16 元カレの贈り物
とりあえず左の脇に詰める限り詰め込んで物を移動させた。
「いいわね!わたしがここにいるって絶対!絶対言ったらダメよ。言ったらあんたが人生抹消されるまでここから出さないからね!」
わたしはコクコクうなずく。
いや、二度と戻ってくるのは嫌だ。
だが、ソラリクスを納得させる理由も思いつかない。
大怪我でもすれば別だろうが...シールドが働いていて包丁が突き刺さったままだ。
「ああ、よりにもよって私ってば無傷だよ」
とりあえず住んでみたけど、ダメそうですという方向性にもっていこうか?
「あ、あのね。わたしもここに長くお邪魔するのはどうかと思うの?だから、力を貸してもらえるなら私が出て行く方法をまた相談しましょう」
「そうね、ソラリクスはあんなチャラ男にみえて鼻がきくのよ。迂闊で杜撰な計画を立てたら、わたしがここにいるってバレちゃうわ」
シームルグは、幽霊なのに、あわあわして、慌てたような顔をしてうんうんとうなずく。
おい、幽霊のくせに行動がかわいいんだけど。
こんな可愛い子を捨てて別の女に乗り換えたのか。
ソラリクス、マジで女の敵!
「じゃあ隠れて!行くわよ!」
荷物を右から左に一緒に動かしただけで、なぜか運命共同体のような心境になっているのはなんなのかわからない。
だけど、わたしはシームルグが隠れたのを確認して、何事もなかったかのように玄関のドアを開いたのだった。
◇◇◇
「うわあ、えらい積み上がった荷物ですね。これはなんなんだろう?なんか、こっちから先にはいかせないという意志みたいなものを感じませんか?」
エーテリオンが積み上がったゴミ、ではなかった、シームルグの過去の遺物に近づこうとするのを、わたしは急いで止めた。
「ダメですダメです!!何が飛んでくるかわかりませんから近寄ってはダメです」
「確かに、飛鳥様。ドアが閉まった時にはどうしようかと焦りました。ソラリクス様が作ったシールドに包丁が突き刺さったままですし、怖い思いをされたのでは?まだ包丁がブラブラしてますけど、引き抜きましょうか?」
わたしが進むと、シールドに突き刺さった包丁も進むので、自力で引き抜けないのだ。
「そうですね。いや、抜かない方がいいのかな?抜いちゃったら、また飛ばしてくるかもしれないし」
「でも、眠る時に空間の四方八方に包丁が突き刺さった状態なのは嫌でしょう」
「あ、それはたしかに嫌ですね」
あははと笑い飛ばすが、動きに合わせて包丁が自分に向かって揺れていた。
シールドが見えてない自分にはとてもホラーだが、見えていてもエーテリオンの反応を見ると、結構ホラーらしい。
「うーん、500年経っても、まだシームルグの思念のような、彼女の魔力を感じるものがあるのだな。」
ソラリクスが積み重なったゴミの山の前に立ちそのように発言するのでドキッとする。
いや、なんでしたら思念ほやほやだと思うわ。
ただ、幽霊の今の力は弱いのかもしれないけど。
ソラリクスは、わたしがそっと左に押し込めた物の中から、クマのぬいぐるみを持ち上げる。
相当埃をかぶり、なんだったら、すでに破れている。
「シームルグは、月の出る夜以外は外には出てこない。月光神だからね。だから、このぬいぐるみを持ってよく屋敷の中を移動していた。話し相手というわけでもないだろうが、プレゼントしたら珍しく喜んで、いつも部屋に置いていた。だが、こんなところに投げられて、ゴミになっているぐらいだ。わたしを嫌っていたのだろうな」
ソラリクスは、悲しそうにボロ雑巾と見間違えそうなぬいぐるみを見ている。
「ソラリクス様、それ補強できますか?」
「ぬいぐるみにシールドかい?」
おかしそうに笑顔を返すが、わたしは首を振った。
「いえ、このぬいぐるみはおそらくこの一階を守っていたんだと思います。洗ってあげたいのだけど、生地が長い時を経てボロボロでもたないんじゃないかしら?補強してもらえたら、洗って明日ソラリクス様が照らすお日様に干しておきますよ」
わたしは、シームルグに聞こえるように話す。
どうして一階に置いてあったのかはわからないが、ゴミにしていたわけではない気がする。
「そうかい?じゃあ、お願いしようかな。」
ソラリクスが指で破れたところを伝うように触れると、破れたところがみるみる間に塞がっていく。
そして、汚れ切ったぬいぐるみに軽く口付けする。
「このぬいぐるみは壊れない、ここを守ってくれる加護をつけておいた。悪いが綺麗にしてもらってもいいかい?」
「はい。おまかせください」
ボロ雑巾のようなぬいぐるみにキスするだけで、色気満点だわ。そりゃシームルグみたいな女の子だったらコロリと引っ掛かるわよ。
でも、少しだけほっとした、なんとなく、破れてボロボロに汚れてゴミに押し込められたぬいぐるみが、シームルグにも自分にも重なったのだ。
きっとこれを見ているシームルグは二度とこのソラリクスの口付け付きぬいぐるみを離さないに違いない。
天然系たらしってわけね
わたしは軽くため息をついた。
その後、玄関から小さな応接室まではソラリクスが軽く指を鳴らすと、綺麗な部屋になった。
「ぼちぼち片付けますので、ここだけ暮らせるお部屋になれば大丈夫です。」
エーテリオンが、ベッド、冷蔵庫、ガスコンロ、電子レンジなどをセッティングして、魔石の使い方をわたしに説明していく。
「お風呂は、ここに作るのは難しいので、城で移動する前に入ったシームルグの部屋の奥に浴槽があるので使ってください。というか、城の部屋にも最低限の備品を置いておきましょうか?やはり、誰もこないとはいえ、こんな離れた場所で慣れない世界なのに、女性に一人暮らしをさせるのは気が引けます」
エーテリオンが心配そうな顔でわたしとソラリクスに話す。
本当にあなたが一番いい人じゃない??
わたしは思わず涙目になりそうになる。
だが、
「大丈夫だよ。シームルグだってかつて一人で暮らしてたんだから」
とソラリクスに否定される。
ぐぬぬ!!なんでお前が返事するんだ!
天然タラシのせいで今わたしは、ここで幽霊のお前の元カノの神様と交渉してるっていうのに。
だが、グッと堪えて笑顔を作った。
「お風呂があるだけありがたいです。こっちの館でも早くお風呂まで辿り着けるといいんですけど」
シームルグと交渉して、早くここでも入浴できるようにしてもらおう。
「そうですね。洗濯機も排水できる場所がないので、とりあえず玄関に置いておきました。物干し竿と、干す道具も玄関に設置しておきますね」
「瞬時に乾くアレですね。失敗してしまいましたけど、すぐ乾くのは助かります」
わたしは笑顔でエーテリオンに声をかけた。
「瞬時に乾く??」
「え?聖女課の洗濯物を干せるようにしてくれてたんですよね?タライと一緒に」
わたしは目をぱちくりさせて聞いた。
エーテリオンが、城の裏に洗剤とかタライとか、竿とかブラシとか準備してくれていたのではないのか?
「あれは、私だよ。かつて時渡りをしてきたカラドリウスが自分のものを、他のものと一緒に洗われるのは嫌だっていうから当時、言われた通りに洗剤やタライを準備したんだよ。だが、すぐ乾かないと、干してるのを見られるのは嫌だっていうから竿に瞬時乾燥の機能をつけたことを思い出した。君も時渡りなら同じようにするのかと思ってね」
ソラリクスはさらっと過去の話をするが、瞬時に部屋の温度が冷える。
おバカ!!シームルグが聞いているのよ!
何、過去の浮気相手にしてやったことをこんなところで話しているのよっ!!!
心の動揺と共にわたしはキッとなる。
「洗われるのは嫌だという伝統が続いている割には、聖女課の人たちは誰も洗濯なんてできませんでしたけど。そのカラドリウス大聖女も、自分でちゃんと洗ってたのかしらね!」
それを聞いてエーテリオンが目を丸くする。
「飛鳥様、言い過ぎですよ。カラドリウス様は民からも愛され、多くの聖女を作り、慈愛に満ちた方だったということですよ。」
ぐっ!!
そんな信じ切った目で反論されると、ますますシームルグの怒りに火を注ぐのだけど。
部屋が…寒い。
明らかに数度落ちている。
「いや、エーテリオン。飛鳥の言う通りだ。結局、下っ端に洗わせて飛鳥のように自分で洗うことはなかったよ。だが、今日の飛鳥の洗濯の量はすごい量だったみたいだから、洗濯機を準備してあげる方が良かったのかもね。エーテリオン、予算が空いたら、聖女課に洗濯機を入れてやっておくれ」
ソラリクスは肩をすくめて立ち上がる。
わたしはその時、あれっ?と違和感が心に広がった。
ソラリクスは、おそらくだが時渡りに良い思いがないような気がする。
私が洗濯をすることもわかっていたはず。
それがすごい量だということも。
カラドリウスが言っていたたらいを準備したけど、多分使わないだろうと思っていたような口ぶりだ。
「飛鳥、また時々ここにやってくるよ。その時に、そのぬいぐるみがきれいになっているとうれしい。よろしく頼むよ」
ソラリクスはエーテリオンに、声をかけて部屋から出て行こうとする。
「城のシームルグの館につながる部屋は必ず鍵をかけてね」
「はい。わかりました」
確かに、それが唯一のセキュリティなのだから当然か。
エーテリオンも、慌てて部屋を整えて去って行く。
「あ、ありがとうございました」
何か、唐突に会話を切り上げられてしまった。
助かったけど...気のせいかな?
ソラリクスってカラドリウスとうまくいってなかったんじゃないの?
何となくだけど、ソラリクスがぬいぐるみを持っている時の温度と、先ほどのカラドリウスの洗濯の話をする時の温度が違う気がする
だが、そんなことは関係ないらしい
「なによ!何よ!カラドリウスの話なんてこれ見よがしにしちゃって!!ほんとに、あの浮気者!!」
頭の中にシームルグのモスキート音がガンガン響いてくる。
「うっ!やめて!シームルグ!!頭で騒がないで!」
わたしは思わず悲鳴を上げた




