42 時渡りの自制
「明日、食堂で会って合流しよう」
ガルーダはお城にあるシームルグの部屋には入れない。
そのため、朝食の時に食堂で待ち合わせになった。
「エーテリオンは、シームルグの部屋の鍵を持っているわけだろう?家の鍵は大丈夫か?家の合鍵ももっているなら、飛鳥は危険じゃないか?」
エーテリオンが聖女ピンキーを狙っていることを聞き、心配してくれているらしい。
「シームルグが入れないようにはしてくれるとは思うけど」
「思うじゃなくて、絶対誰も入れないように気をつけろ。あと、強引にエーテリオンが飛鳥を聖女ピンキーにして、結婚しようとするなら、俺と結婚して阻止する方法もあるってことを覚えておいてほしい。」
ガルーダは、まっすぐな目でわたしを見つめた。
「なっ!!何言ってるの!私たち付き合ってもなければ、恋仲でもないわよ」
人生初の、プロポーズに近い言葉をかけられて焦る。
顔が真っ赤に火照っていくのを感じる。
「飛鳥が、自分の人生をかけてシームルグ殿を助けたいと思っているのと同じだ。俺も、飛鳥を助けたいと思う。
ただ、エーテリオンは、俺たちと違い洗脳されているわけではない。聖女と結婚することが正しいと思っているんだ。
正義のために正しいと思ったことは、強引に推し進めるから執政官になれるんだ。
いつでも、俺は飛鳥の盾になる。それを覚えていてほしい」
ガルーダは真剣な顔をしていた。
思った以上にエーテリオンは敵に回すと恐ろしいのかもしれない。
「ありがとう。ガルーダ。でも、結婚相手には自分を愛してくれる人以外は選ぶ気はないわ。
ほら、私家庭に問題があって、父も母も私をみてくれる人じゃなかったから。だから、夫はどんな顔でも姿でもいいけど、自分を愛しているから結婚したいと言う人以外とは絶対ない。エーテリオン様は、聖女であることだけしか求めてないもの。だから足掻くわ」
「そうか.....」
わたしは、ガルーダに「明日ね」と言って見送りながら、切ない気持ちになった。
これが、これから、わたしについてまわる「時渡りの力」
ガルーダは良い人なのだ。
本当に心からわたしの盾になろうとしてくれている。
だが、わたしを愛しているから結婚の話をしたわけではない。
時渡りの力で、私が望む方向に変わっていくから、彼は私を支えようとしてくれている。
エーテリオンも悪い人ではない。
ただ、カラドリウスの望む方向に加えて、500年と言う歴史が生育歴に加わってしまった。
彼が聖女ピンキーを望むのは、その歴史に加えて、時渡りの変化を起こしつつあるわたしを、無意識に求めつつあるのだろう。
カラドリウスはその効果を、自身の欲求のまま動かして、周りを巻き込み、従わせるか排除するかという選択をした。
私は、これからこの世界で誰かに愛されたいという欲求を封じ込めて、自分と戦わないといけない。
そうしなければ、カラドリウスの二の舞になるもの。
わたしは、ふーっと息を吐いて夜空を見た。
これから、この夜を支配する月光神を演じ切る。
ありがたいことに、仲間はいるわ。
夜が当たり前のように始まり、街の景色が少しづつ変わり始めた。
家の中に、灯りが灯りはじめたのだ。
ただ、火を使った灯りが主で、寝静まってからは不便が絶えないし、火事の心配もあるという。
「あっ、そうか!電気だ!!」
シームルグのことだ。
おそらく雷の魔石を使った電灯を考えついているかもしれない。いや電気と言わず、何が思いつくことがあるかも。
「ピンチはチャンス!早速、世の中に灯りをつけるわよ」
わたしは、小走りで家に戻って行った。
◆◆◆
家に戻るとシームルグはいよいよ、階段を元に戻していた。
「飛鳥、再び捨てるものは外に出すわ。2階に色んな書き留めたものが残っているの」
そーっと2階を上がると、左右にドアがたくさん見える。
一人暮らしだったとは思えない広さだ。
1階ほどひどくはないが、ドアを塞ぐ程度のガラクタが大量に見える。
そのドアを開けないと、書き留めたものは出てこない。
「わかったわ。燃やせるものと燃やせないものに分けて。あと、シームルグ、突然夜がやってきたから、街の人が灯りを欲しがっているの。かつて、家の中を照らしていたものはあるかしら?」
シームルグは、大きな発明ゴミをぷかりぷかり浮かべながら、考え始める。
「たしか...あったような気がする。」
「お、置いてから悩んでちょうだい!こっちは、それが落下して当たっただけで成仏してしまうんだから!そもそもその大きな発明ゴミはなんなのかしら?」
「これは、この建物を掃除してくれるはずの機械だったんだけど、荷物が散らばってそもそも掃除にならなかったの。錆びちゃったし、もう使えないわ」
わたしは、頭上を大きな鉄の塊が通るのを感じて、思わず手を頭の上に当てる。
といっても、そんなものが落ちたら手も含めてぺちゃんこだわ。
「先ほどの灯りだけど、作ったことはあるんだけど、発明というほどのものでもなかったのよ」
「どういうこと?」
シームルグはその時のことを思い出したらしく不満気な顔をした。
どこかの部屋の扉を開けたがっている。
「飛鳥、ここを開けて」
「まだ廊下の荷物が邪魔になって、少ししか入れるスペースがないわよ」
少し開けたものの、人が一人入ることはまだ難しい。
「確かこの中にあるわ。取り出してくるわ!ちょっと待ってて」
シームルグは自由自在に通り抜ける。
そして、すぐに石を抱えて出てきた。
白く、磨いていない水晶のような塊だ。
でも夜だからわかるけどぼんやり薄く光っている。
「最初は時渡りからガス灯というものを聞いて、魔力ガスを代わりに使ってみたのよ。それを街灯に使おうとしたんだけど、ガス切れしたらその度に兵が街を回って毎日ガスを入れるのが大変で不評だったのよ」
おお!ガス灯!
それこそ映画でしか見たことないけど、オシャレよね。
あ、でもそれだと火よね。
蝋燭よりは明るそうだけど、安全とは言い難いのか。
「で、次の時渡りが持ってきた本に、電球というのがあってこれはいいと思ったの。電気魔石のかけらを練り込んで、金属の糸を熱するの。それに時を止める加工をすれば、変わらずずっと明るいままよ」
「電球!それそれ!私がいた世界でも使っていたわ。」
「ところがね、ずーっと金属の糸に熱を持たせるというのは安全じゃないの。で、熱したり冷ましたりが自由にできないと使いにくいというのよ。私は魔石からでる電気回路のコントロールに日々苦戦していたわ。そして、やっとこさコントロールできるようになったのよ」
発明って大変よね。
うんうんと私も頷きながら、それならどうしてシームルグはそんなに不服そうなのかしら?
夜がなくなって需要がなくなったからかしら?
そう思って、シームルグの次の反応を待つ。
「そうしたらね。ソラリクスがいいもの見つけたからってプレゼントしてくれたの。この石よ。」
「ぼんやり光るけどそこまで明るくはないような...」
わたしはシームルグが浮かべている石を見て首を傾げる。
「それは原石なの。それを研磨したら、小さなかけらでも部屋を明るくすることができる原料になるわ。四方八方を鏡で囲んで光らせたら、電球みたいに熱くなくて、全体を優しい天然の光が包んで、しかも石だから延々に光るの」
「えっ!!」
「そうしたら、わたしが作ったものなんてもう必要なくなるじゃない。悲しくなっちゃっていじけてたら、カラドリウスが時渡りとしてやってきてドタバタに...」
それ、もはやLEDの最先端版みたいじゃないの。
電気代かからなくて、石の光で未来永劫。
「その石たくさんあるの?」
「世界中にたくさんあるみたいよ。ガルーダなら地帝だから知ってるんじゃないの?洞窟の奥や、鉱石の中に結構出てくるけど宝石にならないからって捨て置かれてるって聞いたわ。結局世の中に出回る前にわたしは死んだし、夜も無くなったから作ることも使うこともなかったけどね」
シームルグは、ソラリクスはそういうところの乙女心がわかってないんだからと頬を膨らませる。
一方で、わたしは世の中に出回ってないという言葉にピンときた。
「それだわ!!シームルグ!これ、今夜中に100個ほど作れないかな?」
「そりゃ、飛鳥が作るんだから、飛鳥が頑張れば作れるんじゃないかしら?」
シームルグは何事なの?と怪訝な顔をしている。
ピンキーの名前を一気に広めるチャンス。
「シームルグ!ピンチをチャンスにしましょうね!」
その夜、街に灯りを灯すわとやる気満々な私と
「えーっ!片付けするのに!」
と片付けに勢いづいたシームルグの更に不満げな顔が、一晩中、交差したのだった。




