29 私は何者?
「シームルグ、どうしたらいい?もう死刑かな?私が幽霊になったら一緒にここにいてもいい?」
家に戻った時、シームルグが、玄関で片付けに失敗して途方に暮れている姿を見て、私はなぜかほっとしてしまった。
家に戻ってきて安心した気持ちと、ガルーダに聖女を騙ったことがバレて、これからどうなるのか不安な気持ち、そして更に裏切ってしまった後悔とがごちゃ混ぜになる。
一度出た涙は止まらないよ!!
「ええっ!もちろん幽霊仲間が増えるならそれでもいいけど、この屋敷片付けてもらえない限り、くまちゃんをお部屋に移動できないじゃないの。」
シームルグは文句を言いつつも、足場のない床で、私をエアーハグしながら心配そうに顔を近づける。
お人形のようなシームルグが、私の横に、くまのぬいぐるみを浮かべながらオロオロしているのは、私にとって当たり前になっていた。
私は家族とは疎遠だったけど、家族ってこんな感じなのかしら?
「この屋敷を片付けるまでは死ねないって死刑は突っぱねた方がいいわ」
「死刑だもん、突っぱねても、死にたくなくても、死んじゃうのよ。シームルグと同じよ!!」
「そうね、死刑になると死んじゃうわ!どうしたらいいかしら?」
延々とループする会話を繰り返して、先にこれではダメだと気づいたのはシームルグだった。
「まずは部屋でゆっくり休みましょう。朝早かったし、飛鳥、顔色が悪いわ?ご飯は食べたの?」
私は首を横に振った。
「食欲がないわ」
「じゃあせめて、甘いものでも飲みなさいよ。時渡り一人暮らしセットに、即席グルメと飲み物はあったはずよ。」
私を部屋に移動させると、シームルグは、エーテリオンが用意した一人暮らしセットに入っていたココアの箱をぷかぷか浮かせてきた。
「ごめんね、浮かせるまでしかできないからセルフサービスよ。だけど、エーテリオンの趣味がいいわ。コレ美味しいのよ」
なんとか、私の気持ちを浮上させようとあの手この手で慰めてくれるシームルグの優しさが伝わってきた。
「シームルグ、私あなたのおかげで助かったの。それなのに、そんなに優しくしてもらうのにあなたの受け取る栄誉すら、私が受け取ってしまったわ」
私の涙は止まらない。
シームルグはなんのこと??とオロオロしっぱなしだ。
私は、今日一日あったことをシームルグにすべて聞いてもらったのだった
ーーー
「ええっ!アンデッドヴェノムバットがそんなに大量に出たの?」
シームルグは「うーん、それは大変だわ」と唸り始める。
「すごく怖かった。目は赤くて、私と大きさが変わらなくて、翼があってガルーダや兵士に噛み付いてみんな死にそうになったわ。シームルグの薬がなかったら助からなかった」
私は、ココアを飲みながら少し落ち着きを取り戻し始めていた。
「それも不思議なのよね。」
シームルグが首を傾げて再び唸る。
「あれって、総合回復薬だから、確かに解毒もできるし、傷も時間をかければ塞がると思うの」
「総合回復薬?」
「そう、だってどんな状況でその薬を飲むかわからないでしょ?飛鳥が困った時に使ってもらう予定だったから、効き目も強いものにしたら副作用が出ちゃうわ。薬を飲んでよく休んだら治るっていうぐらいよ。もちろん、言うまでもなく、カラドリウスの偽薬なんかよりは効き目はあるわよ」
シームルグは話しながらカラドリウス憎しと、あいつが作る薬はダメなのよと力説し始め、話が脱線しそうになる。
総合回復薬か……日本で言う市販の総合感冒薬みたいなものかしら?
それと同じようなものなら、効果はあっても緩いわよね。
「確かに、薬を飲んでもすぐには効かなかった。だから、私が出血している傷口を布で押さえたのよ。そうしたら、傷が塞がって、解毒もされたみたいなの。ねえ、シームルグ、私、もしかして聖女になったの?」
「時渡りだから、聖女でもおかしくはないわ。だけど、カラドリウスが大聖女って言われても、傷ひとつ治せたことはないわ。むしろ……」
シームルグは、言い淀んだ。
これを伝えるべきか迷っている感じだ。
「ねえ、シームルグ。間違っていてもいいから、何かヒントがあれば全部当たりたいの。過去のことでもいいわ。私みたいなことが起こった人とか、同じようなことができる人はいないかったかしら?」
「いるわ。」
シームルグはキッパリと言った。
「いるの??」
聞いてみたもののきっといないと言われると思っていたのに。
「どんな人なの?その治せる人って。それができるならカラドリウス以上じゃない!その人こそ大聖女だわ」
「ううん、大聖女よりずっと前に存在していたの。あのね、飛鳥、信じられないかもしれない。でも、今話を聞いた中で納得がいくのよ」
シームルグは、自分に言い聞かせるようにはっきりと私の目を見た。
「あなたは、私の生まれ変わりなんだわ。その姿も、その能力も。そして、聖女にうまくやられてしまうその性格も」
「な、何言って!!確かにシームルグは死んでいるわ。だけど、私の前にいるじゃないの。」
「うまく死にきれてないだけで、肉体はないもの。あのね、私は月光神といって、人を癒したり、傷や病気を治したり、そのための薬を使ったりすることが得意だったの。もちろん、夜に生きる魔獣をコントロールするのも仕事だったわ。飛鳥が今日やったことは、カラドリウスが来る前の過去の私なの。」
「カラドリウスが来てからは?」
「みんな、カラドリウスの味方になったわ。最後には、私ができることは、カラドリウスの能力を吸い取ったから私ができるのだとか、カラドリウスからわたしが能力を吸い取ったから彼女が回復や効果のある治療薬が作れなくなったいう認識に変わってしまったわ。
その中で、ソラリクスが唯一私の味方だと思っていたけど飛鳥も知っての通りよ。それだけじゃない。私の薬は、ソラリクスに頼んで必要な人に使ってもらってたの。それがいつのまにか、カラドリウスが作った薬と言われていたわ」
「えーっ!カラドリウスの作ったと言う薬のレシピを聖女たちに教えてもらったけど、私の以前いた世界で「ハーブ」という薬草のお茶とか、植物から抽出したオイルばかりだったわ。確かに効用はあるけど、それこそ即効性のある薬とは違うし、自然治癒に力を貸すレベルよ」
シームルグもわかっているわとうなずいた。
「そうだと思うわ。500年前に私も調べたもの。効果が全くないわけではないの。でも、薬とは呼べないわ。だから、そんな人に薬の作り方は絶対明かさなかったの。危険だもの。だから、私がいなくなった後、聖女たちは薬を作りたくても作れなかったはずよ」
シームルグは、確信をもって頷きながら、もう一度私に告げる。
「だからね、あなたは聖女ではなく、月光神としてわたしの生まれ変わりなのよ」
「えーっ!でも私納得いかないことがあるんだけど...」
今度は私が唸る番よ。
「シームルグはソラリクスが好きでしょ。でもね、私、ソラリクスが浮気しなかったとしても、これっぽっちも男性として好きじゃないの。シームルグには申し訳ないけど、ソラリクスに対しては、むしろ、神の傲慢さを感じることもあって嫌なぐらいよ。」
そうなのだ。あの手の平で転がされている感じ。
全てを知っている感じが苛立たせて仕方ない。
人の顔を平凡だといった初対面も最悪!
もちろん、こんな可愛いシームルグを捨てて、カラドリウスに乗り換えるなんて論外だ。
「えーっ!ソラリクスをみて好きにならないの?かけらにも??」
シームルグは叫び声に近い驚きの声を上げる。
「ないわ!私の生まれ変わりなら、生まれ変わってもソラリクス以外好きなんてありえないもの。だったら、さっきの考えは取り消すわ。あなたは、私のそっくりさんとして時渡りしてきたんだわ」
「シームルグのそっくりさん...って、結局最初の設定に戻っただけじゃないの。でも、シームルグの話から、聖女よりは月光神の能力を持った時渡りということはわかってきたわね」
だけど.....この世界、シームルグこと、月光神は憎まれ嫌われている。
「気づいたんだけど、結局、月光神の能力を持ってるってバレたら詰みじゃないの!」
私の悲鳴はその日ずっと続くのだった




