15 異世界だから幽霊だってアリ
「古くなりすぎて、扉の開きが悪いですね。エーテリオン様、せっかく運んでいただいた一人暮らしセットですが、搬入が難しそうです。」
「たしかに」
エーテリオンも困った顔をする。最低でも一メートルはドアが開いてほしい。
「縮小して、中で拡大したらどうだい?」
ソラリクスがなんてこともない感じでわたしに言う。
「そんな便利なことができるなら最初からしましょうよ。エーテリオンさん、運ぶの大変そうじゃないですか」
3人しか入れないから、エーテリオンさんが一人で準備していたのに!
そう言われて、うーんとソラリクスは唸る
「小さくすることはできるけど、わたしがいなければ元に戻すことができないんだよ。今回は、シームルグのところに行くから特別。確かに全てミニチュアにしてあげておいたら準備は楽だっただろうがね」
気が回らなかったよ。すまないねと声をかけるが、エーテリオンからすると、まだ何の搬入もできていないし気にしないでくれとわたしにもソラリクスにも伝えてくる。
「だから、今回は、君が手で持てる大きさにして、中に入れて、わたしが戻せそうなら戻すというのでどうかい?」
「うーん、入らないなら仕方ないですよね」
大きな包まれた荷物は、小さな片手で持てる段ボール箱ぐらいになる。
「じゃあ、行きますよ。お邪魔しまーす」
そーっと声をかけながら、中に入る。先ほどソラリクスが投げ込んだ光球のおかげで中はよく見える。
よく見えるけどーーー
入った瞬間、ひゅっと息を呑む。
突然ガシャン!!ドアが閉まる
入ってまだ一歩目。
「うわーーー!!ソラリクス!!エーテリオンさーーーん!」
ドンドンとドアを殴るが開かない。
ひーーーっ!
ソラリクスが作ってくれたシールド状の上からも横からも10本以上の包丁がシールドに突き刺さってるんだけど...
「この...浮気者!!」
うわあああああ!頭に呼びかけてくるよ!
「浮気じゃないです!あんな男嫌です!わたしの好みじゃないです!嫌なら出ていくです!!」
私は叫び回る。
目の前に回転するノコギリが飛んできて、わたしの叫び声にピタッと止まる。
「あんた誰?」
「へっ?誰って...」
目の前にぼんやりした美少女がいる。
ここに、美少女が...いる?
おかしくない?
ここに来られるのは、私、エーテリオン、ソラリクス。
「か、鏡ね?きっと、理想の幻が見えてる鏡ね?」
「誰かって聞いてるのよ。ソラリクスのシールドなんて張っちゃって何よ!あんたが次の女のアピール?」
「いやいやいや、わたし浮気するような男は嫌いなので、ないです。」
「じゃあ、なんでここにきてるのかしら」
ゆらゆらとした美少女がドンドン近づいてくる。
近づいてくる??
なんか見たことないのに、見たことあるような。
知ってるのに知らない——そんな出そうで出ない感覚が襲ってくる。
あ、もしかして! もしかして!
「あなた、もしかしてだけど?? シームルグ...の幽霊?」
「だからわたしと同じ顔したあんたは誰よ?」
「いや、似てません。まったくあなたとわたしは似てません」
今度は似てないのに似てると言われる。
なんのことやら!
美少女さんは、ソラリクスの作ったシールドをすーっと超えて、わたしの顔をじーっと見る。
「わ、わたしは時渡りできた天童飛鳥です。あなたの絵のそっくりさんといわれて、ソラリクスにここで寝泊まりして片付けを頼まれたのだけど...ここにあなたがいるなら、外にソラリクスがいるから呼んでくるわ」
そうだ!なんで気づかなかった。
ここは異世界。神がいて、獣人もいて、人間もいて、魔法とかバンバン使う人もいて、幽霊だけがいない!そんなわけがない。
私は、必死でソラリクスがいる玄関の扉を開けようとする。
だが、開かない!!
うわあぁ!開いてくれ!
「やだっ!ソラリクスいるの!!」
「ここの片付けと新しい寝泊まり用品を搬入してくれることになってて案内のために外にいるわ。あれから500年くらいたってるんですって。わたしは知らないけどね。だったら当人同士、積もる話もあるんじゃないの?二人で話した方がスムーズなんじゃないかしら」
恐る恐るも、やけくそに声をかけるが、シームルグと思われる美少女はブンブン頭を振って
「無理無理無理!そんなの無理よ」
という。
「ええと、二人とも、私が出てくるのを外で待ってるのよ。多分、出てこない私を心配してると思うわ。」
そう言いつつ、心配してるだろうか?
エーテリオンは心配だけはしてくれそうだ。
ソラリクスは?
あいつはしそうにないな。
だがそんなことを正直に言ってる暇はない。
「もし、わたしがここに来るとしたら、荷物どこに入れたらいいかしら?少なくとも入れられるスペースはなさそうに見えるけど」
目の前のフロアは、本の山が崩れ、どこから落ちてきたのかわからない壊れた箪笥や家具が吹っ飛び、なぜかフロアの目の前の階段が消えたりつながったりして、絨毯は勝手に動き出してるし、目だけ動く絵画が床に落ちてたり、ソラリクスが放った光球から火花が散っている。
どう考えてもお片付けの枠をはみ出している。
「えーっ!ここ、わたしの家なのに、ここにいたらダメなの?あなたと同居するのは決定なの?」
「シームルグさんがここにいて、一人で過ごしたいっていうなら...どうなんだろう...」
ソラリクスは目の前の元恋人だったシームルグから、浮気相手の時渡りの大聖女に乗り換えた結果、その人を殺されて、半世紀ご飯が食べられないほど落ち込んで、しかもすごく恨んでるんだよね。
わたしは死刑囚になりかけたけど、シームルグに似てないからって言うことで無罪放免になったけど、本人だったらどうなるの?幽霊だから許してもらえるの?
いや、ソラリクスすら入れないこの家を守り続けるパワーをもつシームルグなのだから、これから二人で仁義なき戦いに突入するのかしら。
「し、シームルグ...さんであってるのかしら?」
「そうよ!」
彼女は漆黒のふわふわとした髪、ぱっちりした目、鼻筋の通ったすっきりした鼻、薄いほんのりピンクの唇に、キラキラと星空が嵌め込まれたようなワンピースをきている。
「どうしましょう?シームルグさんがいるので住むのは無理って言ってよければ、わたしを追い出してもらえたら」
「そんなのダメよ!」
「じゃあ、一度姿を消していただいて何事もなかったかのようにソラリクスとエーテリオン様に入ってもらって、ここに住む手続きをするのは?」
「こんな汚い部屋見せるわけにいかないわよ!足の踏み場もないんだから!!」
美少女はキレまくる。
だが、今日の聖女シスターズたちよりよっぽど足の踏み場がないことを認めている段階で素直だ。
「足の踏み場がないことまではソラリクスも知っているみたい。あなたがいることは知らないようだけど。どの部屋なら入っていいとか決めてもらえたらその部屋以外は入らないわ。ソラリクスもエーテリオン様も入れない。それでどう?」
シームルグはそわそわしているが、
「本当だ。ソラリクスの魔力を感じるわ」
と困ったように私を見る。
「応接間...ならいいわよ。だれもお客は来たことないから、開けていないし掃除したら綺麗...だと思う。ええと場所は...」
シームルグが指差した方向は、いろんな部屋から飛び出した家具やらボロボロに破れたカーテンがなぜか廊下にかけてあったり、いろんな仕掛けのある見たことのない機械がたくさん埋め尽くされている。
「そこ以外はダメよ。いいわね!」
「いいけど、入れないわよ」
これを取り除くのにどれだけかかるんだか?
しかも、この奥の応接間しかダメと言い切れる理由も必要だ。
「とりあえず、右のものを左に置き直す作戦よ」
シームルグは、物を一斉に浮き上がらせ応接室と逆側に全てのものを積み重ね始める。
ああ、幽霊になっても典型的に物が片付けられない人なわけね
ただ、移動して満足するーーそれは、ありがちな自己満足式お片付けだ。
だがそんなことを言ってはいられない。
わたしもシームルグと一緒に右にあったものを左の通路に積み直す。
こうして、開かれた廊下の先の小さな部屋に無機質な机と椅子がポツンと置かれただけの応接室が提供されたのだった。




