35 一難去ってまた一難
「あれ?なんだろう?あの人だかり」
朝からのソラリクスの突撃訪問で、食堂で朝ごはんを食べ損ねてしまった。
聖女シスターズたちのクッキーをお裾分けしてもらおうかな。
そんなことをのんびりと思っていて、ハッとした。
ああ、私ってばおバカ!
ソラリクスのおかげで死刑は回避されても、聖女たちの吊し上げは回避できてないわ!!
聖女課の入り口が大騒ぎだ。
なんか嫌な予感がするわ
そーっと壁際の影から、見えそうで見えない態度をとりながら様子を伺う。
「だから!なんで、地帝がピンキー様を独り占めするんだよ!このやろう!燃やしてやろうか!」
「空の任務は、元々聖女の任務対象じゃないだろう?」
「お前!聖女様に様をつけろや、ピンキー様に守られたのに自分の手柄だと思ってるんじゃないだろうな」
ん??
あれは、フェニックスとガルーダじゃないの!
なんかピンキーがどうこうって聞こえたんだけど?
ピンキーってピンクーのことじゃないわよね。
そもそもピンクと心で呼んでいるのは私だけだし、語尾伸びないし。
もしかして、騒動の原因はわたし?
「そもそも空の担当のアンデッドヴェノムバットに聖女ピンキー様は対応されたんだろうが!今回は地が不運にも遭遇しただけで、元々はあれは空が担当する魔獣だ。それなら、空にもピンキー様の派遣をしてくれとお願いするのは当然だろ?」
「その時にグリフォンに乗せるのか?落下せずに戦いながら絶対的に安全を維持できないだろう?」
「馬車に乗せながら、守ってもらえばいいだろ」
いやいや、やめてちょうだい。
あの馬車もアンデッドヴェノムバットも両方とも嫌よ。
ガルーダ、フェニックスに負けないで!!
壁の影から必死にガルーダを応援していると、背後ににゅっと影が伸びた。そして同時に叫び声がする。
「あーっ!ちょっと飛鳥!あんたなんとかしなさいよ。この騒動あんたのせいでしょ」
後ろを振り向くと、うぉー!聖女ブルーじゃないの。
タイミング悪いわよ。
声かけてくるんじゃないわよ。
「お、おはようございます。わたし?なんのことでしょう?なんか朝から賑やかだなぁなんて思っただけです」
ぎくっ、しゃくっ、ぎくっ、しゃくっ
右手と右足が同時にでながら、さりげなく聖女課の入り口に。ここは、さりげない挨拶をしておこう。
「ああ、ガルーダ様、フェニックス様。その節はどうも。ご無沙汰しております。」
目が泳ぎまくる。ガルーダは、気まずそうに
「ひ、久しぶりだな。飛鳥。元気してたか?」
とにかく、会話を合わせてきたわよ。さすが、ガルーダ!
私は心の中でブラボーの拍手を送る。
「おお、いいところに飛鳥きたじゃねえか!」
にんまり、絶対ろくなことを考えてませんという顔で、フェニックスは私の顔を見る。
「いいところ?どんなところ?そんなところなので、これで失礼を......」
なんとか早く聖女課に入ってしまおう。
そうしたところをフェニックスに首根っこ掴まれる。
ひーーーっ!
「おい、飛鳥。俺たちお前が時渡りしてきた時に、お前が死刑にならないように必死に庇ってやったよな」
「そうだっけ?そうかな?」
ガルーダは結構守ってくれた気がするけど、あんたは大概だった気がするけど...
「お前薄情なやつだな。まあいいや、聖女課にピンキーっていう聖女がいるよな?」
「わ、わたし、下働きだからよくわからないや」
目が挙動不審にぎょろんぎょろん動く。
「なら、これから調べろ。聖女ピンキー様と連絡を取りたい」
フェニックスが、私の首根っこを引っ張りながら、そっと耳元でささやく。
やめてちょうだい!耳は弱いの。くすぐったいわ!
「悪いんだけど、ここで騒ぐのはやめていただけないかしら?私たち、ただでさえ昨日の祈祷で心身ともに疲れ果てた聖女たちが、本日も出勤してますの」
聖女ブルーが、ここで絶妙な発言をする。
「せ、聖女様!お疲れです。すぐにお茶の準備をさせていただきます。そんなわけだから、ごめんね、フェニックス!!」
「おい待て!」
首元の衣服が引っ張られることで首にからみつく。
ぐほっ!
「おい、飛鳥は新人で仕事があるだろう。フェニックス、場所を変えて話そう。ここでは迷惑だ」
ガルーダがなんとか、私からフェニックスを引き剥がそうと努力してくれる。
ガルーダ、あんたなんて男前なの!!
「だから、なんで俺が聖女課にピンキー様を派遣しろって直談判しているのに、お前が介入してくるんだよ。」
ガルーダとフェニックスの言い合いが再び始まりそうになり、通りかかった人たちの視線の的になっている。
ピンキーを連呼しないで!
まだジズたちにも聖女シスターズにも、これから吊し上げにあうところなのよ。
「お前たち、騒ぎを起こしていると聞いてやって来れば...何をやってるんだ?二人とも落ち着け」
新たな声の主がする。エーテリオン様だ。
「いや、空にピンキー様を派遣していただきたいと聖女課まで相談に来たんですよ。そしたら、なんの権限かガルーダが絡んできて困ってるんです」
「聖女の派遣は、ソラリクス様も含めた会議で聖女に負担がないように計画されているはずだ。ましてや、ピンスポットにこの聖女がいいというのは不敬だろう」
「だから聖女様に様をつけろって言ったろ!何様なんだよ!」
ガルーダとフェニックスの睨み合いが続く。
本当にごめん、ガルーダ!感謝するわ。
しっかし、フェニックス、あんたしつこすぎるわよ!
「とりあえず、この二人を追っ払っていただきたいわ。聖女は本日から数日は力を蓄えるために、外部との接触は禁止させていただきます」
聖女ブルーがキッとエーテリオンを睨みつけると、エーテリオンは聖女ブルーに「申し訳ない」と頭を下げた。
「フェニックス、ジズからピンキー様は非常勤職員で普段は出入りしないと聞いている。今日ここにきても無駄だ。帰るぞ。ガルーダ、お前も空の対応のことを口出しするのはおかしいだろう。フェニックスの言い分もわからないでもない。」
エーテリオンは腕を組んで、二人を睨む。
「さあ、聖女殿。どうぞお入りください」
エーテリオンに促され、聖女課に入る。
ごめん、ガルーダ。私は心の中で詫びた。
だが、扉を閉めた瞬間ーー
「ちょっと飛鳥!どういうことかしら?説明してもらうわよ。なんでこんなことになってるの?無言を貫けっていったわよね。何勝手にピンキーって名乗ってるのよ!」
「おかしいわ、何を兵たちに媚びてるのよ」
「なんで何もできないのに、どうして見せ場をあえて作るのよ?こっちもそれを求められても困るの。聖女って、そんななんでも屋じゃないのよ」
ジズを筆頭に、再び聖女赤、黄、青、緑、ピンクに囲まれる。そして離れた植物園の影に、不安そうに見つめる他の聖女たちの目だけが見える。
「はい。すみません」
顔だけでも殊勝にしなければ......
私は悲しそうに下を向く。
「というか、ここまで問題ばかり起こす新人ってほんといないんだけど」
ああ、説教タイム開始だわ
ここまで新人に仕事を押し付ける職場もないわよ!
私は、チクチク嫌味を言われながら勤務を終えたのだった。
◆◆◆
はあーっ!
疲れた。
食堂でトレイを持って、今日はガッツリ食べるぞとメニュー表を開こうとする。
昨日は討伐でほぼ食べられず、夜はガルーダの突撃訪問で即席。
朝は、ソラリクスの突撃訪問で、食べられず。
ここの仕事は、ブラック企業だわ、社畜だわ!
何にしようかなあ。ああ、楽しみはごはんしかない
私は丼ものにしようか、定食にしようかと迷い始めたところで再び声をかけられる。
「おお!飛鳥!朝は、すまなかったな」
げっ!!フェニックスだ。
ここは、できるだけ聖女の話題を逸らそう。
「ううん、お仕事お疲れ様」
「なあなあ、ピンキー様ってどんなものが好きなの?接待のものを揃えないとな。なんか噂で聞くと、自分からはなにも言い出さない奥ゆかしさがあるから、こっちから声をかけないと休みもしないらしいな」
「そうなんだ。非常勤だからかな?まだ顔を合わせたことはないや」
私はそう言いながら、
「ねえ、フェニックスのおすすめご飯はどれ?」
といいながら会話を逸らそうとする。
「そんなもん、フェニックスだぞ。火鍋に決まってるだろ」
「そっか、火鍋に決まってるよね」
フェニックス、あんた女の子にもてないよ。
一つの会話を十の会話に変えなさいよ!!
私は心の中で歯軋りしているが、フェニックスには全く効き目がない。
「ピンキー様の情報があったら教えてくれよ。ソラリクス様のお言葉があって、無事空にも聖女ピンキー様が来てくださることになったんだ」
「....ん?」
今なんて言いました?
私はピタッと動きが止まる。
「ピンキー様だよ。朝言っていた方だ。今回の討伐で大活躍の聖女で噂の的じゃないか。全くガルーダも助けてもらったからか?すっかりピンキー様に骨抜きで独り占めしようとして...おい?飛鳥?聞いてんのか?」
聞いてますよ
聞きたくなくても入ってきますよ。
ソラリクスめ!!こっちは、シームルグと500年ぶりの逢瀬に協力してやったのに!
もう、シームルグに口添えしてやらないからね!
私は怒りでプルプル震え、火鍋とご飯を大盛りにして注文した。




