41 わたしが代わりになる
「飛鳥が、シームルグになる!」
「飛鳥が、私になるですって!」
二人の声がリンクした。
「いや、なるって言っても顔が違うのにどうやってなるんだよ」
ガルーダは困惑する。
シームルグは、どうするのか私の考えがわかっているから、オロオロしている。
「私は500年聖女が受けていた評価をシームルグに返してあげたいの。あなたはそれだけの発明や薬を使って、魔獣だってコントロールしてきた。それをみんなは知るべきよ」
「で、でも......飛鳥がわたしの顔になったら、みんな嫌悪するわ。だってみんなわたしを嫌ってるのよね」
ガルーダは、どう言ったらいいのかと言う顔をしていた。
確かにシームルグは今でも世紀の大悪女だ。みんなが嫌っているのは間違いない。
「以前、絵のシームルグとわたしの顔が同じで死刑にされそうになったっていう話をしたわよね。
あれ、シームルグが思っている風刺画のことじゃないのよ。実は、別の場所に大きな絵が飾られていて、そこに描かれたシームルグと私がそっくりな顔なの。
今、世界中の人は私の顔をシームルグだと思ってる。思ってないのは、ソラリクスだけなのよ」
「もっと...大きな絵??」
シームルグは、ガツンとショックを受けたような顔をしていた。よく考えたら、屋敷に閉じこもっていた彼女は、その後亡くなったのだから、あの最後の晩餐風の絵の存在を知るはずがない。
彼女は500年前に描かれた風刺画の絵がまだどこかに残っていると思ったのだろう。
「どんな......絵なの?」
シームルグは震えるように聞いた。
伝えるべきなんだろうか?
それが変化になるんだろうか?
「カラドリウスの悪意が発動したと思われる絵よ。ちゃんとソラリクスが、あなたの姿を認識するまでは、今は内容は言わないわ」
だって、シームルグがソラリクスを殺そうとした瞬間なんて伝えられないよ。
それに、ソラリクスは生きている。だから、あの絵はそもそもが嘘だ。
知る必要もないよね。
「つまり、どうするのかはわからないがシームルグの姿になって、フェニックスと視察に行くってことだな。」
ガルーダの問いに、わたしは頷いた。
「ピンキーは、ソラリクスのシールドとシームルグの薬、そして月光神の力でみんなを助けたの。わたしは、顔を隠して、声も極力隠していた。でも、みんなピンキーに感謝していると言ったわ。
わたしは、シームルグの顔でシームルグの作ったものと同じ薬で、出現するかはわからないけどシームルグと同じ力をみんなに見せようと思う。」
「でも、それじゃ聖女が活躍しているようにしかみえない」
ガルーダは、それでは解決しないだろうと心配そうに私とシームルグを交互にみる。
「ガルーダみたいに、きちんと話を聞いてくれる人が増えたらシームルグの発明も薬も、この家で見つけたものだと伝えるわ。そして、次の月光神を私がこの顔で名乗るわ」
「それは、お前が死ぬまでずっと月光神を演じ続けるということだぞ!」
ガルーダが信じられないと言う顔をした。
シームルグも反対する。
「飛鳥、気持ちは嬉しいけど、もうわたしは死んでいるわ。月光神は夜しか活動できないのよ。そんな苦しい思いを、飛鳥にさせるわけにはいかないわ」
「シームルグ、わたしは時渡りで本当の月光神じゃないもの。なんなら24時間営業できるわよ。それにね...」
わたしは今日のエーテリオンの話をした。
「嘘!エーテリオンの一族が聖女と結婚し続けているってことは、ベンヌが聖女と結婚したってこと?」
シームルグは幽霊だが蒼白になる。
「そうだな。エーテリオンの一族はみんなその時代に有名と言われる聖女と必ず結婚することにこだわっているぞ。それは、500年前のエーテリオンの先祖のベンヌから代々続いていたはずだ。
だけど、聖女ピンキーを狙うって、お前が狙われてるってことじゃないか?」
ガルーダも、なんで言おうか言葉を探しているが、ショックを隠せないようで、私の顔をまじまじとみつめる。
「飛鳥、わかってるのか?
ソラリクス様は、飛鳥が聖女のフリをすることを認めている。そして、ピンキーである飛鳥はすでに力を見せている。お前は、聖女ピンキーにもなれるんだぞ。
いや、エーテリオンのことだ。飛鳥が望まなくても、聖女ピンキーにしてしまうかもしれない」
「やだっ!ガルーダ!飛鳥を取らないように負けちゃダメよ」
それを聞いたシームルグは、再び目をキラキラさせて、話が脱線しそうになる。
「だから、シームルグ、それは違うんだけど...
でも、そうね。エーテリオンは、私がピンキーなら迷うことなくプロポーズするって言われたわ。もしかしたら、もう薄々気づいているのもね。」
私はため息をついた。
シームルグもガルーダもそれを聞いてギョッとした顔をする。
「大丈夫よ。いくら私がモテなくっても、私を好きなんじゃなくて私が聖女だったら好きなんていう男と結婚したいと思うわけないでしょ。」
そう言って、じと目でわたしはシームルグとガルーダをみる。二人は、
「まあ、そう言われると、身もふたもないわな」
と、うなずいた。
「ただ、ガルーダのいうとおり、無理矢理私を、聖女ピンキーにしてしまう可能性はあるわ。彼は、自分は聖女と結婚するべきだと聞かされて育って今の彼になったんだもの。
これは、エーテリオンをそうさせてしまった500年続くカラドリウスの執念と、あるべきものをあるべき場所に戻したいと思う私の戦いなの。同じ時渡り同士の戦いなのよ」
ガルーダは、私の話を聞いて、じっと何かを考え込んでいるように腕を組み、一点をみつめている。
一方で、シームルグはわたしを真正面から見つめていた。
「私がみんなのために作った薬や発明、ノートに全部残してるの。みんなのために、飛鳥が使ってくれる?」
「うん、きっとシームルグの薬を欲しがっている人はたくさんいるわ。必ず困っている人に届けるわ」
シームルグは、軽く頷いている。
いつものほわほわした雰囲気のシームルグではなかった。
そして心配そうに聞く。
「夜の魔獣も減らさないといけないの。それもできる?」
「それは俺たちがやることだ。月光神が一人で頑張ることじゃない」
ガルーダが慌てて口を挟み、私もそうねと笑う。
「減らせって言われても、私はシームルグの偽物だから魔獣を減らせないわ。でも手伝いはできると思うわ」
わたしは、ホッと息を吐いた。
「なんか、伝えたらほっとしちゃった。だからこれから視察までに、シームルグに薬の作り方を教えてもらわないといけないし、それっぽい服も探さないといけないし、薬の素材も取ってこないといけないでしょ。シームルグとガルーダに手伝ってほしいの」
「それは、もちろん協力する」
ガルーダは大きく頷いた。
「そして、シームルグ。500年前にあなたにソラリクスカラドリウスが恋仲だと伝えてきたベンヌが聖女側だったことがわかったんだから、もしかしたら、過去のことは聞かされているものとは違うのかもしれないわよ。
私がフェニックスとシームルグの顔で視察に行く時、ソラリクスは自分の過ちを全てを悟ると思うわ。そうしたら、ちゃんと二人で話したほうがいい」
シームルグは、手が震えていた。
時おり、体が薄くなり、自分を保つのが苦しそうにすら見える。
「わたし、最後の記憶がないの。もしかしたら、私が描かれている絵って、私の最後の姿なのかな?500年経ったんだもの。向き合わないとダメよね」
泣き笑いの顔で、シームルグはわたしを見つめていた。
「飛鳥が戦ってくれるなら、私も戦うわ。だって、今度の時渡りは、わたしの親友だものね」
その震えた声を聞いて、わたしは頷いた。
「ええ、私たち何があっても絶対親友よ」
私とシームルグが二人で流す涙を、ガルーダは眩しそうに見つめていた。




