40 時渡りの変化
エーテリオンの後ろをまるで死刑囚のような顔をしてトボトボ歩き、連れてこられた地の部隊の場所は、城から出たところにあった。
「魔獣が出たり攻撃にあったら、すぐに対応しなければいけませんからね。地の部隊も空の部隊も城から出たところに作ってあるんですよ」
ごめん、エーテリオン様。
一瞬でも、聖女ピンキーだとバレて殺されるか、聖女ピンキーだとばれて手ごめにされるかと疑ったわ。
ちゃんと連れてきてくれたのね。
ただ、どこまで騙されたフリをしてくれているのかはわからないけれど...
気を抜くなと思いつつ、目を周囲に走らせてギョッとする。
「なんか、動物がたくさんいませんか?」
動物なのか、魔獣なのか?
馬小屋には、先日、空海陸を飛んだり、泳いだり、走ったりした馬がいたし、鳥小屋には、先日我が家にやってきたグリフォンが数匹?数羽?いた。
チーターのような体で、猫バスのように脚が多いものもいたら、象に羽がついて飛び回っている。
うーん、なんだか頭がバグりそうだわ
「おい、ガルーダはいるか?」
近くに通りかかった兵に、エーテリオンは声をかけた。
「ガルーダ様は訓練場ですよ。先日、大量に魔獣が出た時に兵が混乱してしまったから、もう一度叩き直すって凄い勢いですよ。お急ぎですか?」
「いや、聖女課に勤める時渡りの子が、ガルーダの様子を心配してきたんだよ」
エーテリオンはにこやかに言うが、すごく自分が邪魔だと言うことが分かったわ。
ここは、「お忙しそうなのでまたにします」というべきかしら?さすがに、私と一緒に街にショッピングに行きましょうと言える雰囲気じゃないわよね。
「あ、あの忙しそうなので...」
「聖女課の方ですかぁ!!」
兵はそんなわたしの言葉はガン無視で、手を握りしめる。
「い、いえ。私は聖女ではありません」
ぶんぶん頭を振って違うとアピールする。
ジズとかシスターズの裏側?の顔ばかり見てるけど、なんか、聖女って無茶苦茶人気なの?
芸能人の裏の顔を知っているマネージャーのような気持ちになってくる。
「ピンキー様にぜひお伝えください。私は先日ピンキー様に命が危ない状況で助けられたものです。」
「そう...なんですか?」
ピンキー!ああ、良かった。
いや、良くないのか?
でも、聖女じゃなくてピンキーが人気なのね。
聖女の裏の顔や能力に騙されている人ではないことを知り、なぜか安心する。
「ええ、アンデッドヴェノムバットに食いちぎられて、自分でも命がもう潰えると思っておりましたら、温かい声と光に救われました。一言お礼を申し上げたいのに、あの時の私は衰弱しておりそれも叶わず。どうかピンキー様に、あなたのおかげで生きていると伝えてください。」
両手を握りしめられ、目に涙を浮かべる兵にじーんと心が熱くなった。
ちがうよ。ピンキーだけじゃないよ。
あなたを助けたのは、シームルグもだよ。
そう口にしたくなった。
「あ、あの、もしピンキー様に会えたら伝えます。」
「はい!ぜひ、ああ!ガルーダ様はこちらです」
引っ張られるように私は兵に案内される。
「ピンキー人気はすごいな。飛鳥殿、ピンキー殿と会えたら、私にも一度お目通りをさせてほしい。ソラリクス様は、また今度だと言って会わせてくださらなかったんだ」
私の横で、不満げに語るエーテリオンの雰囲気から、間違いなく見合い相手として考えていることがわかった。
いえいえ、私は聖女じゃないからね。
時渡りピンキーだからね。
ソラリクス、もし、私を紹介したら本当に許さないだから。
私は兵に導かれるまま訓練場に向かっていった。
◇◇◇
「ええと...どれがガルーダ?」
こう言う時って、少女漫画とかだと、主人公の目には、求める人が一番に目に入って、滴る汗に心がズキュンみたいなもんじゃないのかしら?
うーん、みんな防具してるし、すごい広いし、人も多いし、魔獣が飛んでるし、誰が誰だかわからない。
なんか、リアル大河ドラマに放り込まれたような感覚になるんだけど?
「大丈夫です。すぐ連絡を入れますので」
「い、いえ。入れないでください。ここで訓練が終わるまで待ちますから」
そうだ!兵の勢いに圧倒されてしまった。
そもそもここに居てはいけないから帰ろうと思っていたのに、つい無理を言ってここまで来てしまった。
ここまで案内してもらったし、ここで待つけど、これ以上は、ダメだ。
兵にお礼を伝えると、「そうですか?」と気にしながらも去って行く。
「飛鳥さん、そんな消極的だと聖女課ではつらいでしょう。誰をも押しのけて行く性格じゃないとジズたちの元でずっと使いっ走りになりますよ」
エーテリオンはため息をついた。
そして、わたしと一緒に、訓練風景を一緒に見つめながら、ぽつんと呟いた。
「まあ、でも彼女たちも変わってきてるんですよ。今日は休みの連絡だけじゃなくて、ジズから、聖女課にあるプールと植物園は維持がしんどいから撤去予算を検討してくれって言われたんです。」
「えっ!あの植物園と波打つプールですか?」
ジズはそんなこと一言も言ってなかったのに...
でも、今日は様子が違うわたしを気遣う言葉をかけたり、なんか少しづつジズも変わっている気がする。
「500年前からカラドリウス様が必要と言われて、あの聖女課の環境は続いているけど、プールは掃除してないから誰も入らないし、むしろカビの原因になるっていうし、植物園は湿度が高くて臭いの元になるっていうんでね。
私もそう思うので、会議にかけて壊していいならその方がいいかなと思っています」
「そうなんですか」
たしかにそうだ。緑は癒しにはなる。
でも、植物も呼吸しているし、湿度が高いのだ。
正直、ずっと過ごすには、心地よい快適な空間とは言い難い。
それに加えて不衛生なあの波打つプールなんて、それを助長しているとしか思えない。
聖女たちもそれに気づき始めたのか...
私は、これも時渡りの変化だろうか?と感じ始めていた。
◇◇◇
エーテリオンと別れてから、日差しがやわらぎ夕暮れが近づきつつあった。
かれこれ一時間は経っただろうか?
ずっと眺めていると、一人の兵の動きに合わせて、兵の隊列が変わって行くことに気づく。
手を挙げれば、それぞれの持ち場に戻り、その兵が動くと周辺を守るように一緒に飛び回る兵がいる。
「あれがガルーダかな?」
明らかに動きもいいし、統率者であることが分かる。
そして、動いていないようで、常に細かく力が不足しているところに何かを伝えに言っている。
これだけみんな訓練を欠かさず行っていても、今まで見ない多くの魔獣が出て仕舞えば綻びが出てしまう。
「カラドリウスって、権力志向でと承認欲求が半端ないわよね」
だけど、今のわたしはどうだろう?
頼れるのがガルーダしかいないから、運良くエーテリオン様に案内されて訓練場に来たけど、普通は追い出されるのが関の山なんじゃないかしら?
《私が行動するから変化が発生する。》
だとしたら、私のいまの行動は、みんなを自分の思い通りに操ろうとしたカラドリウスと一緒にはならないかしら?
もしかしたら、カラドリウスだって最初はこの世界にやってきて、頼れる人を作ろうと思ったことがきっかけだったのかもしれない。
それがどんどんエスカレートしていった結果だとしたら?
それなら、誰か一人を頼るべきじゃないのよね。
エーテリオンみたいに、洗脳されてなくても500年前の思考を受け継いでしまっている人もいるんだから。
帰ろう.....
私は立ち上がって、訓練場を去ろうとする。
だがーーなんか視線を感じるんだけど?
うぉっ!!
ガルーダをみている私を見ているギャラリーがいる。
「聖女課の時渡りの人ですよね」
「もうガルーダ様終わりますんで」
「誰か声かけた方がいいんじゃないか?」
「こんなむさ苦しいところにようこそ」
兵たちが、わくわくした顔で嬉しそうに声をかけてくる。
「い、いえ。あのちょっと用があっただけで、もういいですから!」
やばい!完全に邪魔になっている。
「いや、いてください」
「あなたが、ここに座ってからガルーダ様の訓練が少し穏やかになってるんです。なんなら毎日いてください」
「俺たちの女神だ!」
「今日は離脱者が少ない」
「ああ、俺明日の訓練なんだよ。今日の訓練ならよかったのに!!」
あっという間に兵たちに囲まれる。
やばいわ。もう、どうやっても目立っている。
そっと抜けるだけのはずが!!
「おい、お前たち、動けるものは片付けを手伝ってやれ」
ドキッ!
ああ、ガルーダが来てしまった。
明日も訓練って兵たちが言ってたのに、無理じゃん。
シームルグになるための買い物に付き合ってもらうなんて言えないよ!!
「おい、明日から少し俺は休むがお前たち訓練をサボるなよ。ちゃんと他のものにお願いしてるからな」
去っていく兵たちにそうガルーダが声をかけると、みんなの目が一斉に輝く
「はい!!」
えーーっ!明日からガルーダいないの?
じゃあ、ますます無理じゃないの!
「飛鳥、すまなかった。姿は見えてたんだが、訓練途中に遮るのは嫌だったからそのまま続けてしまった。」
「い、いやいやいや。昨日はありがとう。わたしのために、嫌な思いをさせてしまったわ。その...たいしたことじゃなかったのよ。ただ、フェニックスの視察に同行することが決まったの。その報告に来ただけ」
じゃ、じゃあねと手を振り、帰ろうとする。
「聞いた。そして、聖女課が明日からまとまった休みを取ると言うのも聞いたから、俺も役立てることがあるんじゃないかと思って休みを取ったんだ。」
「い、いいの?」
思わず前のめりになりガルーダに詰め寄る。
「ああ、対策を練らないとダメだろう。フェニックスは特に聖女への思い入れが強いからな」
何を当たり前のことをと言う顔で返答され、わたしはうるうるになる。ガチの男前だわ。
私の住んでいた世界にいたら、世の女性はあなたを放っておかないわよ!
もしかしたら時渡りの変化で、私の希望に逆らえないのかもしれないけど、必ずこの恩は返すからね!!
私は、ガルーダの両手を握りしめてぶんぶん振ってお礼を言うと、ガルーダは顔を真っ赤にしていた。




