45 知らなかった世界
「じゃあ、二人仲良くね。シームルグも感情的になっちゃダメよ。ソラリクス様も、無理やり色々会話しようとしたらダメだからね。あと..,..」
大丈夫かしら?
この二人を残して行って、大喧嘩しなければいいんだけど。
ソラリクスは、悪意はないけど一言多いか少ないかだし、シームルグはツンデレだし。
「いいから早くガルーダとデートしてきなさいよ」
シームルグが真っ赤な顔のまままで私を家から追い出そうとする、
「おや、二人はそういう関係なのかい?」
ソラリクスは、わかっていて驚いたような顔をする。
本当にこの男は!!
「違います。街に降りたことがないから、無理を言ってガルーダに連れて行ってもらうだけです」
全く何を言ってるんだか?
時渡りセットには、必要最低限のものはあるが、足りないものも多い。一応当面の生活費も入っているので、必要なものと、今度の視察の服を探しにいくのだ。
「ああ、確かにここは浮いているから降りにくいよね。今後、街に降りたいなら、時渡りの世話はエーテリオンにさせているし、ついて行かせようか?」
ソラリクスは再び地雷を踏む。
エーテリオンに行ってもらうわけには行かないから、ガルーダに頼んだのに。
どうして、手のひらで転がすようなことをするくせに、気づかないんだ。
「いえ、今後も俺がついていきます」
ガルーダが、エーテリオンのことを心配してくれたのだろう。私の代わりに強く返答する。
「ソラリクス、あなたどうして空気を読まないの!初めてのデートを二人がしようとしているのに、どうして別の男の名前を出しちゃうのよっ!」
「そっか!そうだね。まさか二人がそんな関係とは!」
ソラリクスがシームルグとラブラブに話すので、これははっきり伝えておこうと釘を刺した。
「そんなわけないでしょう。ソラリクス様、エーテリオン様は聖女ピンキーと結婚したいと考えているんです。そして、私がピンキーと知ってて知らないふりをしている気がするんです。今は、接触は避けるためにガルーダが協力してくれているんです。」
「へえ、モテモテだね。エーテリオンも君を...」
「ソラリクス様、せっかく仲直りしたソラリクス様とシームルグの前だから言いたくありませんが、エーテリオン様の一族はベンヌの時から代々、聖女と結婚しているじゃないですか?」
ソラリクスが、えっ?という驚きの顔をする。
と同時に、突然頭を抑え始める。
どうしたの?
「ソラリクス、どうしたの?」
「ソラリクス様!!」
ガルーダとシームルグが駆け寄る。
しかし、シームルグは触れられない体のため、ソラリクスの中をエアーで通り過ぎ、呆然としてしまう。
「あ...あ...」
シームルグは触れられないことに動揺してしまうし、ソラリクスは頭を抱えているし...なんなのこれ?
「すま...な..い。激しい頭痛で。ベンヌが...聖女..と?」
「えっ?知らなかったの?」
「うん......シームルグのことがあってしばらくは引きこもっていたし、人の色恋にはあまり関心がなかったというか、触れたくなかったんだ。シームルグ...触れられなくてもそばにいてくれるだけでいい。大丈夫だ」
シームルグが、目に涙を溜めてポロポロと涙をこぼしている。
「君もつらいかもしれないが、泣いている君を抱きしめられない私も同じくらいつらい。だから、気持ちは一緒だ。」
シームルグはうんうんと頷いている。
「どうやら.....時渡りの効果かな?新しく何か変化が起こると思うよ。一つづつ知らなかったことに気づき始めて、動き始めている。
そうだね。エーテリオンの一族は、むしろ、聖女とは一線をひいているように見えたんだ。だから、君の世話も頼んだんだが......残りの臣下はみんな聖女を、敬愛していたからね」
意外だったわ。
私は唖然とした。いつも手のひらで、私たちの動きを知っていて転がしているように見えたのに。
誰もが知っていて、ソラリクスがしらないこともある。
シームルグもだけど、やっぱり神である二人は、ずっと共に支え合う仲間のように見えて、他の人たちとは一線引いた存在だったんだわ。
誰も知らないことを知っていて、誰もが噂したり、知っていることは教えられないと知ることがない。
「知らなかったんですね。てっきり知っていた上で、エーテリオン様に私を頼まれていたのだと思っていました」
私は、少し申し訳ない気持ちになった。
そこまで激しい衝撃を受けると知っていたら、もう少し言い方を考えたわよ。
「知らなかったというより、疑問に思わなかったという感じかな。500年の間に、ベンヌにしてもガルーダにしても、当然結婚したから、次の世代の後継がいるんだろうけどね。最初こそ交流をしていたが、段々、次の世代、次の世代と紹介されて、それを受け入れ続けていた」
ガルーダと私は思わず顔を見合わせる。
知らないというよりも、疑問に思わなかったーー
これはかつて聖女たちやガルーダが体験したことと同じじゃないの!
「それは、困ったな。ここに自由に行き来できる権利を与えてしまっているからね。」
ソラリクスはふうっとため息をついて考えているようだった。頭痛はおさまったようだ。
どうやら一時的なものらしい。
「かといって、あからさまに鍵を返せと言ったら、タイミング的にピンキーですと言っているようなものなので避けたいです。」
昨日、それっぽい話をして、今日から出禁なんて。
しかも、聖女課はエーテリオン様と仕事で関わりが多い。
そーっと距離を取りたい。
「そうだね。今日からこの屋敷のお風呂は使えるように頑張るから、城の浴槽を使うことは無くなるだろう。そうすれば、風呂から出たところを狙われることは無くなるか」
ソラリクスが、左側のお風呂に続く廊下を眺める。
「な!!なっ!」
ガルーダが真っ赤になって慌てている。
「城の部屋は、風呂上がりに攻撃を受ける危険もあるのか!それはダメだ!というか、聖女かどうかとか以前に男性に鍵を持たせるのはダメでしょう。」
ガルーダは、考えてなかったと真っ赤になってつぶやいている。
その慌てた反応を見て、どういうことかしら?と一瞬考え、私も確かにやばいわと慌てる。
城のシームルグの部屋の鍵を持たれていて、その部屋に設置された風呂に入ってるんだから、狙われるならそこで狙われる可能性もあるのか。
誘拐、拉致、その他諸々何でも可能だわ。
いや、でも待てよ?
「なんでそんなに飛鳥落ち着いてるのよ!」
シームルグの焦りの声が聞こえる。
「うーん、エーテリオン様がしようと思えば出来るけどしないのは、そんな気がないからでしょうね。
ただ、これからピンキーを表舞台に出していくなら、要注意でしょうけど」
「当たり前だ!毎日、職場から家まで送るからな!」
ガルーダは、真面目に心配してくれている。
だけど、昨日の訓練を見ても、どうやっても職場に遅くまで残ってるのはガルーダでしょうに。
聖女課なんて、定時ぴったりよ。
「何言ってるの?ガルーダは訓練があるでしょう。そんなの、ソラリクス様にしてもらうわよ。ここまで迂闊なことをしたのはソラリクス様なんだから。」
「は!!わたし??」
慌てたように金色の髪の毛が揺れている。
思わずソラリクスは自分の顔を指さしているが、エーテリオンに迂闊に鍵を渡したのはソラリクスなんだから、当たり前じゃないの。
「そうです。ちゃんとシームルグの部屋で私の安全を守るために待機しててくださいね」
「えーーーっ!嫌だよ!少しでもシームルグから離れたくないよ!」
ソラリクスは嫌だ嫌だと駄々っ子のように首を振る。
そんな悲鳴は無視をして......まあ、でもやっとソラリクスとシームルグが通常運転に戻ったようでホッとする。
「じゃあ、今度こそ私はガルーダはデートではなく、一緒にただ外に出ます。いいですね、二人は帰るまでに喧嘩はダメですよ。もし喧嘩したら、どっちが泣いても、ドアを締め切りますからね。」
「喧嘩しないわ。だって、ソラリクスは体調を崩したのよ」
泣きそうな顔をしたシームルグを見て安心する。
喧嘩をふっかけるのはシームルグだからね。
まあ、少し二人っきりにしてあげましょう。
私はふふっと微笑んだのだった。
◆◆◆
「空部隊で動く服装か...そしてある程度威厳があり、攻撃対象にならないようにしたいな」
「月光をイメージするなら、黒かなあ?」
「もしくは、前回と同じようなグレー、ピンクからきたピンキーなら、いっそピンク。」
「わざと言ってるでしょ。やめてちょうだい。」
私は、思わず聖女ピンクの顔を浮かべて、嫌なものを思い出しちゃったわと顔をしかめた。
「フェニックスは例外で真紅の炎を際立たせる服を着ているが、あれは乗る神獣が鳳凰だからな。」
「鳳凰...なんか眩しそうなものに乗るのね」
「鳳凰が飛ぶと目立つんだ。その輝きがソラリクス様の加護に見えてみんな安心する」
そう言って微笑んでいる。
そうか、神獣の世話は、ガルーダの一族だものね。自分の可愛がる神獣がみんなの心を支えるなんて、それは誇らしいはずだわ。
私が変えたいのはそういうことなのよね。
影の支えや努力は必要よ。
でも、影でもちゃんと報われたと感じられることなのよね。
「そうだわ!鳳凰って何色なのかしら?」
「金色がベースで、色が飛ぶ感じだろうか。一言では表現しにくいが...」
それを聞いて、わたしは決心した。
それなら、やっぱり漆黒の黒ね。鳳凰を、映えさせて尚且つ目立つならそれがいいわ。
ただ、鳳凰の金に、私の黒、フェニックスの紅って目がチカチカしそうだけど...
仕方ないわ、色のセンスはないんだもの!
でも、顔はシームルグだし、きっとあの可愛さを黒は最大限に引き出してくれるでしょう...私はそう思うことにした。




