34 500年ぶりの逢瀬
「飛鳥!おきて!朝よ!私は寝るからね!」
深夜遅くまで、シームルグに片付けを手伝わされたので、かなり疲労感MAXだ。
「うー、シームルグぅ、この国に有給制度はあるのかしら?休みたいわ」
「有給?なにそれ?」
「会社員に認められた唯一の自由」
「わからないわ。ソラリクスもわたしもみんなと違って無給だったし。ソラリクスは500年休み中働いてるはずだけど」
う......それを言われると痛いわ。
上が休みを取らなきゃ、下はもっと取りにくいのに。
「でもさ、もし死刑なら仕事に行かなくても良くない?」
そーっとベッドから仁王立ちで私を見ているシームルグに声をかけてみる。
「ダメ、そして死刑になってもちゃんとここに戻ってきてね」
「シームルグ、優しい言葉掛けをありがとう」
私は棒読み無表情でシームルグに返事をする。
幽霊が言ったら洒落にならないっての。
私が服を着替えていると、シームルグはそのままわたしのベッドで浮かびながらすやすや眠り始める。
一緒にクマのぬいぐるみもぷかぷかと...
自分の部屋はどうしたんだか?
シェアハウスが、まさかのルームシェアに変わり、やれやれとため息をついた。
急いで、支度をして外に出る頃にはシームルグはぐっすり眠っている。そーっと部屋を出て、廊下を見ると...
すごい!左の通路が見えてる!!
まだ本が大量山積みだけど、あんなにぎゅうぎゅうで空間がなかったのにちゃんと歩ける。
しかも、引き出し一つ分どころか10個ぐらいに割れた食器やガラスが入っている。
「シームルグ、すごい勢いで片付けてるじゃないの!」
でも、私はそのまま視線を上に向けた瞬間、思わずくすっと笑ってしまった。
「上は見られたら困るのね。階段が浮きっぱなしなんだけど」
前は消えたり切れたりしていた階段が、とりあえず上がれないように階段ごと外す手に出たか!
でも、ソラリクスがその気になれば上に自由に飛んでいく気がするけど。
もう、シームルグってばかわいいんだから。
そう思いながら玄関を開けた瞬間、私の行動が思わず止まった。
「えっ!!えっ!!ソラリクス......さま?」
開けた瞬間から、そこに神!
もう死刑執行!!
全身の毛穴からどっと汗とアドレナリンが飛び出すような、手先が冷たくなり感覚がなくなりそうな気持ちになる。
瞬時にドアを締めたくなるが、フイをつかれすぎる。
ソラリクスは、爽やかな笑顔で指先を自分の口元にしーっと言いながら当てた。
「少し失礼するよ」
人の家だというのに、音も立てず、遠慮もせず、勝手にスタスタと私の居住スペースに入っていく。
「ちょっ!」
そこには、シームルグがいるのだ。
ダメだ、行かせられない。
私は手を広げてこれ以上は行かせないとソラリクスの動きを止めさせた。
「ダメかな?」
「ダメです。」
「何もしない。彼女、もう眠ってるだろう?」
「もうガルーダかは聞いたんですか?」
「昨夜ね。ここからずっともくもくいろんなものを燃やしているのも見えていたよ」
えっ!近いって言ってたけど、ソラリクスの家ってどこよ?
「500年ぶりなんだ。彼女の顔を一目見たい。頼む」
ソラリクスはそう言って私に頭を下げてくる。
そんな、神に頭を下げさせた女って酷い女じゃないの!
それこそ世紀の大悪女っていわれそう。
「見たいって、でも500年前にシームルグからカラドリウスに乗り換えたのはあなたじゃないの?今更ですか?」
私はそれでも震える声で、シームルグと会わせてもいいのか?本人の意思確認がいる気がして悩んでいた。
でも、シームルグはツンデレなところがあるから会いにきたらまた何が投げて追い返すかもしれない。
「飛鳥、君がいろんなことに気づいて私と話をしたいと思っているのは聞いている。そして、いろんなことを私も話したいと思っている。だが、わたしは神でこの世界を変えることは出来るけど、時渡りが起こした変化や行動は私には変えられないんだ。」
「私が起こした行動が...変えられない?」
私は大事なことを耳にした気がした。
500年前カラドリウスが来てからシームルグの立場も、役割も変わってしまった。
この世界は、夜を失ってしまい、世界中の人々は聖女を崇め奉るようになった。
「そう、そして500年前の時渡りであるカラドリウスが起こした行動も変えられない。シームルグとこともそうだ。
わたしは、まだ500年前の時渡りのせいで、何も動けず何も伝えられない。それを変化させてくれる君を待っていた。」
「......今の現状を、カラドリウスが望んでいたから変えられない。それを変えることができるのが...わたし?」
「そうだ。」
「シームルグと会わせてあげられるのも...わたし?」
「そうだ、頼む」
信じられない。
朝一発目からなんてことをソラリクスは伝えてくるんだ。
そして、なんて切なそうな目で私に懇願するんだ。
これを叶えてあげなかったら、生涯後悔しそうな気持ちにさせてくる。ずるい!
「シームルグの意志も確認したいけど、あの子ツンデレだから。起こさず見るだけですよ」
渋々OKを出すが、帰ってきてシームルグから違う神の制裁を受けそうだわ。
もう、私ってばそんな役回りすぎる。
だが、ソラリクスの表情が涙目になり、ぱーっと明るくなる。それを見ると、少しだけならいいよねという気持ちにさせられる。
ドアを開けると、シームルグは先ほどと同じようにぷかぷか浮きながら眠っていた。
ソラリクスは起こさないように、物音を立てずにじっと見つめ続けている。
それを私はそばで見ている私の心は、まるでギュッと痛むような苦しいような気持ちにさせられる。
ただ、言わなくても、答えなくても一つだけ確実にわかったことがある。
ソラリクスが好きなのはシームルグだ。
500年前も今もーーー
ソラリクスは、ふと横を見て、シームルグと一緒に浮かぶクマを見て微笑みを浮かべる。
そして、静かに一筋の涙を流したのだった。
◇◇◇
「ありがとう。シームルグに会いたいと私が言っていると伝えて欲しい。今度は話したい」
「伝えておきます。あ、そうだ!!」
私は大事なことを確認する。
「私!死刑じゃないですよね?聖女を騙るは死刑なんでしょ?」
ソラリクスは目をぱちくりさせて、思わず耐えきれないといったように笑い出した。
「聖女、ピンキーだっけ?なんか大活躍だったようだね。」
「笑い話じゃないです!」
「さっきも言ったけど、君が動くことで、500年前から変化を遂げているんだよ。死刑どころかしっかり変化をさせてもらいたいものだ」
「じゃ、じゃあ、あの!聖女課からどこかに異動できませんか?このままじゃ、わたし、また偽聖女を押し付けられてしまいます」
ソラリクスは、うーんと悩んでいる。
「君がどこで動くかは私が考えないといけないからね。だけど500年前からの変化ならそこが一番だと思ってるんだ。
聖女を騙っても私が許可したことにしたらいいから、自由に暴れてくれ」
「暴れてくれって言ったって、なんであんな力を発したのかわからないのに!」
「シールドは君にかけたもので知っての通りだ。それがみんなを守ったのは、私がクマにかけた加護がそっちで展開したんだろうね」
くまの加護??
私はなんのことだろうと記憶を手繰り寄せる。
あっ!!
私は思わず口を手で押さえた。
ソラリクスがやっていたぬいぐるみのキスか!
「あんなに綺麗にしてくれて、シームルグがあんなに大切に持ち続けてくれていることを知って嬉しかったよ。あれにはこの家を守ってもらうという意味でかけた加護だったんだが、洗濯したせいか効果が倍増したようだね」
シームルグが、私を見てにっこり笑う。
「こうやって500年前からの呪縛を解いてこの世界を解放に導いて欲しい。」
私は、頷いた。
「わかりました。この世界の歪みを直すのが私の役目で、それでシームルグやみんながもう一度幸せになれるなら変化が生まれるように動きます」
だって、それが私が時渡りしてきた理由で、ソラリクスもシームルグも苦しんでいて、みんなは自分がおかしいことにすら気づけないなんてつらすぎるもの。
「そのかわり、絶対命の保証はしてくださいね!」
私はそれだけは絶対よ!とソラリクスに念押ししたのだった。




