18 リサイクルって何?
「おはようございますって...えっ!」
部屋の窓ガラスが、全開ーーー
おかげで、室内に投げられたゴミが飛び回っている
「新人!入った瞬間何かに気づかなかった?」
ジズの目がキラッと光る。
何かって...これだけ激しく換気してれば気づくさ
「空気が爽やかな気がします。」
言葉に気をつけなければならない。
ゴミをまだ片付けてないのに、窓開けたら余計に臭うじゃん!
いや、でもエーテリオンさんから、臭いの苦情が出て気にしているのか
彼女なりの努力の結果、換気という結論に至ったのだろう。
「ゴミ箱をいただけることになったので、そこに入れてくれれば1時間ごとに回収して捨てますよ。今日はここに転がっているゴミたちを全部取っ払いますから。洗濯機も準備してくれるらしいし、臭いは今日でさよならですよ」
「今日で!本当ね!言ったわね!!」
言質はとったとばかりにジズが詰め寄る。
「い、いや、臭いは染み込むから今日で...さよならは言い過ぎかも」
「どっちなのよ!」
「臭いの元が早く断てば、早く消えるのは間違いないかと。」
「臭いの元を断つ!!」
ジズは、フラメンコを踊り出すかのように手をパンパン叩き始める。
するとどこにいたんだ?
もしかしてここに住んでるのか?
聖女赤、黄、青、緑、ピンクが今日もド派手に集まってくる。
「みんな!今日は祈りを捧げるのは中止!各自聖女の持ち分から半径100メートルのゴミを一斉に拾うわ!」
「ひ、拾ってくださるなら分別お願いします。瓶は瓶!缶は缶!ペット?あるのかな、ペットボトルはぺっとで!ビニールと燃えて消えるものも分けましょう」
せっかくなら、分別とゴミはゴミ箱に入れることを教えてしまおう。
エーテリオンに朝、準備してもらったゴミ箱をセッティングして、ゴミを入れるように説明する。
ジズを含めて一斉に
「これで臭いを断つ!!」
と言う顔をしながらそそくさと袋とトングを持ち直す。
そして、朝からやってきた聖女たちも、みんな今日はゴミ捨てなんだ...と悟りを開き無言でゴミ袋を持ってくる。
同調圧力半端ないな
わたしは苦笑いしたが、片付けがスムーズに済むことには違いなかった。
ーーー
「もう動けませんわ!」
「足がパンパンよ!」
「新人!飲み物を持ってきてちょうだい!」
「はいはい!」
ジズは先ほどからご機嫌である。
まさかのソラリクスが先ほどやってきて、ジズを褒めちぎったのだ。
◇◇◇
「ジズ、さすが頭が柔らかいね。時渡りの新人のアイデアを早速聖女課に取り入れるなんて!
へえ、ゴミは即消去としか思ったことがなかったから分別の意識はなかったよ」
そういいながら500年ぶりにソラリクスが聖女課にやってきた。聖女たちのどよめきと興奮は半端ない。
だが、この世界にリサイクルがなければ、ゴミ置き場もないのかもしれないと一人焦る私。
「ま、まあ、新人の意見を取り入れながら新しい風を取り入れるのがわたしのやり方ですの。飛鳥!ソラリクス様にお茶よ!お茶!!」
おほほとジズの笑い声と、焦って私に接待しろという声を聞きながら今度はエーテリオンが、洗濯機を運んで入ってくる。
「おや、昨日とはえらい違いじゃ無いか。ジズ、やればできるじゃないか」
「当然です。最近少し仕事がハードでしたから乱れたかもしれませんが、これが日々の聖女課です。
来週からは祈祷の遠征もありますし、遠征前のルーチンワークです」
「そうだったのか。少し言いすぎたかなと気にしてたんだが。ああ、洗濯機が手配できたから配置しておくよ」
ソラリクスとエーテリオンは持ち上げ方がうまい。
ソラリクスも接待は軽く断り、
「君たちに使ってもらえたらいいと思ってプレゼントだよ。カラドリウスはタライを使っていたけど、ぼくは洗濯機の方が好きだな」
そういいながら、昨日洗濯物を除去した更衣室に洗濯機の配置を指示する。
どうやら洗濯物に埋もれていたが、排水できる穴もこんなところに隠れていたのか。ということは聖女課だけ洗濯機がなかったってことだろうか?
ジズは新しく来た洗濯機をしげしげと眺める。
「飛鳥は魔石をつかったことがないから洗濯機の使い方を教えておこう」
ソラリクスが言うと、他の聖女たちが
「ソラリクス様から直々にお話いただけるなんて!それなら、私たちも一緒に聞いてあげますわ」
と聖女シスターズたちも洗濯機から目が離せない。
もしかして、みんな洗濯機の使い方を知らなかったんじゃ...
わたしは、えっ!と思ったが、ソラリクスがこっそりふふっとウインクする。
そもそも太陽神に洗濯機の使い方を教えてもらう聖女たちってどんな集団だか??
私は、無表情を装いつつ、
「ソラリクスって何考えてるのかわからないわ」
と心の中で謎が深まっていた。
ソラリクスが動かないと変わることがないこの世界のシステム、
こんな小さな聖女たちの動きも知っているソラリクス、
大聖女カラドリウスに乗り換えたくせに、500年経っても、シームルグの家を見られたくないだろうという気持ちをわかっているような言動。
その対極にあったシームルグ。
あんな可愛い美少女だけど、ソラリクスと同じくらいの力はあるのよね。
彼らは洗濯機の使い方を説明して、最後に
「ゴミはまとめておいてくれたらエーテリオンが処分する。安心したらいい」
そう私の耳元でささやいて去っていく。
そして去っていきつつ、さらりとシンクに食器用洗剤と漂白剤を置いておくことも忘れない。
シンクに投げられた多くの汚れた食器も、長くカビや汚れにさらされていた。
さりげなく置いてある漂白剤に浸け込みながら
「ソラリクス、分かってんじゃん!」
と口笛を吹きたくなる。
だが...
昨日のタライといい、洗剤といい、今日の食器用洗剤や漂白剤といい、なんか私も手のひらで転がされている感があって悔しい。
みんなが称賛するすごいというのとも違う
私が困るであろう未来が、見透かされていて、そのタイミングでソラリクスが来るような気持ちになるから嫌なのだ。
とはいえ、昨日の職場と今日のここは別物になったのよね。
私は、ジズや聖女シスターズたちのために、お疲れ様のお茶を準備すると、みんなカバンからうれしそうに新しいおやつを取り出してくる。
どうやら新人のわたしも、掃除を通じて一員と認定されたらしい。
こうして、聖女課はその後、まさかの変貌を遂げ、聖女課発「分別ゴミリサイクル」は、それから各課に広まっていく。
数年後、この城や城下の街、そしてこの世界中に、燃えるゴミ、燃えることがない抹消ゴミ、魔法で原料に分解するゴミに分かれて、資源を大切にするリサイクルを提唱した聖女課は、リサイクル課に変更されていくのだが、それはまた後の話である。




