52 鳳凰の咆哮
「とりあえず餌付けしろって言われてもね」
先日のガルーダがいた訓練場に続く動物棟のあたりをキョロキョロ歩く。とりあえずどんな鳥なのか見てみないことには対応のしようがないものね。
石畳の通路には、それぞれの神獣の元に行くための門がついている。
「小屋??もう、これは家よね」
動物園とは違い大半の神獣は屋敷のような小屋の中にいて、獣の匂いもないし、ひとに見せるための施設でもないので、どこにどの神獣がいるのかわからない。
グリフォンは、ベースがライオンだからか日向ぼっこで外に出てくれるけど、鳳凰はどうなのかしら?
何が好きなのかしら?って
......あれよね。
探さなくてもわかるんだけど。
わたしは、あんぐりと口を開けてその先にそびえ立つ鳳凰を見た。
目の前の神獣達も大概なファンタジーなのに、まだまだ距離はすごくあるのにグリフォンをもう一個上に付け足したような大きさ。まるで麒麟じゃないの!
あのサイズ感は反則でしょう。
これで攻撃的って無理。
人間だもの。即死に決まってるわ。
餌付けどうこうのレベルじゃないって!
ジズ達、絶対、鳳凰を見たことないでしょう。
しかも...明らかに100m以上離れているのに、わたしを見ている。
これって犬とかだと目を逸らした方が負けっていうけど、どうなの?あっさり、負けを認めた方がいいの?それとも、ここで目を逸らしたら舐められちゃうの??
いや、プライド高いんだよね。
下手に出るとか?
「鳳凰様、こんにちはー、なんてね?」
すると、鋭い眼光の鳳凰がガバッと一気に羽を広げる。
その大きさ、華やかさ、眩しさ!!
「ぎゃぎゃああああああー!!」
なんか悲鳴のような、頭の中をひっくり返してきたような咆哮が飛んできたわよ
うーーーん!!
わたしはその場で目を回して、気絶したのだった。
◆◆◆
「お、おい!大丈夫か?飛鳥!!おーい!」
ぼんやり目を開けると、わたしの目にぼんやりとフェニックスが見える。
「ふ、ふぁれ??フェニックス?」
「鳳凰が威嚇してるから誰かと思えば、お前か?鳳凰は、これから大仕事が待ってるんだから、あまり興奮させないでくれ」
フェニックスが困ったものを見るような目でわたしを上から見下ろしてみる。
わたしはヨロヨロと起き上がる。ふと気づくと、わたしを大勢の兵が囲んでいた。
「すいません。ご迷惑かけまして...」
周辺ギャラリーに謝りつつ、そもそもこうなった元凶のフェニックスを睨みつける。
「聖女様達に、今度の視察で利用する鳳凰の様子を見に行くように言われたのよ。もういいわ。聖女様には、100m手前で、吠えられてぶっ倒れましたって報告するからね」
「えっ!!」
フェニックスの顔色が変わる。
「ま、待ってくれ!飛鳥!それは困る。そうじゃなくても、休み中にジズ様に問い合わせしちまって、俺散々な目にあってるんだよ」
「馬鹿ねえ、なんで休み明けの今日まで待たなかったのよ」
そりゃ、ジズだって機嫌を損ねるわよ。
仕事を忘れる名目で休みをとったんだから。
私は呆れたような目でフェニックスを見ると、もはやフェニックスは涙目だ。
「だってよぉ、散々空部隊が頼んでも、聖女様を空からの攻撃からは守れないだろうって来てくださったことはないんだ。俺だって、部下や神獣を無事に安心して飛ばしてやりたいじゃねえか。今回、やっと来てくださるって話になったのに、馬は高く飛べないから馬車が使えないだろ。そうなると、準備がどうしても必要なんだよ」
あら?
フェニックスって意外にも部下思いなんだ。
思いつきだけで行動するタイプかと思っていたけど、ガルーダと同じく空を率いるんだものね。
まあ、室内灯と鳳凰騎乗を引き換えにするのはどうかと思うけど...
わたしは仕方ないなあと息をついた。
なんとか、鳳凰に近づかないと話にならない。
「鳳凰は女性が嫌いって聞いたの。餌付けとか女性に慣れる方法はないかしら?いくらピンキー様だって、たどり着く前にこんなふうに吠えられたら、乗ることはできないと思うわよ」
「鳳凰は、自分が認めたものしか近づけさせないんだ。でも聖女様だぜ。しかも、ピンキー様はその中でもすごい聖女なんだからさ。普通の女とは違うんだから、鳳凰だって騎乗させると思うんだよ」
フェニックスはため息をついた。
「でも、今日だけでもジズ様に6時間こってり絞られて、明日もジズ様と打ち合わせなんだ。今回なんて、馬車が準備出来なかった見返りを求められて、俺の全財産をはたいて室内灯をとりよせたけどよぉ、はぁ、聖女様ってこんなに大変なのか。」
「全財産!!」
わたしは思わず叫んで、フェニックスを見た。
流石に可哀想になってくる。
うーん、いい方法か...まてよ?
「フェニックス、ガルーダに伝言頼んでもいいかな?今夜、我が家に来てって」
「そんな、二人の情事の連絡を俺にさせるなよ!俺は、今言ったように忙しいんだよ」
フェニックスが、真っ赤になって怒鳴る。
何を想像してるのよ。このおバカ!
「何が情事よ!ガルーダが、鳳凰のお世話係なんでしょ。なんとか当日までに女性慣れする方法を考えるのに、来てって言うだけよ」
「それなら家じゃなくてもいいだろ。家でしか出来ないようなやらしいこと考えてるって言ってるようなものだろうよ」
「家でしか出来ない、やらしくないことをするんです!いいから伝えてよね」
私はフェニックスにそう反論して、急いでシームルグの元に帰ったのだった。
◆◆◆
「シームルグ!シームルグぅ!!」
私は帰ってから二階に駆け上る。
「なあに?今、世の中の悪い病気をやっつける薬を開発中なんだけど?」
シームルグは完全に幽霊であることを忘れ、いろんなものを浮遊させては調合を繰り返している。
「大至急、欲しい魔道具があるの。鳳凰の鳴き声をシャットダウンできるヘッドホンみたいなものはないかしら?」
「あら?鳳凰?懐かしいわねえ」
シームルグが、ああ、あの子ねと頷いている。
「シームルグ、知ってるの??」
「うん、昔夜の魔獣を倒すのに便利で使ってた」
あっさりとシームルグは頷く。
便利?魔獣を倒すため?
「あの子、光を出すのよ。夜、あの子がバタバタ羽ばたくだけで、かなり眩しくて、夜の魔獣は気を失うのよね。」
「それ、どうやって乗ったの?すごく気性が荒いじゃない?私なんて今日吠えられただけで、気を失ったんだけど」
こんな身近で鳳凰に騎乗した話が聞けるなんて!
しかもわたしはシームルグの顔になるのだ。
昔を懐かしんで乗せてくれるかもしれないじゃないの
「えーっ、力ずくかな?咆哮を飛ばした時に、反射板を当てて目を回した隙に乗って、耳元で起きろーって叫んだら、バタバタ飛ぶわ。すると、乗せた人を振り落とそうと暴れるから、頭の上の毛をむしってやったら大人しくなるわよ」
それを聞いて、わたしは、シームルグの顔で乗るのはやばいんじゃないかしらと焦り始める。
反射板って何?みんなの前でそんなことしたら、成功してもフェニックスにドン引きされちゃうわよ。
と...いうよりも、女性嫌いの原因ってもしかして、シームルグのせいじゃないの?
とんでもないことになったと思ったところで、城の部屋の合鍵を渡しているガルーダがやってきた。
ガルーダは、合鍵を受け取ろうか迷っていたようだが、ここにくる手段が限られるので、受け取ることにしたようだ。
「おい、フェニックスから聞いたが大丈夫か?今日、鳳凰にやられたと聞いたんだが...」
うん、あの声さえ封じ込めればシールドがあるし、なんとかなるかなと思ったんだけどね。
どうやら、わたし、振り落とされるかもしれないわ。
目の前の、全く気にしていないシームルグを見つめながら、わたしはどうしたものかと悩み続けるのだった




