38 【サイド】太陽神ソラリクス 500年前の過ち
時渡りが来ると必ず大きな変化が起きる。
それは、この世界が神である自分が動かなければ何も変わらない世界であるのに、時渡りだけは世界の動きを変えられるからである。
わたしはその変化を好ましいものとして扱っていた。
自分が動かないと変わらない世界に風が吹く、それは窮屈な世界からの解放のような存在だった。
ーー
500年前やってきたカラドリウスは、我々に「美」という概念をもたらした。
それまでは、自身のもつ知力や魔力やスキル、そして代々続く伝統が素晴らしいと言った考えが多くを占めていた。
そこに「美」が評価の要素に加わったのだ。
「人からどう見られたいって大事なのかな?わたしはわたしの好きなように感じて生きるよ」
そういえるのは自分が神で、自分の価値観がほぼ世界の価値観だったからである。
最初、世界が変わっている意識もなく、美が浸透する風が吹いたのだと思った。
「美しいものをみて美しく思える心は悪いことでは無いからね」
だが、カラドリウスの提唱するそれは、内面の美しさとよりも外面の美しさの方が秀でているというものだ。
その歪みが起こってしまったことににわたしは気づかなかった。
「シームルグほど、これ以上になく美しい存在はいない。月光神の働きがあるから昼の活動に疲れたものを闇に冷やして癒し、泣くものがあれば良い夢が見られるように願いをかけ、辛いものがあれば寄り添ってくれる存在だよ」
あの頃のわたしは、今ほど神扱いはされていなかった。
いつもわたしの周りに彼女のことを周りに惚気ていた。
シームルグは、病が流行するたびに良い薬がないかを調べて、似た成分のものを作り出しわたしに伝達した。
力なきものが、困らないようにといろんな便利な道具を開発させては、わたしに渡した。
ただ、彼女は夜の神だ。
困ったことに自分で実践できない。
渡した相手の反応もわからない
彼女は昼は活動しない。
闇に暴れる魔獣を落ち着かせ、昼夜のテリトリーで混乱しないように魔獣を日々コントロールしながら、昼は眠りについた。
だから、この世界に変化を起こすのはわたしでも、その原因を作り出すのはシームルグだった。
良い薬や道具、彼女の動きを世の中に広めるのがわたしの役目だと思っていた。
わたしは、彼女のおかげで、いつも心穏やかに癒されていた。
「仮にカラドリウスに力があったとしても、シームルグ以上の癒しを必要としないよ」
わたしの周りに近いものたちは、そんなわたしとシームルグの関係を微笑ましくみていたし、自分たちのために穏やかな夜を作り出してくれるシームルグに感謝をしていたはずだった。
ところが、なぜか、カラドリウスがシームルグに敵意を向け始めた。
「彼女は本当にみんなのために力を使っているのかしら?だって、彼女がみんなのために力を使った姿を見たことがあるの?」
カラドリウスは昼に発言し、活動する。
そうすると、みんなのシームルグをみる目が変わっていく。
まるで、シームルグは、理由をつけて日中遊びまわる神のような扱いになったのだ。
逆に時渡りの効果だろうか?
カラドリウスの声、動作、ふるまいにみんなが聴き惚れ、彼女が良いと提唱したものに飛びつき、彼女がシームルグに取って代わられたように称賛されるようになった。
いつのまにかシームルグの働きすら、カラドリウスのおかげと言われるようになった。
わたしがどんなにシームルグを庇っても、神の立場で不公平にシームルグに肩を持つと思われるだけで誰も聞かない。
そのうち、街の中を嘘の風刺画が回り始めた。
それは美に狂った女神「シームルグ」が、聖女カラドリウスの活躍を妬んで能力を吸い取ろうとしているといったもので、シームルグとは似ても似つかない顔の女性が描かれていた。もちろん全部嘘っぱちの内容だ。
人と出会わないはずのシームルグがおかしくなってしまったのはその頃からだ。
自分の見栄えを気にするようになり、食事を取らない日も増えてきた。
夜でも部屋に閉じこもりがちになっていき、以前は、私は自由にシームルグの館を出来ていたのに、段々と出入りできる部屋が減っていった。
癒しの神だったシームルグは、どんどん攻撃的になる。
やがて玄関に一歩でも入ろうものなら全身で拒絶し、家にある全てのものが凶器となったかのように全くたち入れなくなった。
だが、当時は変わっていくシームルグに、私は苛立ちを感じているだけだった。
時渡りであるカラドリウスが起こしている変化と関係があるのだと気づけなかったのである。




