてくる……狼型の魔獣の狩りとは、そういうものだ。
「……ここまでか」
その時、近くの樹上からその一部始終を見下ろしていたワシミミズクに似た大きな梟が、目を細めて翼を広げた。人の言葉を話しているが、この世界に喋る梟は存在しない。何者かの力を与えられた魔法生物――使い魔という所だ。
梟が溜め息交じりに飛び立とうとしたその時、眼下の女はその手に強力な魔力を集中させ始めていた。何らかの魔法を使うつもりなのかもしれないが、それにしては異常な力の高まりが感じられ、梟は焦った様子で声を上ずらせていた。
「なんだ?何をするつもり……だっ!?」
「こ、のぉぉぉっ!……って、あ?!力が……きゃーーーっ!?」
次の瞬間、バチバチと放電するような危険な音を立てて女の手に集められた凄まじい魔力が暴走し、辺り一面を巻き込んで大爆発を起こした。森にはぽっかりと穴が開き、さながら隕石でも落ちたかのようなクレーターが出来ていて、爆発の威力がありありと見て取れる。これが、彼女の日常だった。
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