44 君を思って付けた名前
「飛鳥、この室内灯は素晴らしいし、絶対欲しがる人がおおいはずだ。ただ、二人で街で配るには無理があるんじゃないか?一回に100個持って配るのは無理だ。一斉に配りたいなら兵たちも使うか?」
最初はなんだこれは?と室内灯を見ていたガルーダだったが、試しに真っ暗な部屋に入れると、前の世界でいう普通の灯りのようにご飯を食べたり、本を読んだりすることができる明るさはしっかりあることに呆然としていた、
「室内灯は石の光で出来ているから、日中はただの石にしか見えないんだけど、暗くなるとしっかり明るく光りだすのよ。それに鏡の効果で室内を明るく照らしてくれるの。」
私はガルーダに室内灯の説明をしていると、ソラリクスも床に並べられたものに関心があるのか、声をかけてきた。
「ああ、これはかつてシームルグにプレゼントした月光石じゃないか。」
ソラリクスが、室内灯を驚いた顔で見て、手に取ってみる。
「へえ、この原料の石、月光石っていうんですか?」
「ガルーダが......ああ、500年前のだよ。彼が何かに使えないかと持って帰ってきた。夜になると綺麗に光るだろう。それが素敵でシームルグにちなんで月光石と名付けて、プレゼントしようとしたら、シームルグってば怒り出しちゃってさ。」
「その、君を思って名前をつけた石だって伝えたんですか」
「伝えられるわけないよ。渡した瞬間から、1週間口を聞いてくれなかったんだから。」
ソラリクスってなんて間の悪い男なのかしら?
いや、ソラリクスは彼女にちなんだ名前の石をプレゼントしただけなのよね。
その光った石を見て、これは次の室内灯にできると勝手に思いついて勝手にショックを受けたシームルグが天才すぎたのかしら?
「シームルグ、聞いた?これ月光石っていって、ソラリクスがあなたのことを思って付けた名前の石なんだって」
シームルグは、ぷかりぷかりと浮かせていた本をバサバサバサっと落とす。
「そんなの聞いてないわ!」
「だ、ダメだよ。飛鳥!この石に彼女由来の名前をつけたなんて、シームルグが気を悪くして怒ってしまうじゃないか」
「怒るに決まってるじゃないの!なんで一言、君の名前をつけたって言わないのよ。わたしが電気の室内灯を開発できたと同時に、その石を持って来るなんて嫌がらせだったと思ったじゃないの」
「えっ??」
ソラリクスは愕然としている。
やっぱり間が悪いのね。
ガルーダも気の毒そうな顔をしている。
「ま、まあ、わたしがいた世界でもよくあることよ。未発見の魚とか星に名前をつけるとか......あれときっと一緒ね」
「名前をつけてもらったら記念になるもんな」
そうだそうだと神と幽霊の元カップルの仲をわたしとガルーダで必死に取り持つ。
「それで、ソラリクス様。その月光石を使って作った室内灯を、まず100個広めようと思っているの。ピンキーというものが、開発したと言ってね」
「聖女ピンキーかい?」
ソラリクスが、ふふっと笑いながら、また面白そうなことを考えているねと呟いている。
「いいえ、ただのピンキーよ。今、突然夜がやってきて、みんな大慌てよ。残念ながら、夜に感謝する人はまだ少ないんじゃないかしら?だって、火で室内を明るくする方法は、普通に生活するには暗いし、火災の危険性もあるわ。
そんな時に、この何もしなくても明るくなって、熱くならず安全なものが100個しかなかったらどうなるかしら?」
「それは......みんな欲しがるだろうな」
ソラリクスがそういいながら、へえっと少し意地が悪い底冷えするような微笑みを浮かべる。
どうやらわたしの企みに気付いたようだ。
「人は手に入らないものほどすごく欲しくなる。そして、それを持っている人は、つい人に自慢したくなるんです。どんなものかを知った時に、みんなが欲しい思える品にしてありますから、なんとしてでも欲しがる人がふえるでしょうね」
「だけど、どうやって欲しがる人は手にしようとするんだ?」
ガルーダは、眉をひそめて室内灯を見る。
「家だけではなくこの城の人間や部署だってほしがるだろう。地の部隊の更衣室も真っ暗な中で兵は着替えているからな。違うやつの服を着てしまったとトラブルが絶えない。今は、ソラリクス様が飛ばしてくれた街灯の灯りと蝋燭を頼りにしているぐらいだからな」
どうやら、ガルーダもこの室内灯が欲しいようだ。
「そうね、だからみんな誰に言えばこれが手に入るのか知りたいと思うの。だからこの100個を配る時に、ピンキーの名前を伝えたらピンキーは誰だってことになるわ。
聖女ピンキーとは別に、発明家ピンキーが登場するの。
だから、自分たちで配ろうと思っていたの。
兵に配らせたら間違いなく、この発明家ピンキーに加えて、聖女ピンキーまでアピールしてしまうでしょ」
「でも、聖女ピンキーが発明したとは考えないか?」
「聖女はみんなカラドリウスからの伝統を守ってきた機械オンチばかりよ。洗濯機すら使えない......ね」
ガルーダは思わず口に手を当てて驚いている。
「たしかに、シームルグ殿と飛鳥を見ているから疑問に思わなかったが、普通は聖女が魔道具を開発するわけないのか。だが、どうする?毎日二人で足を運んで街で配ると、今度は俺たちの顔が割れて、俺たちに問い合わせが殺到してしまう。」
「ふむ、それなら私が配ってしまおう。あと、ここにある発明の使わなくなった塊は原料に戻して延べ棒にしておくよ。」
ソラリクスは、紙束を出すとそれを人型にハサミで切り始める。それを一枚一枚床に並べると同時に紙が膨らんでいき、人型になる。
それを年齢、性別などをすべて変えながら一人一人、人を作り上げていく。
「任務が終わればここで紙に戻る。いいね、ピンキーが作ったらしいといって配るんだ。おしゃべり好きな人を探すんだよ。」
ソラリクスがその人型に言葉をかけると、みんな一斉に室内灯を持って各自散らばって行く。
それはまさに神の作業で、私とガルーダは呆然としていた。
一方でシームルグは、すっかり恋する乙女になっていた。
「やだ!この石、わたしに関わる名前をつけてくれたなんてもっと早く知りたかったわ」
とオロオロしながら真っ赤になっているのだった。




