30 500年ぶりに外へ
どんなに驚くことが連続であっても、これからのことを考えなければならない。
「今日は許してもらえるとして......明日は、もう処刑かしら?聖女を騙り、みんなを危険に陥れた罪とかになるのかな?」
「そんなこと飛鳥にしたら、私化けて出てやるわ!それでも処刑されたら二人で化けて出てやりましょう!ね、元気出して!」
私はぐすぐすに泣きすぎて、もう目が開かない。
シームルグの慰めは気持ちは最大級だが、すでに終わってる。
そんな時、玄関で、先ほど入れた洗濯機が終了した音がした。
「あ、洗濯機が終わったみたい。制服を干して戻ってくるわね」
最後に着る服になるのかもしれない。
死装束は血まみれじゃなくて、綺麗にして着たい。
私は目をしょぼしょぼさせながら玄関まで出て、洗濯機から服を取り出した。
「なんとか血が落ちてくれたかな?」
急いで物干し竿に掛けると、ソラリクスのおかげであっという間に乾燥していく。
完全に乾くのを待ちながら、ぼんやり空を眺めてみた。
「ああ、もう夜になるのね」
夕暮れの中、きらりと一番星が光り始める。
ふと気づくと、遠くの空を一羽の鷹が高く飛んでいるのが見える。
「あの子たちも、急に夜が来たらびっくりしたでしょうね。巣に帰って眠るのかしら?って......えっ!こっち向かってない??」
猛スピードで向かってくる。
一直線だ!!
先ほどのアンデッドヴェノムバットを思い出し、身を固くする。
「あ....怖い!家、入らなきゃ。家」
早く入って逃げないとと思うのに、足が震えて固まって...
腰が......抜けた。
あ、やだ!!
鷹の目がギョロっとこっちを睨み、明らかに自分の周りを旋回し始める。
鋭い爪がきらりと光り、さらに寄ってくる。
「鷹じゃない。もっと大きい。魔獣?」
鷹のように見えたのは遠かったからだ。
近づけば近づくほど、羽を広げたら羽を広げるほどそれは大きい。
爪だけじゃない。くちばしは、刃物のように鋭く光り、鳥なのにタテガミが見える。
「ライオン??の鳥?」
鳥って足は2本だよね?
私の目には4本映ってるんだけど。
なんか、足もしっかりライオンのような毛並みの足なんだけど...
ダメだ!!これは、ダメだ!
アンデッドヴェノムバットの比じゃない!
「シームルグ!!シームルグ!!助けて!助けてぇ!!」
私は大声で家にいるシームルグに向かって叫ぶ。
「どうしたの!飛鳥!うわぁっ!グリフォンじゃないの!」
シームルグが玄関外まで私の叫び声を聞いて出てくれた。
それは多分500年以上ぶり。
感動のレベルだけどそれどころじゃない。
シームルグは、グリフォンをじっと見て、焦ったように言う。
「あれは、ソラリクスの飼っている神獣よ。やばいわ。ソラリクスに姿が見られちゃう!!」
助けに来たはずのシームルグは、逃げようとするが、
「シームルグぅ!怖いよ、怖いよー」
と叫ぶ私をみて動けず固まってしまう。
グリフォンはやがて静かに私たちの目の前にゆっくり降りたった。
そのグリフォンの上にはガルーダが乗っており、驚きとなんとも言えない表情のまま、私たちのことを見つめていた。
◆◆◆
「あの、どうぞ。散らかってますけど」
玄関を開けたら散らかっているレベルではない。
先ほどまでシームルグが寄せていたゴミ、ではなかった思い出の品を玄関にとっ散らかしたまま、足の踏み場もないゴミ屋敷に戻っている。
「あ、ああ。お邪魔します」
私もシームルグもとても居心地が悪い。
玄関から足の踏み場もないのに、腰が抜けた私をガルーダはおぶって部屋まで届けてくれることになった。
シームルグに至っては、浮いて歩いて明らかに幽霊なのに、ガルーダも慣れたのか普通に紳士的に対応している。
問題は、シームルグはみんなから500年憎まれ続けている月光神なのだ。
さてどうやって隠そうか...
私は廊下からちらりと外を眺めた。
先ほどのグリフォンがお化け屋敷のようなこの館の周りを散歩している。
なんてシュールなファンタジー。
まさか、シームルグの部屋に鍵をかけてきたのに、空からやって来られるとは思わなかった。
しかも、まだいろいろあってこの館の外側は、どうみてもホラーハウスだし、中はゴミ屋敷のままだ。
部屋に入り、ガルーダ、私、シームルグが机に座る。
なんて気まずいの。
「あの、あなたの名前は?」
ガルーダが険しい顔でシームルグに声をかける。
ヤバイ!!
「シームルグです」
ニコニコとシームルグは答える。
言っちゃった!!
ああ、言っちゃった!!
シームルグを隠蔽した罪が追加されただろうか?
だって、幽霊だよ。
仕方ないじゃない!
「そうですか。やっぱり......ソラリクス様の言われた通り、絵のシームルグとは別の顔立ちなのですね。私はガルーダと言います。500年前のガルーダの子孫になります」
「そうなのね。そうかと思ったわ。だって、あの子ソラリクスの神獣よね。ソラリクスの神獣たちは、ガルーダがお世話しているんだもの。」
ふふっと手を合わせて嬉しそうに笑顔で笑うシームルグだが...
(シームルグぅ、空気読んで!お願いだから!)
シームルグは、500年前はともかく、今自分がどんな評価をされているのかは知らないのかもしれない。私は二人の姿を見ながら、心の中でまさに手を合わせて懇願する。
「でも、ソラリクスにバレちゃったわね。ここがお化け屋敷じゃなくて、私自身が暴れてるって」
シームルグは、しょんぼりしている。
「いいのよ。暴れたくなるぐらいの思いをソラリクスにさせられたんだから」
思わず慰めるが、あっ、ガルーダの前だ。
ついソラリクス批判をしちゃったわ。
思わず口に手を当ててちらりとガルーダを見ると、気にしていないと言うふうにうなずかれた。
「すいません。今日あったことをソラリクス様にお伝えしたところ、飛鳥としっかり話をするようにと。そして、この居住に行ってみたらいいと言ってくださったんです。ですが、城の部屋は鍵がかかっていますし、彼女の気配を感じなかったものですから部屋はダミーではないかと思い、神獣を使って探してしまいました」
「ソラリクスがここに??」
私は驚いて聞き直す。
ガルーダは「ああ」と頷いた。
初日にエーテリオンが、他の人の出入りを提案した時に、シームルグがこの家に他の人が出入りするのを嫌がるだろうからとソラリクスとエーテリオンだけと断ったはずなのに。
あれ?ってことは、ただのお化け屋敷じゃなくて、シームルグの幽霊がここにいることをソラリクスは知っているの?
「ソラリクス様がどう思ってここを訪れたらいいと言ってくださったかはわからない。」
「そうね。」
たしかに、シームルグに聞いてみないとわからない。
そして、こう言うところに苛立ちを感じるのだ。
知っていることがあるのに、言わずにただその結末をみつめられているような。
ガルーダに今ならここに来てもいいと言った理由もあるんだろうけど、それは私たちにソラリクスは教えてはくれない。
「まさか、シームルグの幽霊さんがいるとは思わなかった。でも、以前なら自分がどう対応したかわからないが、今は、すごく冷静なんだ。ソラリクス様がここに来てもいいと言ったのは、その変化を感じたからかもしれない」
元々出会った時から、敵意を見せたのは最初だけで冷静な人だったと思う。
私に対しても、きちんと丁寧に扱ってくれたし...
でも、なんだか心に響くというか、何か重大なことを決断したかのような清々しい表情をしている。
「今日あったことはソラリクス様には隠せない。あの方は神だから隠しても飛鳥が聖女を騙って祈祷していたことはいずれバレる。だから、きちんと伝えた上で飛鳥が聖女を騙って処罰されるなら、自分を代わりに処罰してくれと伝えたんだ。」
「なんで!なんでそんなことを」
私は驚いて、ガルーダを見つめた。




