14 元カノの家はお化け屋敷
「すっかり夜になってしまいました。明日もちゃんと昼になりますよね」
泣きそうな顔でエーテリオンが、ソラリクスに同意を求める。
「もちろん来るよ。朝が来て、昼が来て、夕暮れと共に夜が来る。夜だけじゃない。しっかり世界が休んで、朝も来るんだよ」
ソラリクスはふふっと面白そうに微笑みながら、シームルグの城の部屋の扉の鍵を開けた。そこには大きな荷物の塊がある。
「時渡りの方が困らないように、生活道具やベッド、魔道具を準備しております」
「魔道具ってわたし使えるんですか?」
「シームルグの館は魔力を持った建物と聞きましたので魔道具も使えます。使えなくても、魔石を色々準備しておきました」
「色々?」
「赤の魔石は火、青の魔石は水、黄は電気、緑は植物......こんな感じで建物に発生させることが出来るのです」
「ほえっ!じゃあ聖女課にも洗濯機を導入していただければ...」
「申請があれば買いますけど、あれだけ室内がひどいと洗濯機も宝の持ち腐れでしょう」
「いやいや、たらいを準備してくださるぐらいなら、洗濯機を準備していただきたかった」
「たらいを準備??」
エーテリオンが何のことを言っているとばかりに首を傾げる。
「まあいいじゃないか、そんな仕事のことは忘れて、シームルグの家に移動しよう」
ソラリクスはワクワクした気持ちを抑えられないような顔をしている。
あなたの元カノの家を片付けるのも私からしたら仕事なのよと言いたくなる気持ちも、そのソラリクスの表情を見ると飛んでいきそうだ。
死んだ元彼女の家なんて、ソラリクスの立場なら勝手に何度でも行けただろうに。
いやそもそも、元カノの家に行きたいものなのかもわからない。500年ぐらい長生きしたらその気持ちもわかるのだろうか。
人間だって憎しみあっても、死ぬ頃にはそれも良い思い出と言う人だっているぐらいだし、500年ならドロドロの愛憎劇も美化されるかもしれないわ。
部屋の中には薄く光り輝く輪が見える。
エーテリオンは、その輪に時渡り用の荷物をずるずる押し込むと荷物がフッと消える。
「うわあ!き、消えたんですけど!!」
「移動しただけです。シームルグの家は、周りのものからも関心が高いので私とソラリクス様、そしてあなただけしか入れません。かつてもです。ソラリクス様と私の先祖のベンヌ、シームルグしか入れなかったと聞いています」
「関心が高いって?なんで?」
「世紀の大悪女ですよ。どんな暮らしをしていたのか、何か書き物を残してないか?どんな服を着ていたのか、全てが関心の的、そりゃみんな気になって仕方ないでしょう。」
「私見てもいいんですか?」
それってかなり責任重大じゃないの?
まわりからきかれても、何も答えられないし、この世界に友達が出来ても家に招待することも出来ないじゃないの。
「シームルグの絵にそっくりなあなたが500年ぶりに現れたのも何かの縁でしょう。正直、私にとってはソラリクス様や大聖女に刃をむけた憎むべき存在で、ずっと守り続ける義理はないのです。守ることがソラリクス様の希望だと聞いて続けてきただけですから」
エーテリオンは、チラリとソラリクスを視界に捉えていたが、私からはソラリクスがどんな表情をしているのかは見えない。
世紀の大悪女かーーーよくそこまで言われた人とそっくりだったのに無事だったもんだ。
わたしはソラリクスやエーテリオンと一緒に恐る恐る光る輪の中に入ると体がふわっと浮遊するような温かい空気が流れる。
うわっ!落ちる!!
グニャッと曲がるような、高速エレベーターに乗ってしまったような気持ち悪い感覚が襲う。
思わず目をぎゅっと閉じる
「飛鳥、着いたよ。ここがシームルグの館だ」
おそるおそる目を開ける。
ん??
ええっ!
「えっ!わたしもここに移動したのは初めてなんですけど、コレ住めるんですか?」
エーテリオンが、呆然とした顔をする。
だが、わたしも呆然としていた。
「これは、家??なの?」
それは、一般庶民で生きていた自分にとって見たこともない建物だった。
◆◆◆
目の前に広がる、真っ黒な蔦や枯れた薔薇が建物を囲んでいる。どこから吹くのかわからない風で玄関の門がギコギコ音を立てており、重厚な木の扉が長い年月開けていなかったことを伝えている。
建物の高さは不明だが、小さな城だ。
ただ、いわゆる素敵なお城ではなく、どこかのお化け屋敷のようだ。
「これ、ゴミ屋敷じゃなくて、ホラーハウスですよね」
わたしは、そのまま帰りたくなる。
いや、帰ろう。昨日の牢屋に戻りたい。
くるりと、移動してきた輪の光に戻ろうとするところをソラリクスに止められる
「まあまあ、せめて中に入ってよ」
ソラリクスは昨夜と同じように、手に小さな光球をつくる。そして、玄関を開けてその光球を投げ込んだかと思うと、瞬時に扉を閉める。
パリーーン!
ドンカラガッチャンドカンガチャン!
ボコッ!
ダーン!!
激しい地響きと共に、暗闇の城に灯りが灯る。
「わたしに出来るのはここまでだ」
ソラリクスは、珍しく額から汗を流している。
「あの、今激しい音が聞こえませんでした?」
「聞こえたな」
エーテリオンも横でうなずく。
「これ、開けたら何が出てくるんです?ネズミですか?」
「ネズミもいるかもね」
ソラリクスは目を彷徨わせる。
「でも、ネズミだけじゃないですよね?」
「そうかもね」
ソラリクスは手で汗を拭う。そして、さあさあどうぞと私を押し入れようとする。
「いえ、絶対何かいるでしょ。」
「死なないようにって言ったよ。もし、死ぬなら考えるよ」
「死んだ後に考えられても困ります」
私は、話が違うとばかりにソラリクスの腕を掴む。
「私は嫌われているんだよ。だから入れないけど、絵と似ている君なら何か変わるかもしれないじゃないか」
「せめて昼に来させてくださいよ」
「月光神の家だから、昼は鍵を使っても開かないんだよ」
なんてこと!!
「盾を持ってきましょうか?コレ、ガルーダにも協力してもらいましょう。無関係な飛鳥様が、ここに来たんですからガルーダを呼んでもいいでしょう」
「身一つで入るのなんて嫌ですよ。」
私も叫ぶ。
「ええっ!でも、シームルグがそれを望んでいるかわからないよ。飛鳥はこの世界に関係ないから、シームルグに対しても先入観がないからお願いしているんだ。まずは一階だけでも歩いてからにしようよ」
ソラリクスは不満そうだ。
亡くなった後、自分が知らない、自分に敵対心を持った人に自分の家を探られるのは確かに嫌だろうけど。
「じゃあ、盾だけでも欲しいです。身一つで入るのは嫌です」
ドアを開けたと同時に、殺されたくはない。
ソラリクスも、仕方ないなと言いながら目の前に光のドームのシールドを作った。
「これで、君の周りには何も攻撃が来ない」
ソラリクスは近くにある石を試しのように投げてみると、私の少し前で石は跳ね返る。衝撃もない。
「なにかあったら絶対新しい家を準備してくださいね」
私はすーっと大きな息を吸い込む。
「と、突入します!!」
私は、勇気を出してガバッと玄関の扉を開けようとする。だが、その気持ちと勢いとは裏腹に
ギーーー!ギギッーーギッ
立て付けが悪くなった扉は、初っ端から勢いをくじき、せいぜい人が一人通るぐらいしか開かないのだった。




