51 話題の室内灯
久しぶりの聖女課は、室内灯のことで持ちきりだった。
「ちょっと飛鳥、いま巷で室内灯をピンキーが開発したって話題らしいけど、まさか聖女がそんなものまで作っているって言い回ってないでしょうね!」
おっ!きたきた!
いいかんじに食いついてきたじゃないの!
私は思わず口が緩み、必死に笑いたくなる衝動を抑えて
「えっ!!!」
と驚くフリをする。
「なんですか?室内灯って?」
「良かった、飛鳥じゃないのね。それならいいのよ。なんでも、熱くならないのに室内を昼みたいに照らす灯りをピンキーっていう人が作ったらしいの。ほら、飛鳥が名乗ったピンキーと一緒でしょ。でも聖女はそんな物作りをする仕事ではないから、誰だろうって話題になってるのよ」
「へえ。でもそんな便利なものが売ってるなら欲しいですね」
わたしは、購買意欲を刺激しようと、いいなあという顔をする。その誘導に当たり前のように乗ってしまうのが聖女シスターズだ。
「そうよね。どこで売ってるのかが分かれば。もしくは、ピンキーさんと会えたら聖女課に分けてもらうのに」
レッドは当たり前のように手に入るものという言い方をする。
「ニュースでも話題だし、会えばみんなからお城にないかって聞かれるわ」
ブルーが、誰も持っていないからいいのだと力説する。
「熱くないのがいいわよね」
イエローは珍しく実用面の利点を話す。
室内灯の話題は城でも街でも登り始めているらしい。
あとは手に入れられないジレンマを感じさせるだけ。
ふふふっ!
「そういえば飛鳥、あなた聞いたわよ。ガルーダさんとお付き合いしてるんですって?」
聖女ピンクが嬉しそうに身をくねらして聞いてくる。
ピンクは、そっちだよな。
常に娯楽を求めている。
「してませんよ。買い出しを手伝ってもらっただけですよ」
「うそうそ!手を繋いで身を寄せ合ってたんでしょ」
「スーパーが広すぎて迷いそうだったからですよ。」
「えーっ!わたしのおかげよね。この間の討伐で一緒になって飛鳥が恋に落ちたんでしょ?だって、ピンキーがあなたとはガルーダ様も知らないわけだし。
ああ、まさかあなたがグイグイいくとは思わなかったわ」
はい?
おい、ピンク!
全然、ピンクのおかげじゃないから。
「なんのことですか?恋?」
「誤魔化して!はぁ、わたしが行けば良かったわ。ガルーダ様、硬派で女性と一緒のところを見たことなかったのよね。飛鳥が落とせるなら、わたしだって落とせたわよ」
わたしが落とせるならってなんだよ。
でも、女性と初めて街でショッピングするっていうのは本当だったんだ。
ちょっと、うれしくなってしまう。
ん??なんで嬉しいんだ、わたし?
「ところで、飛鳥どうするの?」
聖女イエローが珍しく心配そうに話す。
「馬車の話聞いた?」
わたしはみんなから質問攻めに会って大変だけど、あんたたちが休みの間自分で洗おうとせずに持ってきた洗濯物をまとめて洗わないといけないから暇じゃないのよ。
どうやって、会話を打ち切ろうかしら?と思っていたら、まさかのメイントークがイエローからやってきた。
「空部隊が馬を高く飛ばせなくて、フェニックス様が鳳凰に聖女を乗せたいと言ってきたらしいわ」
げっ!結局、鳳凰になるんだ。
「鳳凰ってどんな感じなんだろう?向こうの世界で、お金の裏になったのしかみたことないんですよ」
わたしは、そーっと情報収集をする。
だが、聖女たちは嫌な顔をする。
「すごく気性が荒いのよ。まず、女が嫌い。鳳凰がメスなのよね。だから、鳳凰のケージ50mに女は近づかないって聞いたことがあるわ。超音波で、気絶させられちゃうもんね」
「男だって、ガルーダ様とフェニックス様、あとはソラリクス様だけよね。」
「そうそう、イケメン枠以外は来るなっていう圧がすごいんだって」
聖女シスターズは噂話のように話をしている。
「みんな、それにわたしが乗るんだっていう意識をして会話されてます?」
「大丈夫よー。流石にジズ様が、突っぱねるわよ。だって、みんなの前で聖女が鳳凰に吹っ飛ばされてみなさいよ。沽券に関わる問題じゃないの?」
「そうよ。仮にうまくいったとして、次は他の聖女も...なんて言われたら堪らないわよ」
そ、そうかな??
本当にジズが守ってくれるのかしら?
わたしはとんでもなく不安になる。
ジズを待つ間、更衣室で、洗濯機をまわそうとすると、おとなしめ聖女隊のフリージアが、他の聖女たちと洗濯物をすでに干してくれていた。
「うわぁ!手伝ってくださったのですか?」
「手伝いだなんて...自分たちのものだし、洗濯機の使い方もアイロンの使い方も覚えたしね。次のお給料が入ったらわたしも洗濯機を買おうと思うの。」
フリージアはもじもじとしている。
聖女シスターズは相変わらずだが、かつて葉っぱの後ろに隠れて、コソコソしていたおとなしめ聖女たちは、自分のものは自分でという最低限のことをし始めていた。
「たらいは使いにくいし、綺麗になったかイマイチわからないし、やっぱり大変だもの。聖女だから新しいものに頼るのは良くないと思っていたけど、職場も洗濯機を取り入れたんだから、私たちも取り入れてもいいわよね」
他の聖女たちも頷く。
「家のシーツ洗いたいんだよね。なんかもう茶色くなってて」
「あっ、わかる!なんか臭いが気になるよね」
と、ギョッとすることを言い始める。
まあ、洗濯の仕方すらまともに知らなかったんだから仕方ないか。
魔石で使える洗濯機も、シームルグが開発したと言っていたから、カラドリウスは他の者に使わせなかったのかしら?
シームルグは、いろんな怪我や病にきく製薬方法や治療法を500年フリーズさせてしまったと後悔していた。
だけど、伝えたとしても、それをカラドリウスがちゃんと受け継いだとは思えないのよね。
時渡りは神と同じような変化を起こせるけど、神の領域のような奇跡的なことは起こせない。
なまじ、思い通りになるから、自分は神と同じことができると思い込んだのかもね。
わたしはそう思いながら、聖女課の中の変化をじわじわ感じ始めていた。
その時ーーー
「何度言ってもダメって言ったんだけどね、でも、これもらったら断れないじゃないの」
すごく弾んだ楽しそうなジズの声が響いてきた。
ん??
「うわあああ、これなんですか?」
「明るくないように見えるんですけど?」
「それが、布をかけたらわかるんだけど...わあ!明るい」
ん?なんの声?
わたしは嫌な予感がして、行動がピタッと止まった。
そーっと、おとなしめ聖女隊たちと一緒に更衣室のドアから声の方向を見つめる。
そこには!!
「あっ!室内灯!」
聖女シスターズとジズは室内灯に布をかけたりして、明るさを体感している。
「あっいいところに来たわ!飛鳥。今度の空部隊との視察だけどね、馬車が出せないんですって。」
「らしいですね」
ジズが困ってないけど困ったように話す。
ますます嫌な予感がするわ。
そしてこういう予感は当たるんだわ。
「それで、鳳凰にのせるっていうからとんでもないって言ったんだけどね、聖女様のように選ばれた方々が乗るための鳥だと言われるとそうかなって思うじゃない?」
さりげなく、わたしが頷くのを待っているようだが、うなずけるはずもない。
むしろ顔は凍りつく。
それみて仕方ないわねと言う顔でジズは話を続けた。
「これ、馬車が使えないお詫びに聖女課で使ってくださいって。私たちのために、フェニックス様が、世界中に声をかけて、今話題の室内灯をやっとひとつ取り寄せてくださったのよ。熱意を感じちゃったわ!」
「それだけ聖女の活動が周囲から評価されてるってことですね」
聖女グリーンまで会話に入ってきた。
評価されたのは、聖女じゃなくてピンキーよ。
そして、シームルグの薬よ。
「鳳凰しかないのなら、それは仕方ないことだわ」
レッドが、先ほどわたしに言っていた内容からあっさり手のひらを返してきた。
「そうね、ないなら仕方ないわ。むしろ鳳凰に乗れるなんてすごいことですよね」
聖女シスターズが一斉にジズに同意する。
わたしはくらりと倒れそうになった。
そんな室内灯、我が家で作れるわよ。
それより鳳凰にどうやって乗るのよ。
乗れたらすごいわよ。
聞いただけでも近寄ることすら無理じゃないの。
「ちょっと、飛鳥!今度こそ失敗しないように頼むわよ。鳳凰に乗らせてもらえないなんてことがないように、今からちゃんと毎日餌付けにでも行ってきたらどう?わたしだったらそうするわ」
ジズは、当たり前のような顔をしている。
わたしだったらって、あんただったら人に押し付けるだけでしょうよ!!
馬じゃあるまいし、人参で餌付けができるとは思えないわ。
どうするのよ。鳳凰の餌付けなんて知らないわよ!
わたしは、そう心で思っても、結果がひっくり返ることはないことに愕然とし、自分との取引に使われた室内灯を憎々しげに睨みつけたのだった




