7 最後の晩餐?
「全く、とんだ一日だった。しかし、これからどうなるのかしら?」
わたしは、やれやれと、やっと今度こそ今日は終わるとばかりに部屋の椅子に座った。
そもそも、今日は朝から父のゴミ屋敷の片付け最終日で大変だったのだ。普通でもあれを一人で1週間で捨てまくるなんて、そうできるもんじゃない。
それをやっとこさ片付け終えて、私が欲しかった写真一枚出てこなかったと思ったら、見たことない世界に転がってーー
まるで何のドラマみたいに異世界に飛ばされるだけでもありえないのに、かつての問題を起こした神の復活と間違えられそうになって、死刑にされそうになって、牢に入って、さらにその結末は、その神の似ても似つかない絵の人のそっくりさん...
ああ、もう言ってて訳が分からなくなってくる。
とにかく、突然殺されそうになったりしたのだ。
普通なら可愛く泣くところよ。
もう少し私だってセンチな気持ちになりたいが、泣く時間もありゃしない。
牢に戻り、夕食のメニュー表を見ながら、先ほどまでのソラリクスとの会話を思い出す。
ーーー
ソラリクスは、全く悪気もなくわたしを見ながら、わたしから今までの経過を聞いた。
「ああ、時渡りのものか。そっちでは、神隠しっていうらしいけど、時々時空を超えてやってくるんだよね。でもさ、私は神だけど隠したことも奪ったこともないからね」
とても迷惑だと言わんばかりの顔で言われてもこっちも来たくて来たわけじゃないんだから困る。
「そういえば、君は何か特技はあるのかい?」
ばぁっと花が開くような笑顔を見せられても、先ほど散々人の顔を否定された身としては、笑顔を返す気にもなれない。じとりと見ながら面倒くさそうに返答する。
このタイプの男は泣き落とそうと、真剣に相談しようと絶対に無責任だ。
「いえ、あっちの世界では普通の事務員です。あとは日常的に掃除や洗濯、料理などの家事一般でしょうか?得意という感じではないです。やれるかやれないかと言われたら、やれるのレベルです」
間違っても期待しないでいただきたい。
死刑にならないなら私は強気だ。
「でも、元の世界では、父の肩代わりをしてしまった借金取りからどんな目に遭わされるかわかりません。それに比べれば、期待さえしないでもらえたらダメ元でやりますし、分からない仕事でも覚えろと言われれば覚えます」
ソラリクスは少し目をぱちくりさせて聞いていた。
「借金取り」なんて俗っぽいものに神は縁もゆかりもないだろう。
「そうだねえ」
ソラリクスは、考えながら歩く。
「とりあえず、城に住むもの達の雑用でもさせるか。ガルーダとフェニックスは、突然夜が来たからしばらくは忙しいから君の世話をさせるのは無理だな。そうだ!!」
ニヤッと笑ってソラリクスは面白そうにわたしを見つめている集団に声をかけた。
「おい、聖女!ええと、ジズだったな。いるか?」
「はい、おります。」
ジズと呼ばれた女性は困ったように、そして、私を睨みながらソラリクスの前に行った。
「こら、ただの絵のそっくりさんを何睨みつけている?時渡りのものには、丁寧に接するようにというのを忘れたか?大聖女カラドリウスだって、500年前に時渡りでやってきたんだ。何かの間違いで、そこの女性だって聖女になるかもしれないだろう?」
ソラリクスがジズと呼ばれた女性をたしなめた。
へえっ、大聖女って時渡りの人だったのか。
ということは、私と同じ異世界人だったのね。
さらっとソラリクスの話す事実に驚いたが、神様のあんたが、何かの間違いと言ってる段階で聖女になるわけがないでしょうに。
このソラリクスの言葉の軽さに私は顔をしかめる。
私にわざと喧嘩を売っているのかしら?
でもよく考えたらシームルグとソラリクスは恋人と言いつつ敵対していたと言ってたわよね
なんか、会ったことないけどシームルグの気持ちがわかる気がする。
この軽さ、人を逆撫でする言葉に異世界人の女性にほいほい浮気をするあたり、神だろうとなんだろうとクソ男だ。
「ジズ、彼女を頼むよ。その聖女の慈悲と癒しの心で時渡りのものを助けてやってくれ」
そうソラリクスに言われると悪い気がしないのか?
ふんと私を馬鹿にするような目でわたしを上から下まで視線を彷徨わせていく。
そしてどうやら格下だと認定したのだろう。満足そうに鼻を鳴らす。
「彼女にできる仕事があるのかわかりませんけど、仕方ありませんわね。私たちの部屋の掃除や身の回りの片付けでもさせますわ」
と、大袈裟にため息をつき、困ったものを見るような目でそうソラリクスに返答する。
「そうかそうか!さすが聖女だ。ああ、ええと、飛鳥といったな。今は城の牢か?」
「はい。」
ソラリクスはうーんと悩む顔をしながら、再び「どうしようかな」と呟く。
「そなたはただの絵のそっくりさんだからな。ずっと牢というわけにもいかないが、何かのスキルに秀でてはいないという。500年の夜が来ない呪いも解けたようだし...シームルグの家をそろそろ片付けさせるものがいてもいいのかもな。絵とそっくりな顔立ちをしているのも何かの縁だろう?」
それを聞いたソラリクスのそばにいる男性が慌てる
「ソラリクス様!あの建物は500年貴方様が危険だと封鎖されたはず。わたしも代々、危険な建物として誰も近づかないよう、あの建物を守ってきたのです」
ソラリクスはうんうんと頷いてわかってるよと答えながらも微笑んだ。
「そうだったな、エーテリオン。500年前、お前の先祖である執政大総監だったベンヌの時代から、ずっと子孫のお前達が守ってくれたことは知っている。
だが、夜がやってきて、呪いは解けたのだ。そろそろお前達の負担も軽くしてやりたい。」
えっ!まだ私に何かやらせるつもり?
500年前のことは知らないけど、わたしは巻き添え事故を食らったようなものよね。
周囲が止めるほどのことをわたしにやらせるのはどうなのかしら?
たしかに、ダメ元でなんでもやるって言ったけどさ。
私は思わずソラリクスを前のめりに見つめた。
そんなわたしをさらに楽しそうに見て、ソラリクスは話す。
「かつてシームルグが住んでいた館があるんだよ。城にはかつてのシームルグの部屋があって、そこから飛んでいける仕組みだ。500年間誰も立ち入ってないのだが、シームルグが描かれた絵とそっくりな君が来たのも何かの縁だろう。死ぬまででいいからゆっくり時間をかけて片付けておいてくれないか?自由に寝泊まりしてくれたらいい」
「死ぬまでって...」
「彼女も急に死ぬ予定じゃなかっただろうし、神は長生きだからね。僕が知ってる範囲でもあの家は足の踏み場がない。ぼちぼちでいいよ。片付けは。」
えっ??
このパターン、こっちの世界でも死んだ人のゴミ屋敷の片付け??
「死ぬまでかかるほどの片付けなんですね」
ごくりと息を呑んで聞くと、ソラリクスは嫌そうな顔をしながらも笑みを浮かべてうなずく。
「そうなんだよ。いろんなトラップもあるから、ほんと死なないようにね」
ーーー
はあーーーっ
明日からお局みたいな聖女にこき使われて、いつ死ぬか分からないようなゴミ屋敷で過ごさなきゃいけないなんて。
「でも、とりあえず居場所の確保と、借金取りに追われることはなくなったのよ...ね??」
そうとなれば体力勝負!
食べられる時に食べられる物を。
わたしは牢の中で「最後の晩餐」だったものから、この異世界初めての「最初の晩餐」をはじめる。
「ロックリザード(石トカゲ)のテリーヌ」
肉を香草と共に蒸して冷やし固めました
トカゲかぁ...ワニだと思えば美味しいのかしら?
これをまず注文。ポチッ!
「魔牛の血みどろソース仕込み」
熟成発酵させた真っ赤な果物「ふとう」で作ったアルコールをソースに血みどろに見立てて作りました。
ふんふん、血みどろに見立てなくてもいいと思うけど、これも多分美味しいんじゃないかしら
メニューを見ながらボタンを押していく。
すると、目の前の机の上に、料理が現れるのだ。
「面白い。スープは??」
「鬼隠おにおんスープ」
ソラリクス様からいただいた燦々とした太陽の下で育てた鬼隠を使いました
ただの当て字じゃね??
「龍の卵で作ったクリームブリュレ」
龍から分けてもらった卵で作ったブリュレの上にかけた甘い砂糖を龍のブレスで焦がしました。
なんか、これ龍が分けてくれた卵なのかしら?
卵を奪われて火を吹いたんじゃないの?
そんな感じで、机の上にはまさかのフルコースが出来上がっていく。
「最初の晩餐、いただきます」
わたしは一人むしゃむしゃ食べ始める。
うむっ!!ちょっと!すんごい美味しい!
トカゲっていうけど、この四角に切られたお肉のことかしら?ゼリーで固めてあるから全然分からないし、臭みもないし。
この魔牛のステーキなんて黒毛和牛のステーキみたいな。
舌の上にのせたらとろけるようなステーキじゃないの!
絶対A5ランクの牛よね。
鬼隠って、どう見てもただの玉ねぎスープだし、プリンに至っては、悶えるほどの美味しさ!
罪人最高!!
ああ、この牢屋からもう出たくないわ
フランス料理っぽい異世界料理をわたしは堪能しながら、、明日に向けて力を蓄え、ぐっすり眠るのだった。




