36 それぞれの思惑
昨日も今日も濃厚だった。
私は、フラフラしながら家にたどり着く。
確かに私、世界の歪みを直すために、変化を起こせるようにするっていった!いったわ!
でもそれは、睡眠時間と食事時間は確保した上よ
こっちにも準備が必要だっていうのに、ソラリクスのせいで待ったなしになっちゃたじゃないの。
もう!
文句を言いながら、玄関を開けると仁王立ち?いや仁王浮かびでシームルグが待っていた。
「あれ?シームルグ...ただいま......」
「ひどい!」
へっ??
「ひどいわ!ソラリクスを勝手に入れちゃって!!こっちにも準備ってもんがあるのよ!」
ん?
さっき私が思っていたこととかぶっているような...
いや、それ以前になんでソラリクスが来たこと知ってるの?
なんだろう?匂い?魔力?
私は、何も感じない鼻をくんくんとさせてみる。
「何、なんで知ってるのって顔してるのよ!そんなものたぬき寝入りに決まってるでしょ。幽霊なんだから、寝るわけないじゃない。」
「えっ!起きてたの?というか、幽霊って寝ないの?それなら、今は会いたくないとか一言言ってくれたらよかったのに」
私は慌ててしまった。
「いつも、ぐっすり寝息立ててたじゃん!あれはなんなのよ。」
「幽霊になったって、この世にいるんだから生活リズムを崩さないようにしてるだけよ。そうじゃなくても500年、夜が来ないんだからずっと寝たきりになるじゃないの」
500年寝息まで再現してるの?
それはそれですごいわよ。
「で、でもね、すやすや寝ているシームルグを見て、ソラリクスは涙まで流していたわよ。流石に、たぬき寝入りされてたなんて知ったらソラリクスだってショック受けちゃうわよ。」
「あっちだって、私がたぬきだってことぐらい知ってるわ。お互い伊達に神やってたわけじゃないのよ。」
シームルグは怒りでぶるぶる体を震わせている。
えーっ!たぬきだとわかってるの?
「あのね、ソラリクスはすごく賢いし、口が上手いの。そして目的のためなら手段は選ばないし、いってることは八掛けなの。二割はお世辞と嘘だと思ってないと彼女なんて務まらないんだから。」
嘘でしょ!!
そういえば、うまいこと玄関に入られて、せっかく部屋に入るのを阻止したのに、あんな切なそうにシームルグのこと言われて、ポロリと涙まで流れて...
だめだ!
世界の歪みをなおすため、変化をおこすって宣言までさせられてるじゃん!!
しかも、肝心なことは何も聞けてない。
がっくりと膝から崩れ落ちる。
そして、今朝は、朝ごはんを食べ損ない、フェニックスとの討伐同行が決定......
「おお、神よぉ」
私は両手を頭に当てて、うぉーーーっ!と叫ぶ。
「仕方ないわね。うまいこと言われてなんかの任務を引き受けたんでしょ。ソラリクスはああいうシチュエーションを作るのが昔っからうまくて腹黒いのよ。もう!飛鳥ってば人が良すぎだわ」
知らんがな!
そんな、あんな眩しい神が、腹黒いとか......
いや、私の第六感が告げてたわ。
なんか胡散臭いって。
はぁーーーっ
私は大きなため息をつく。
「シームルグ、どうしよう。本当にあなたの元カレに、私、振り回されすぎてるわ」
半泣きになり、ピンキー対策をどうしていくか途方に暮れる。
「おおまかな話は、耳を拡大して聞いていたわ。まあ...コホン、時渡りの変化に神が関与できないのは事実だし、時渡りが起こした変化は、他の時渡りしか壊せないのは事実よ。
いつもは八掛けで聞くようにしてるけど、今回は九掛けぐらいで聞いたらいいわ」
「残りの1割は?」
「私に会いたいとか......一目みたいとか...」
そう言いながらシームルグも涙目になる。
え??そこなの?
「なによぉ、500年ぶりに寝たふりしてる元カノがいて、会いたいんだったら声かけたらいいのよ。起きてって!話そうって!なんでそのまま何もせず帰っちゃうの?なんで、会うかどうかを私に決めさせようとするの?」
そう言いながら、シームルグはポロポロ涙を流し始める。
「会いたいなんて、嘘よ。カラドリウスが好きだったくせに。だってね、カラドリウスと結婚しようとしてたのを私、知っているの。だから嘘よ。それが一割だわ」
シームルグは悲しそうにぽろぽろと涙を落としているように見える。
こうやって生前たくさん泣いたのだろうか?
私は、シームルグのそばに寄り添ってあげることしかできなかった。
◆◆◆
「その、カラドリウスと結婚しようとしていたのは、ソラリクスから聞いたの?」
私は、部屋に戻りベッドに横たわりながらシームルグとピロートークを展開していた。といっても、シームルグは浮いているから枕はいらないけど.....
「ううん、ベンヌからよ。ベンヌはカラドリウスに傾倒しているけど、私情と仕事は分けているからって、私に声をよくかけてくれていたの。」
「エーテリオン様の先祖だもんね。なんか納得だわ」
今日のガルーダとフェニックスの間を取り持つのも、平等に接しているように見えたわ。
あんな感じだったのかもね。
「でも、ある日ベンヌから言われたの。あまりにショックを大切な仕事ができなくなったらいけないから、心の準備のために伝えておくって言われたの。
ソラリクスがカラドリウスと結婚するつもりらしい。なんでも、カラドリウスの住んでいた世界では、永遠に切れない愛を誓うために指輪をプレゼントするんだって。それを週末に買いに行くって」
「結婚指輪......」
そう私が呟くと、シームルグもうなずいた。
「かつて来たことがある時渡りもそんなことを言っていた人がいたから、その習慣は嘘じゃないんだと思った。でも、自分の目で、本当にソラリクスがカラドリウスに指輪を贈るつもりなのか知りたくなったの。だから日差しで体は辛かったけど、初めて昼の時間にベンヌが話していた時間にお店を見張っていたわ。そうしたら、本当に二人は仲良くお店に入って行ったわ。そして、見た」
「二人は本当に指輪を買ってたの?」
「うん、嬉しそうにその指輪を店員さんから受け取ってたわ。」
シームルグは、悲しそうに天井を見ながらぷかぷか浮いていた。
「シームルグ、辛かったらこれ以上思い出さなくていいし、ソラリクスと会わなくていいわよ。私がはっきりと断ってあげる。なんだったら、平手で一発打ってきてあげるわ。時渡りが変化を起こすことはソラリクスには止められないんでしょう?」
深入りして聞きすぎたわ。
シームルグからしたらこれ以上思い出したくないだろうし、成仏できず、ずっとこの世界の人たちから恨まれるのだって本当はつらいことだもの。
「ううん、聞いて欲しかったのよ。今だけじゃない。元々、生前だって、本当に人と接することがベンヌとソラリクスぐらいだったのだから。」
シームルグはしょんぼりして話していた。
だが、ふと思い出したように、声に怒りが混ざり始める。
「ああ、でもその指輪をつけてカラドリウスが一回来たわ。」
「カラドリウスが!!」
うわぁ!愛人登場かよ!!
「ここって、そんな行き来簡単じゃないでしょう?誰が連れてきたのよ」
「ベンヌよ。きちんと話をしないと、ソラリクスも私も今後、二人でやる仕事に影響が出たら困るからって。カラドリウスからはソラリクスと結婚するつもりだから、別れて欲しいって言われたわ」
「ベンヌが、カラドリウスのことが好きで結託していたのかもしれないじゃない?」
「結託??でも、カラドリウスとソラリクスが引っ付いたら、ベンヌとカラドリウスは結ばれないのよ?それに、ソラリクスはベンヌを信頼していたから、わたしもそんなこと疑ってもなかったわ」
私は、ソラリクスが向けるシームルグへの気持ちが嘘には思えなかった。あの涙も。チョロすぎるかしら?
それに、なんか引っかかる。
何に引っかかるんだろう?
うーーん??頭の整理が必要だわ。
何か違和感があるんだけど....
「ただ、私がカラドリウスと出会ってしまったことで、困ったことが起きてしまったの。カラドリウスにはそれを知られて、しかもみんなに広められて.....ソラリクスも騙していたから、ソラリクスが私から離れたのは当然だと思った。
それ以来、更に家に閉じこもりがちになってソラリクスとは最後までほとんど私の意思で会わないようになってしまったの」
えっ!
今度はシームルグがソラリクスを騙したですって!!
私はあんなに眠たかったのに、思わず目を見開きベッドから飛び起きた。




