59 元の世界へ
へっ?
殺してあげるって言われて「ありがとう」といえない私は心が狭いのかしら?
いや、そんなことないわよね。
普通防御創とかできるっていうもの。きっと足掻くが正解。
「痛いのは.......嫌。それに、戻ったら借金!!初任給もあんなに働いたのにもらってない。ガルーダにも100万以上の装備買ってもらって何も返せてない。あと...あとは」
「ソラリスク!消えてる!消えてるわ!!」
私がそう言って言い訳を考えているとシームルグの叫び声が聞こえる。
ソラリスクは困ったようにシームルグに微笑んだ。
「世界の蓋が開いて、カラドリウスから解放されたんだろうね。ただ、君を残していくのが気がかりだ。飛鳥は、君が幽霊でもこの世界で活動できるようにしてくれたけどね。でも、やっぱり心配だよ」
「やだ!私もソラリスクと一緒に行く!絶対一緒に消える!置いていったら嫌だ!」
シームルグが暴れ出し、周辺がガタガタ揺れ始める。
「こればかりは、ペナルティだからね。最後に飛鳥を楽に逝かせる仕事をさせて。」
ソラリクスは至って真面目に悲しそうにいう。
その言葉に、シームルグは泣き始める。
私は、後ずさりしはじめる。
「いやいや、楽にって言うならせめて麻酔してよ!!私が何したのよ!」
「みんなそう言うけど、ちゃんと戻れるし、痛いと感じる前にいなくなるよ」
「わかったわ。じゃあ殺してって言うわけ無いでしょう」
「時間がないんだよ」
ソラリスクの体の透明度は少しずつ高くなっていく。指先もだ。
ソラリスクは神殺しの剣を持とうとして、指先がもう自由にならないらしく何度か取り落としている。
「やだ!ダメ!飛鳥もソラリスクも嫌だ!許さない!」
シームルグが叫び、周辺の椅子や絨毯が浮かびはじめ、風が吹き荒れ始める。
もうカオスだ。
私も恐怖で足がガクガク震え、エーテリオンはその瞬間を見たくないとばかりに目を背ける。
「そうだ!そうよ!私が、私が殺せばいいのよ」
シームルグが何を思ったのか、神殺しの剣を思いっきり浮かべる。
「ダメだ。実態のある神じゃないとその剣は使えない。シームルグは幽霊だ」
「だってソラリスク消えてるじゃない!私が、私しかいないじゃない!」
神殺しの剣は天井高く浮かび上がり、私はもうダメと目をつむる。
その瞬間ーーー
神殺しの剣がキラリと光りながら猛スピードで落ちてきた。
もうダメ!!!
私はしゃがみ目を閉じる。
1秒...2秒...
ん?本当に痛くない。もしかして、ゴミ屋敷に戻った??
そーっと目を開ける。
ん??
「ソ、ソラリスク様!!」
私は、目の前で倒れているソラリスクにエーテリオンと慌てて駆け寄る。
「ダメなんだから!ソラリスクだってまだ死ぬ予定じゃないんだから!まだたくさんの変化を起こすわ。それなのに私に殺されたんだから、一緒に消えるか一緒に幽霊になるかだわ」
ソラリスクはすでに冷たく、息をしていない。
「ソラリスク様!ソラリスク様!」
私とエーテリオンは震えが止まらない。どうしよう?人工呼吸?いや、そんなもの刺されたんだから無理。ええと、どうしよう!!
その時ーー
「こっちだよ。ふっ飛ばされてしまった。ごめん、飛鳥!この剣で刺されたら死ぬかと思うほどすごく痛かった」
後ろを振り向くとふらふらとしながら、明らかに幽霊になったソラリスクが浮かんでいた。
死ぬかと思うほどじゃなくて、もう死んでるんですよ......私はげっそりした気持ちになった。
◆◆◆
「これからは、ソラリスクと触れ合えることもできるわね」
「もっと早く殺してもらえばよかったよー」
二人仲良くいちゃいちゃラブラブなソラリスクとシームルグの様子を見た私、エーテリオン、ガルーダ、フェニックスは、私の小さな部屋にぎゅうぎゅうに座ってその様子を唖然とみていた。
「まあ、もともと100年に数回、表に出てくるかどうかの神ですから、死んでもみんな気づきませんよ。それよりも、飛鳥さん、もう戻れませんけど大丈夫ですかね?」
エーテリオンが心配そうに聞く。
「飛鳥にはこれから私の代わりに動いてもらうことが増えるもの。それでいいじゃない」
シームルグは満足そうだ。
「戻っても借金だし、あんなに働いて、ジズたちにこき使われて無給は嫌よ」
私は、結局この世界にいることになった。
というより、他に手段はない。
「眠り薬入れてもらってグサッといってもらったらダメなのか?」
フェニックスが聞いてくる。
「ダメだよ。それじゃ私みたいにただ死ぬだけだね。もとの世界に戻せるのは、生きていたときの私だけだ」
ソラリスクが気の毒そうな顔で私に話す。
「それ、ただの死に損じゃないですか」
私は嫌そうに顔をしかめた。
「俺としては飛鳥がこの世界にいてくれるだけで嬉しい」
ガルーダは、突然爆弾を落としたように話すと、部屋はシーンとする。私の顔が真っ赤になる。
「そ、そのみんなが思っているような意味じゃないから。あの、過去の話を聞いて思ったの。カラドリウスが変化を起こしてベンヌが彼女に想いを寄せなければ、500年前の事件は起きてないのよ。だから、私も過去の過ちを繰り返さないように恋愛はご法度だと思ってるの。時渡りは、人の心を変えてしまう力があるから」
私は、家族に恵まれなかったので、自分が家族を持つことに憧れがあったが、家庭運がないのだと自分に言い聞かせることにしたのだ。
「え?君がこの世界にもってきた概念は正義だからね。人の心は変えるけどそれは変化に関係したものだけだよ。」
ソラリクスは、何のことだという顔で見る。
「例えば、画伯のアルコノスコは倫理観にちょっと問題がある。こういうタイプを恋人にしたいと意図的に思うのなら、正義感あふれる心に変えてしまうだろうけどね。」
でも、アルコノスコだよ!と笑っているが、どんな人なんだろう?私にはわからない。
「え?じゃあ、だれでもかれでも思い通りに人の心を変えるわけじゃないんですか?」
「うーん、変えたいと意識すれば変わるかもしれないけど。ガルーダはもともと正義感が強いから、変わる部分があまりなさそうだな」
それを聞いたガルーダが、少し考えている。
「俺はあまり変わらない。間違いないですか」
「腹黒だったら知らないけど、職務に忠実だとグリフォンや鳳凰をみてもわかるよ」
ソラリスクは笑顔でいう。
それを聞いてガルーダは頷いて、口を開いた。
「この中で飛鳥に恋愛感情を持っているものはいるか?」
私はギョッとする。
何を突然ガルーダは血迷い始めたんだ!
「わたしは恋愛感情はないが、彼女が聖女なら.......]
エーテリオンが口を挟む。
「却下だ。彼女そのものに恋愛感情を持っているかどうかだ?」
「お、俺は全くないぞ!馬に蹴られたくないからな。そうじゃなくてもこの間は無事に飛鳥を帰せなかったらお前に殺されるって思ったのにこれ以上はごめんだ」
フェニックスが慌てて答える。
おいこら、本人を前にして、聖女ならと条件をつけたり、全くないとかいうのはどうなんだ?
私はじとっと二人を睨む。
ガルーダはそのままソラリスクを見るが、シームルグといちゃいちゃし続けるソラリスクを見て満足そうに頷く。
「アクィラは爺さんで妻もいて、その子供も娘で、孫も女だ。アルコノスコは、言うまでもない、恋愛どころか、目に入れてはいけない人種だ。」
そうして、ガルーダは私を見た。
「俺は飛鳥を愛している。ソラリスク様のいう時渡りの影響はほとんど受ける可能性はなく、受けたとしても聞いての通り受けているのは俺だけだ。
だから、もし俺が飛鳥を、好きなのが時渡りの力なら、飛鳥も俺の心を変えたいと思うほど好きだということだ。
教えてほしい。俺は片思いだろうか?両思いだろうか?もし片思いなら、交際を考えてほしい。もし両思いならお付き合いを始めたい」
ぶほっ!!
なんてことをこんなぎゅうぎゅうな空間で言ってくれるんだ。
「え!!」
「どっちなんだい?」
ソラリスクもいちゃつく手を止めて、じっと私の返答を待つ。
私は、真っ赤になっていくが、みんな返事は分かっているという顔であきれ顔だ。
思わず私は大きな声で叫んだ。
「りょ、両思いよ!!恥ずかしいから、言わせないで!」
ガルーダはホッとした顔をする。
「じゃあ、合鍵はこれからもずっと俺が持ち続けていいんだよな。これからは当たり前に一緒に家に帰ってもいいんだよな」
私はそう言われて赤くなりながら、「はい」と小さく答えた。
「まあ、聞くまでもなく、様子見てたらわかるよな」
ガルーダとエーテリオンは当たり前という顔をして憎らしいほど涼しげだ。
シームルグがふふっと手を合わせて
「じゃあ、ペアリングを早速今から指輪を注文しておかないとね」
そういってソラリスクと笑ったのだった。
《完》




