47 匂わせる関係
「エーテリオン、彼女に何か用だろうか」
猛スピードで移動してきたガルーダは、背後に私を隠した。
エーテリオンの姿が見えなくなる。
不安もあったのだけど、やはり地帝と言われるだけあり、思った以上に背丈も体も大きく、張り出た筋肉から強いとわかる
「いや、君は大きく変わったと言う雑談を飛鳥さんとしていた。時渡りの変化っていうのに驚いているんだよ」
エーテリオンは、
「ねえ、そう言う話だったよね?」
とガルーダの後ろにいる私に同意を求める。
嘘ではない。むしろそのままだ。
そうか、エーテリオンはガルーダに、
「君は時渡りの力で、思ってもない変化をしているんだよ」と認識させているのか?
それとも、ガルーダがどこまで時渡りの変化のことを知っているのかを反応から探ろうとしているのか?
私はふーっと息を吐き、隠してくれていたガルーダの横に立った。
「エーテリオン様、変化?というのは私自身は今まで意識して動こうとしたことがないのでわかりません。」
一度そこは明確に伝えておこう。
だって、今まで起こった変化については、変えようとして動いてはいない。あくまでも無意識の動きなのだ。
でも、無意識の動きに、わたしのこうなって欲しい思いが加わって変化を起こしているのも事実だと私も気づいている。
そして、フェニックスとの視察は、初めて私が、シームルグのため、そしてカラドリウスとの戦いのために、意識して変えようと動くはじまりの日になるだろう。
「私がいた世界でも他所から来た人が新たに入ると、新たな風が入り良い反面、困惑される方がいるのは事実です。私も、まだこの世界のことはわかりませんが、周りの方からアドバイスをいただきながら、早く溶け込めるように精進させていただきます」
この返答は嫌味か無難か?
エーテリオンがこの変化を新たな風と捉えているのか?
それとも困惑して嫌なものと思っているのか?
私にはわからない。
エーテリオンと私の間に、ピリピリとした空間が流れているのがわかる。
そんな私とエーテリオンの二人の表情を見て、そばにいたガルーダが「まったくなんなんだ?」とため息をつく。
「今朝、食堂でも騒がれたんだが、エーテリオンまで騒ぎすぎだ。そんなにわたしが女性と街歩きやショッピングを楽しんでいてはいけないのか?」
わたしは、今なんかさらりと聞きなれない言葉を聞いたような気がして思わずガルーダを見つめてしまった。
「え??」
え?女性と...楽しむ??
そう言う返答が来ると思わず、エーテリオンもわたしと同時に呆気に取られる。
「わたしだって、日々の訓練を少し忘れて、知り合った女性と食事や買い物を楽しんだっていいだろう?
特に先日は死と隣り合わせの危険な目にあったんだ。人生観だって変わって当然だろう。」
「ま、まあそうかもな」
正面きってそういわれると、なぜかわたしは照れてしまい、エーテリオンも居心地悪そうな顔になる。
「そういえば、エーテリオン。」
ガルーダは、面白くなさそうな顔で、更にエーテリオンに声をかける。
「俺は今、飛鳥とこういう関係なんだ。エーテリオンが、飛鳥の部屋の鍵を持っていると聞いたが、俺が城の部屋の鍵を持つわけにはいかないか?彼女の家への行き来が不便だし、エーテリオンを疑うわけじゃないがやはり面白くないんだ」
わたしはぎょっとする。
完全にそれは誤解が誤解を招く発言だわ。
でも、あえて狙ってこの発言をして鍵を回収させようとしているのよね。
ガルーダって(女性関係の)場数を結構積んでるんじゃないかしら?
無茶苦茶自然に誘導されてるんだけど...
「あの屋敷に出入りしているのか?」
エーテリオンがあっけに取られたように聞く。
「家を出入りする仲なんだ」
すごい。
何も嘘を言っていない。
わたしとの街歩きとショッピングを楽しいと本当に思ってくれるならそれは、別に男女関係ではなく、友情としてとても嬉しい。
死と隣り合わせで人生観がかわるのは、確かに時渡りとは関係なくある話だ。
そして、こういう関係、どういう関係、そういう関係だ。
家を出入りする仲なのも間違えてない!
世にいう「ご想像にお任せします」だけど、鍵を渡せというしっかり要望は伝える。
すごすぎるわ!ガルーダ!
「そうはいうが、合鍵は必要だ。城の中なんだから」
エーテリオンは目線を彷徨わせる。
「ソラリクス様がもう一つ鍵は持っている。ソラリクス様にまで返せとは言えないからな。あの城の部屋は、風呂がある。俺が言いたいことは...わかるな?」
ガルーダの圧が凄い。
まるで、彼女の入浴シーンを覗き見するんじゃないだろうなという、鍵を渡さないと相手が困ってしまうような追い詰め方だわ。
これも??時渡りの変化?
いやいや。ガルーダの地よね?
「し、仕方ないだろう。あの屋敷はゴミ屋敷で、お風呂の準備が出来なかったんだから」
「あらぬ誤解を招かないほうがいい。お互いのためにな」
今なら許してやるとでも言わんばかりだわ。
エーテリオン様が押し負けてる。
わたしは、こういうシーンに慣れてないので、どうしたらいいのかわからず、とりあえずギュッとガルーダの腕のシャツを握りしめてみる。
ガルーダがチラッとわたしを見て微笑む。
うぉっ!これはフリです。
すいません。どう振る舞えばいいのかわからない!
あたふたとする姿が良かったのか悪かったのか?
「わかった。合鍵は、飛鳥さんに渡しておこう。誰に渡すのかは、一応把握させてください。その...今後同じ人が持つとは限りませんから」
別れたら...ってことですね。
大丈夫です。そもそも付き合ってない。
わたしは頷いた。
「感謝する。ああ、あと時渡りセットの服は少なすぎる。特に下着が二日分というのは、不便だろう。せめて四日分ぐらいは準備してもらわないと...」
な、なんてことを言うんですか。
と言うかなんでそこまで知って?
ああ!買ったものから数を推測したのね。
そこまで憶測を招かなくていいんですよ!
さらに動揺が激しくなるが、再びわたしのその動きが逆に憶測をさらに招いたようだ。
エーテリオンも少し顔を赤くして
「そ、そうですね。入り用のこともあるでしょうし、次回は善処します」
そう言って、「邪魔しましたね」といい去っていった。
ほっとしたけど......普段全く色恋がない人がこういう発言をすると、言い方一つで信憑性が増すわね。
わたしは思わず、その場でへなへなと力が抜けていくのを感じていた。
「まさか、こんなところに潜んでいるとは思わなかった」
ガルーダがホッとしたように、袖を掴んでいた私の手そのまま握り、カゴを取り歩き始める。
ひーーーーっ!
免疫ないんです!
こう言う自然なアプローチに適応できない。
勘弁ごめん!!
経験値よ!やって来い!!
「あの、ガルーダって相当慣れてますよね?」
あのエーテリオンとの大人の会話といい、このさらりとした手つなぎといい、絶対相当遊んでるだろう??
「軽薄に見えるだろうか?初めて女性と買い物に行くので、兵たちから色々聞き回ったんだが??その...嘘じゃない。今日、一緒に出歩けるのを楽しみにしていた」
ガルーダは、失敗したかな?と心配そうな顔をしている。
ばふっ!!
「い、いえ、あの。私も初めてで。その、がっかりさせたら悪いなと思って。その、さっきはありがとうございました。あの、会話が大人だなって。いや、私も大人なんですけどね。あはははは」
私は何を言ってるんだ??
完全に舞い上がっている。
こんな異世界で春の空気を吸わせていただけるとは...
いや、でもこれも時渡りの私の願いか。
恥ずかしい。
「飛鳥も初めてなのか?それなら、少し安心した。上手くエスコートできなくて呆れられるかもしれないと思っていた。
ちなみに、これが時渡りの変化なのだとしたら嬉しいんだが?」
「嬉しい?」
「だって、一緒に買い物を楽しみたいと言う相手に、俺以外誰も変化をさせてないんだからな。」
そう言って笑われる。
ぎゃふん!!
そうだわ。ガルーダは私が無意識でも行動や思いで、周りを変化をさせることがあることを知っている。
ガルーダがこの買い物を楽しみにするように私が希望したとしたら.....
ぎゃーーー!恥ずかしい!
まるで私がガルーダを想っているみたいじゃないの!
その日、ガルーダ主導で、兵たちに人気があるレストランで食事をして、総額を聞くのが恐ろしい装備を購入して、シームルグの屋敷に帰っていった。
私たちはその日、そのまま手を握って街を歩き、それを見た人たちを通じて、そのまま城で噂の的となったのだった。




