43 500年ぶりの再会
「えっ??なんか飛鳥?昨日よりやつれて見えるんだが」
おはよう言いかけて、ああそうだった。
ここでは朝のご挨拶はないんだったと気づき、ボーッとした顔で、予定通り食堂でガルーダと待ち合わせした。
「うん、寝てないから」
寝ずにひたすら室内灯を100個作ったのだ。
「何やってるんだ!やることがあるなら、俺も一晩一緒にすごしたのに」
ガルーダがややキレ気味にわたしに言った瞬間、ざわめいていた食堂が一瞬にしてしーんと静まり返る。
「あの子聖女課の......」
「一晩一緒に過ごすとか言ってなかった?」
「昨日も夕方一緒に過ごしてたよな」
「見た見た。訓練場で待ってたよな。そういえば、今日からガルーダ様休みに入ったよな」
「聖女課も休みだって」
はい??いやいや!
おいおいおい!!ちょっとまってよ!
なんて朝から出回る話が高速スピードなの?
娯楽が無さすぎるんじゃないのかしら?
「ガルーダ、発言に気をつけてちょうだい。とんでもない方向に話が飛躍しているわ」
「気にしないでいいだろう。」
「するわよ!!どこに出会いが転がっているかなんてわからないんだからね。」
わたしは自分を愛してくれる人との出会いを諦めているわけじゃないんだからね。
時渡り効果で、愛してもないのに交際や結婚をするのはダメだと思っているだけなんだから!!
焦りながら、わたしは、メニューからコーヒーを探す。
「おい、今日は街に行くから少なめにしとけよ」
「やった!外で食べたことないから楽しみかも。どんな料理があるのかしら?じゃあ、おむすびにしておく」
この世界に来てからは、珍しいメニューをすすんで食べていたが、海外旅行と同じで食べ慣れたメニューを選ぶことにした。
前の世界と風味や硬さは違うけど、米もパンもあるのはありがたい
だがーーー
「デートなんだ」
「一緒に街にっていってたわよ。」
「ガルーダ様にもいよいよ春が」
再びそういう声が耳に入って、急いでおにぎりを突っ込もうとして喉に詰まりかける。
「が、娯楽を作らないとダメね...なんでも話題がそっちに流されちゃう。全てが元通りになったら娯楽を作る提案をしたいわ」
「おい、大丈夫か」
ガルーダが慌てて、背中を撫でようとする。
それによりきゃーっという声が遠くから上がるのを聞き、更に喉が詰まってしまう。
慌てて、むぐぐぐぅといいながら詰まりかけた喉に、コーヒーを流し込んで一息ついた。
◇◇◇
「これはまた、すごい数だな。」
室内灯が一斉に並ぶ状況を見てガルーダが言葉をなくす。
「飛鳥、わたし今日から寝ずにひたすらいらないものを出し続けておくから」
シームルグは2階からわたしに声をかけた。
書き留めたノートや材料が、各部屋に大量にあるのに、廊下が片付かず部屋を大きく開けられない。
さらに大物になると、わたしの力では持ち上げられないのでシームルグ自身がいらないものを外に出すしかない。
室内灯に使う材料をかき集めて、それを作る道具を取り出すだけで昨夜は一苦労だったのだ。
「わかったわ。金属ゴミだけは、どうにもならないわよね。ソラリクスはエーテリオン様に言えば片付けてくれるって言ってたけど。」
私は、困ったことになったわと大量の発明ゴミを見つめた。
エーテリオン様を呼べば、当然どうやって外に出したんだという話になる。
見るからに人の力で持ち上げられるとは思えないし、エーテリオン様だって一人でなんとか片付けられる量じゃないわよね...
それにできれば、今は接触は避けたい。
でも、ただでさえ見栄えが廃屋のような屋敷の横に、大量の金属ゴミが外に転がっているのは嫌だわ。
「なんか困ってる??」
ぎくっ!その声は、恐る恐る振り向くとソラリクス!
相変わらず、このタイミングなのよ。
なんか困ってそうな時に、分かってて来るみたいな。
ガルーダは、急いで一歩下がり膝をついている。
え??ソラリクスってそういう存在なの??
私も膝をつこうか。
なんか屈辱だわ。
「いいのいいの、ガルーダ。ここではそれはやめて。そんなことをしたら、飛鳥とシームルグの関係も崩れてしまう」
ソラリクスは微笑みを浮かべて、ガルーダやわたしの動きを手を前に出して止めさせた。
「シームルグと話をしてくれた?ひどいよ。ガルーダはこの屋敷に出入りしてるのに、わたしはシームルグと話せないのかな」
「今はダメです。」
「えーっ!ダメなの?」
ソラリクスは明らかに肩を落とす。
何落ち込んでいるフリをしてるんだか。
今度こそ騙されないからね
「この間、シームルグがタヌキ寝入りしてる時に声かけたらよかったじゃないですか」
「触れそうで触れられないところまで近づけたのが500年ぶりだったんだよ。やっとそこまで寄ることを許してくれたのに、怒らせたくないじゃないか」
シームルグは猫かい!!
「シームルグはソラリクス様と会って話をするとは言ってました。でも、心の準備がいるんですよ。もう少し、待っていてあげてください」
わたしは、仕方ないなあとため息をついた。
自分がしでかしてしまったことを分かってないからかしら?
指輪をカラドリウスにプレゼントしたことやカラドリウスとの付き合いは、ベンヌが一枚噛んでいるからなんともいえないけど、ソラリクスは時渡りとは関係なくやらかしてしまったことがあるんだからね!
シームルグやわたしの顔が平凡で不細工だと思っていたのは、カラドリウスではなくソラリクスの価値観なんだから。
本当なら平手打ちをかましてやりたいわよ。
「そうよ。もう少し待っていなさいよ!」
その声に再び飛び上がる。恐る恐る、玄関の方をみる。
シームルグだ!
なんであの子出てきたの!!
ガルーダもギョッとして、目を見開いている。
500年ぶりの再会!
だが、驚いたのはもちろんわたしだけじゃない。
ソラリクスの方が衝撃が大きかったようだ。
「シー...ムルグ...」
「もう少しして準備したらちゃんと、近いうちに話すから、飛鳥を困らせちゃダメだからね。そ、その...荷物たくさんすぎて大変なの。雑談しないでいいなら、片付け...手伝わせてあげるわ」
ぷいっと横を向く。
それツンデレだけど、無茶苦茶かわいいけど、会わないんじゃなくて会ってるじゃないの。
そして、ソラリクスは腹黒いって言ってたじゃないの。
雑談しないで二人で黙々と片付けなんて出来るわけないでしょうに。
「お風呂、ここで飛鳥が入れるようにしてあげたいし...飛鳥がこの家を使いやすいように早くしてあげたいから」
唇をとんがらせて、指をこねくりまわしてもじもじするシームルグは、完全にこじらせ女子だ。
「するよ!絶対に君と雑談しないように片付けるよ。
そうだな!今夜はもうここでお風呂が使えるようにするし、いらないものもちゃんと片付けるし、部屋も綺麗にしてあげるし!シームルグに重いものなんて浮かばせさせないよ!」
おいおい、ソラリクスってつくす男だったのか
人が変わったように、いや神が変わったようにというべきか?
もはや、シームルグの犬!
「シームルグ、ええと?いいの?」
「いいのよ。むしろ、核心に触れる前に少しぐらい思い出に触れたくなったの」
「そうなんだ。」
「大切なものは、もう片付けてあるし」
ワードローブね...
なるほど。
ソラリクスの気持ちが舞い上がりすぎているのだろう。
外の風がビュンビュン吹き始め、下手をすると竜巻を起こしそうだ。
げっ!危ない!ソラリクスって天気まで左右させちゃうの!!
「ソラリクス様、気持ちをコントロールできないなら出ていってもらいますけど...」
わたしが強すぎる風に、思わず叫ぶとソラリクスはピタッと止まる。
そして、そーっとわたしの顔を伺う。
「それは.....勘弁してほしい」
耳でもついていたら、間違いなく垂れているだろう。
「まあ、500年ぶりなんだから飛鳥も許してあげろよ」
ガルーダも主君の変わりようにどうしたらいいのかわからない様子だ。
ソラリクスの少年のように破顔する。
そっとガルーダとわたしが隠れて様子を見ると、早速シームルグに怒鳴られながら嬉しそうにしているソラリクスがいた。
500年前のシームルグとソラリクスは、このような日常をささやかな幸せにしていたのではないかしら?
そう思うと、胸が痛くなった。




