25 この力は聖女?
「ガルーダ......」
ガルーダの元に駆け寄りその姿が見えた時、地面に見えるおびただしい血とその匂い、新たにアンデッドヴェノムバットがガルーダを食い散らかそうとするかのように攻撃する姿が見えて
「わあああああああああっ!」
声にならない声で突っ込んでいく。
「ガルーダ!しっかりして!ガルーダ」
手が震える。
「ガルーダ様!」
「ガルーダ様!!」
みんなハッとしたように、再びその巨大コウモリたちにトドメを刺し始め、わたしはそのままガルーダのそばに駆け寄った。
血まみれで、もう意識がない。
ガタガタ震える手で、なんでもいいから、とにかく助けないとと掴むのは結局シームルグから受け取った液体だった。
わたしの祈祷が効くわけじゃない。
聖女の薬をどんなに信じたって効果がない。
もう、何かわからないけどこれしかない。
わたしは少しガルーダの首を上げて、シームルグの薬をガルーダの口に流し込む。
「ガルーダ!飲むの!しっかりして!!飲むのよ」
どのくらい飲ませたらいいのかわからない。
出血を少しでも食い止めよう。
タオルを出して、傷口に当てる。
そういえば、この巨大コウモリは毒を持っていると言っていた。
どうしよう?吸い出して取れるレベルではない。
わたしは、ひたすらタオルで圧迫しながら
《お願い!!止まって!薬効いて!!お願い》
ただただ祈り続ける。
ヴェールの下の目は涙でボロボロだ。
「ガルーダ!しっかり!しっかり!!」
もう涙で何も見えない。
必死で傷を押さえつけ、ただ祈る。
血が止まりますように
毒が消えますように
薬が効きますように
これ以上攻撃を受けませんように
どれほど祈ったのだろう?
数分か?
数十分か?
それとも…数秒なのか??
「聖女殿が助けてくださったのか?」
「攻撃を受けないぞ!」
「うわあ、すごいシールドだ」
周りで歓声が聞こえる。
ハッと気づくと、自分の周り周辺100メートルほど、どんなに巨大コウモリが落ちてきても、攻撃してきても跳ね返されて、大きな金色のシールドの上を滑るように落下する。
こちらの攻撃は効いても、巨大コウモリは全く私たちに攻撃できず、太刀打ちできないのだ。
わたしにも…シールドが見えた!!
ソラリクスが作ったシールドだ。
それがドーム型に広がり、みんなをそして自分を助けている。
「すまない、もう大丈夫だ」
震えながらガルーダの受けた傷口に当てていたタオルを握る手をそっと掴まれる。
へっ??
どう見ても瀕死だったはずのガルーダがむくりと起き上がり、わたしはえっ!!と目を見開く。
助かった......の?
「お前たち、聖女様が作ってくださったシールドが効いている間に全てを撲滅させるぞ」
「はいっ!」
「聖女様、申し訳ありませんが、もしよろしければ毒を負った他のものにも薬を分けてやっていただけませんか?」
薬......あーっ!シームルグの薬ね!
500年前のアレ!効いたの!
シームルグ、凄すぎない??
わたしはコクコクと頷き、他にも数人、噛みつかれ倒れている人に駆け寄ってはシームルグの薬を口に流す。
だが、それだけでは効き目が弱くて、ガルーダほど劇的に治らない。
先ほどと同じように、今度はタオルではなく、傷口に新しい清潔な布を取り出して、押し当てて祈る。
すると、じわじわ出血が止まり、傷口が塞がっていく。
うそ...
わたし、おかしくなっちゃった!!
傷が塞がってるんですけどーーー
「聖女様!ありがとうございます!あなたは私の命の恩人だ!」
わたしは手を握られ、助けた兵たちに涙を流され、ますます大混乱状態になる。
何が起こったの?
とりあえずシームルグの薬のおかげのはず...
でも、それだけじゃ治らなかった。
なんで、なんでわたし傷を治してるのよ
わたしは呆然とする。
気づけば討伐は終わり、ガルーダが一旦撤収すると宣言する。
「ありがとうございます!聖女様!」
「信じて良かった!信じ切った甲斐がありました」
「聖女様!!せめてお名前を
まだ震える血まみれになった手をみんなが握りしめる。
な、名前...名前...
ん?ちょっと待て!聖女ピンクってなんで名前なの??
いやそもそも、ここでその名前を出していいのかもわからない。ここは、声を出さず無視で、目を閉じよう。
「聖女様!聖女様!!お名前を!命を助けていただいた方のお名前を心に刻ませてください」
うわあ!みんなに手を握られたり、すがられたり!!
無理だ!
無視は無理だ!!
「ピン....」
「ピン??」
みんながわたしの声に被せてくる。
ああ、逃げられない!
「ピン......キー」
「聖女ピンキー様!!」
「ピンキー様、ばんざーい!!」
「ピンキー様!」
兵たちが、ピンキー!ピンキー!ピンキー!と一斉にシュプレヒコールを上げ始める。
ヨレヨレのヴェールの下でトホホとわたしは肩を落とす。
「聖女殿ありがとうございました。みんなに代わってお礼を伝えさせてください。」
ガルーダがそばに近寄り、わたしにお礼を伝えてきた。
わたしはぶんぶんと首を振る。
「帰りなのですが、この状況です。まだ危険があり、兵も立て直しが必要です。聖女様がカラドリウス様から引き続いて来られた馬車による移動を重視していることは知っております。ですが、聖女様の安全のためにも空間移動をさせていただけないでしょうか?」
空間移動??
何それ?
「時空を動きますので、少し気分を悪くするものもおりますが、数秒で落ち着きます。聖女様も身を清められた方が良いかと思いますので、それを使えばすぐ戻れます」
何かわからないけど...
みんなが安全ですぐ戻れるならそれに越したことないわよね。
わたしは、分かったとばかりに頷く。
それを見てガルーダはほっとしたような顔をして、周囲に
「空間移動の準備をしてくれ」
と声をかけた。
わたしに集まっていた人たちが、一斉に散らばり地面に何かを書き込んだり、大きなシートを敷いたりしている。
「兵の魔法部隊が緊急用の空間移動を展開させます。きちんと城まで無事に届けますから安心してください。」
そう言われてわたしはうなずいた。
「落ち着きましたら...」
ガルーダは周囲を見てそっとわたしの方に顔を寄せる。
へっ!!
わたしは顔が近すぎて思わず赤く、たじろいでしまう。
「どういうことか?ゆっくり聞かせてもらうぞ。飛鳥」
そういって、そっと離れて行く。
ぎゃああああああああっ!
バレた。
終わった!
どうしよう!
ああ、思わずガルーダが怪我した時に大声出したからだ。
どうしよう。
本当に、こんな詐欺に加担したことがバレてどうしよう。
わたしは、頭を抱えたくなった。




