56 失敗した任務
フェニックスが、急いでみんなを守ろうと戻ろうとする。
だが、私を見てはっとしたように、唇を噛み締め
「撤退...するぞ」
と告げる。
私を、ただの聖女でもない者を戦いに巻き込んではいけないと思っているんだ。
しっかりしろ!!と自分に言い聞かせ、震える手でバッグから魔道具のカプセルを取り出し、一斉に撒く。
それは、瞬時に羽を広げ、落ちたものたちのところに猛スピードで飛んでいき、パラシュートを展開する。
シームルグから、
「空部隊で使うなら落ちた時に使って。飛鳥はおっちょこちょいだから」
と大量に渡されたものだ。
こんなところで役に立つとは!
ただ、空部隊はある程度は自力で飛べる兵もいるようだ。
むしろ、恐竜のようなモンスターの方が、一斉に開いた大きな白い布に行動に乱れる。
「あれはなんだ!!」
フェニックスが驚いた声を出す。
「ごめん、兵が自力で飛べるとは知らず、思わずパラシュートを撒いてしまったわ。
あのね、フェニックス、私を気遣わず、本来の必要な動きをしてちょうだい。上からの攻撃は私の周りはシールドで防げるわ。でも、みんなを守れるシールドの広さが出せるかどうかはわからない」
手は震えるけど、ここで他の人を見殺しにしたくない。
私は一生懸命フェニックスにそう伝えた。
「なんでそんな力があるんだよ!」
「話は後よ!」
フェニックスはちっと舌打ちをして、全体に声をかける。
「それぞれ乗り物に戻れ!残っているもの、あれは翼竜だ。光の煙幕で目眩しを!」
それぞれの魔獣や魔道具が、パラシュートの兵を拾いにいき、再度体制を立て直す。
パラシュートで混乱した翼竜の群れを、更に乱れさせるために兵による火や雷の攻撃で空が明るく光り、煙と共に空が曇る。
「飛鳥、言葉に甘えて突っ込むぞ」
フェニックスは、私に覆い被さるようにして指示する。
「鳳凰、翼竜の下をかき回せ」
その瞬間、鳳凰が急降下し、翼竜に突っ込んでいく。
そのスピードに耳が破裂するような音がパンと弾ける。
音速かよ!!
フェニックスにがっちり覆い被されても飛ばされそうになる。
目をぎゅっとつむり、どうかみんなを守って!と心の中で祈り続ける。
その瞬間、「カッ」と目の周りが眩しくなり、自分の周りのシールドがドーム状ではなく、球状になって鳳凰とフェニックスを守った。
「なんだ!この光は!」
だが、どんなに攻撃されても、跳ね返されるのを見てシールドと気づいたのだろう。
フェニックスが火流弾を連打し始めた。
攻撃によって火がつき下に落下する翼竜が一匹、また一匹と見える。
「ああ!埒が開かない。全員一旦上昇!上から迎え撃て!」
フェニックスの声と共に、一斉にみんな上昇する。
だが、空一面に黒い翼竜の群れに押し切られていく。
「飛鳥、この光のシールドはみんなを守るまで大きくできないか?」
フェニックスが、翼竜の群れを睨みつけながら聞いてくる。
「やれるかどうかわからないけど.....」
必死に再度祈ってみる。
少し大きくなったのか?でも、全く前みたいに大きくならない。
激しい攻防の中、数に押し負け、再び攻撃を受ける兵が増えてきた。
「くそっ!どこにこんなに眠ってやがった!」
そのフェニックスの叫び声を聞きながら、私はシールドが大きくならないことに焦りを感じていく。
そして、ハッと気づく。
そうだ!もう一度手を組んでみよう!
フェニックスが覆い被さってくれているが、その姿勢から必死で手を伸ばし、指を合わせ手を組んでいく。
「お願い!!みんなを!みんなを助けて!」
私は大きな声を張り上げた。
お願い!
お願いだから!
その瞬間、カッと眩しく光る。
どこまでも大きく大きく広がっていく。
それはまるで、朝日が昇っていくかのような眩しい光と風が空間を包んでいく。
光はどんどん広がり、翼竜を巻き込み、そして、あれだけ空を真っ暗にするほど覆っていた翼竜は、光に飲み込まれ、散り散りになっていくのが目に入る。
「お、おい!!大丈夫か!おい!」
「翼竜...は?」
ひたすら祈り続けたものの、力加減が全く分からず、どんどん手足の血流が冷えていく。
「すいません。もう、光出せない...かも。力が。怪我した人、薬あるから...使って」
シールドの金色がどんどん小さくなっていくのがわかる。
「大丈夫だ。完全に翼竜は消えた。みんな、撤退。安全地帯まで戻れ」
私の遠い意識に、
「なんだ!この薬は!」
叫び声が遠くに聞こえる。
一応効能を書いて瓶には貼り付けているからわかってもらえると思うんだけど.....
そう思いながら、意識を手放した。
◆
気づいたのは、鳳凰のツンツンと私を揺り動かす刺激。
ん??
ん?
「おお、気づいたか?」
私は、ヨロヨロと起き上がる。
「ここは?」
「もう街に入ったから安全だ。薬、助かった。あの瞬間回復薬ってのすげえな。飲んだらすぐ回復してた。ただ、激しい激痛らしいが...」
「ああ、そうなのよ。ごめん、よく効くのは副作用が強いから...」
まだ、夢の中にいるようなぼんやりした感じだ。
「鳳凰にしっかりおやつを...」
「おお、バッグに入っていたのはちゃんと鳳凰にやっておいたぞ」
フェニックスは、私の無事を見て、ほっとした顔で話した。
「何かあったらガルーダに殺されてしまうところだ。飛鳥が無事でほんと安心した。はぁーっ!しかしこれがピンキー様の正体とはね」
「それは言わないで」
「言わねえよ。ただ、聖女じゃない。時渡りに感謝だよ。」
しばらく私とフェニックスの間に沈黙が流れる。
私は、何が悲しいのかわからない。
涙が溢れていた。
「お、おい!どっか痛むのか?」
「ううん、違う。ねえ、フェニックス。これが聖女じゃなくて月光神の力だったらあなたはどうする?」
フェニックスが「えっ?」と動揺する。
「これね、月光神シームルグの力なの。彼女がたくさん助けてくれたの。道具も薬もよ。でも、わたし結局、失敗しちゃった。飛鳥だってバレたし、うまくシールドも開けないし、維持できなかった」
フェニックスが、困ったようにオロオロしている。
「月光神って死んだんだろ?よく分からないが、だ、誰にもお前のことは言ってない。言わない!だってガルーダだって、お前を守ったんだろう。それなら俺も言わない。」
「ありがとう。」
私は、そのフェニックスの気持ちに感謝で胸がいっぱいになった。
「私は、聖女じゃないの。今日の力は、ソラリクス様の力と大半はシームルグの力なの。でも、それをみんなに伝えられない」
私は目からボロボロ涙があふれた。
「俺も協力する。どうしたらいい?どうするつもりだったんだ?」
フェニックスは困ったようにオロオロしている。
「月光神ピンキーを最後に名乗ろうと思ったの。だって、これは全部月光神シームルグのおかげで聖女の力じゃないの。」
「名乗ってどうするんだ?飛鳥は?聖女課は飛鳥を派遣してるんだぞ」
フェニックスは困惑したように声をかける。
「飛鳥は、元の世界に帰ったことにしようと思って。そうしたら、これから聖女ではなくて、みんな月光神を頼ってくれるでしょう?シームルグは悪い子じゃなかったってみんな知ってくれるでしょう?でも、失敗しちゃった」
ううっ.....これがチャンスだったのだ。
シームルグの顔で、ちゃんと月光神と名乗り、シームルグの功績をみんなに伝える。
一度でもシームルグの顔で聖女として登場したら、それは聖女の功績になってしまう。
「だから、ガルーダが朝、見送る時に珍しく動揺してたのか。バカだなあ。飛鳥がいなくなったら、ガルーダはどうするんだ。ずっと、月光神のふりをしてるお前を見続けながら、生涯独身だぞ。」
はあっと呆れたような口調で言うと、何かを書いた物を鳳凰に渡す。そして、鳳凰はそれを口に挟み、さらに羽ばたいたかと思うと、瞬時に猛スピードで消えていった。
「ガルーダに経過を伝えておいた。すぐソラリクス様にも相談されるだろう。帰りは違う魔獣に乗って帰るぞ。」
「伝えた....ってどうするの?」
「どうもしない。お前は自分の役割を果たした。最後、お前が月光神だと名乗りたいなら名乗ったらいい。ただ、飛鳥が消えることは許さない。それをどうフォローするのかはガルーダとソラリクス様の二人に考えてもらえ。俺が、できるのはここまでだ。
月光神のことが、正直よく分からないからな。だけど、飛鳥は胸を張って帰ったらいい。よく頑張った」
私は、情けない気持ちでいっぱいになりながら頷いた。
もう歩くことも出来ない。
兵はみんな、「ピンキー様、ありがとう」「聖女様ありがとう」と感謝してくれたけど、でも、聞きたかった言葉はそれじゃなかったんだ。
私は微笑みを浮かべながら、兵に対応するしかなかった。
その後、フェニックスに担がれながら私は城に向かって帰って行った。




