12 洗濯物を片付けただけなのに
城の裏手の洗い場は聖女専用スペースといいつつ、ポロポロと人が歩いたり、鍛錬を積んだり、はたまた仕事をサボって眠っていたり。
「暖かい。たしかに眠りたくなるわよね」
わたしはふふっと笑いながら青く広がる空を見た。
空気も澄み渡り気持ちがいい。
適度な風も吹いているし、これなら3時間ぐらい干せばタオルも乾きそう。
洗い場は長く使われてなかったようだが、大きなたらいが何個もある。
ブラシや必要な道具は置いてあった。
更には使い途中ではない新品の洗剤も――
これはエーテリオンの手配だろうか?
まるで今日ここにこれらが使われてる事がわかっているかのような準備だ。
洗い場に水を溜めながら、ムワッとしたタオルを突っ込む。
「穢れだかなんだかしらないけど、汚れすぎよ。第一段階は足で洗うわ」
まずはつけおき。
足で踏み洗いしながら大量の使い終わったタオルを足踏み洗いして、洗剤液を入れたタライにつけ置きしていく。
「物干し竿を拭いておこうかしら。」
銀色に輝く物干し竿はまだ新しく見える。
でも、こんなに洗い物が溜まっているのだから、おそらく長くは使われていないはずだ。
一番汚れたタオルを雑巾にして、わたしは竿を拭こうと布を這わせる。
「んん?」
水で濡らした雑巾の水切れが良すぎる音がするんだけど?
というより、竿の金属に触れた部分の布がかなり乾いている。
「え?何?この便利グッズは?」
試しに雑巾を竿にかけてみると、「しゅわ」という音と湯気と一緒に、かなり短時間で雑巾が乾く。
「無茶苦茶便利なんですけど!!」
長く放置されていたタオルたちは臭すぎるのでしばらく漬け置きしたほうがいいし!
これなら先に聖女たちの服や下着を洗って乾かすのもアリか!
わたしは再び、更衣室にもどって聖女たちの下着ばかり、服ばかりを集めていく。
「下着まで赤、黄、青、緑、ピンクじゃないの!」
名前は書かれてなくても、赤のパンツは聖女レッド、黄色のブラジャーは聖女イエローのような気がする。
よし!これで今日中に私は洗濯を終えるわ!
わたしは再び洗い場に戻り、漬け置きしたタオルたちを再び足踏み洗い、そして再び洗浄液に漬け込む。
漬け込んだだけで色が変わるタオルたち…
あの穢れなき聖女たちは大丈夫なのか?
流石に下着は手洗いしてあげよう
洗剤をかけてはこすり洗いをしては干す。
こすり洗いをしては干す。
こすり洗いをしては...
どれだけ下着を溜め込むんだか?
まとめて取り込もうと、とにかくパンツばかり洗っては竿に、ブラジャーばかり洗っては、竿に、ストッキングばかり洗っては、ふわふわするストッキングをピンチで抑え、第一弾、下着の山を全て手洗いし終える。
それだけで竿10竿分ぐらい使う。
そして、聖女の祈祷服をひたすら押し洗い、脇下の汗抜きをしては竿にかける。
これで竿20竿分だ。
その度になにやらざわめきやどよめき、歓声に近いものが聞こえるのは気のせいかしら?
私は聖女の祈祷服を延々と洗い続けては干していく。
「飛鳥!!あんたっ!なにやってるの!!」
祈祷服がやっと干し終わり、さあ、タオルをすすぎに入ろうかとした頃、ジズの真っ赤な顔と叫び声が聞こえ、聖女たちが飛び込んで来た。
「え?今ちょうど祈祷服を洗い終えたので、これからタオルを洗って一気に回収予定です。」
「なにが一気に回収よ!!」
わーーっ!
きゃーーっ!
何やら竿の向こうで声がする。
おそるおそる近づいてみると、あっ!!!
下着、祈祷服と竿にどんどんはためかせた結果、こちら側からは洗濯物で死角に入って見えなかったが、いつのまにか兵や男性ギャラリーたちが明らかに洗濯物を見ている。
その視線の先は...あっ!
いや、さっきまで人は通ってたけど、こんなに歩いてなかったし、男の人もほとんどいなかったはずなのに!!
「さ、さっきまで1人寝てる人がいるかどうかで...そんなに人はいなかったんですよ!」
「言い訳は無用!!わざとあんた見えるように干したでしょ!」
ブンブンと首を振る。
隠すように干せなかったのは、元の世界のように隠せるような物干し道具もなく竿一本、しかも大量の下着すぎてどう干しても目立つからである。
「新人!あんた覚えてなさいよ!!」
一斉に聖女たちは下着を回収して去っていく。
ああ、どうせなら制服も回収してくれたらいいのに。
というか、やっちゃった??
ああ、初日からこんなに頑張ったのに叱られるなんて...
結局昼ごはんも食べ損ねて、わたしはたった一日で、更衣室に入りきらない溢れた洗濯物を全て片付けたにもかかわらず大目玉をくらったのだった。
◇◇◇
「どうした?久しぶりにシームルグの館に行くならわたしも行こうと思っていたのに...初日から、ボロボロに見えるのだが」
ソラリクスに心配されるわたしはそこまでボロボロだっただろうか?
もう、ジト目でみる体力すらない。
そんなわたしをソラリクスは、怪訝な顔つきをしつつも、心配そうに眺めている。
あのあとこっぴどく叱られている最中に、エーテリオンがわたしの回収にやって来た。
「あの洗濯の量を彼女1人にやらせようとするジズにも問題があると思うが。誰かが一緒にやっていれば、物干し道具だって準備してくれるものもいるだろう。いや、この際言わせてもらうなら、最近聖女課から時々生ごみの匂いがすると苦情も入っている。君も他の聖女たちの管理をもう少し考えてもらわないと、この課はお金がかかりすぎだよ」
「なんですって!!」
あー、エーテリオンがわたしを守っているふりをしながら
聖女に苦情を言っている。
この煽りは明日以降私が受けるわけで...ああ、恐ろしい。
「ちょっと!新人!分からないことがあるならちゃんと聞いて!それで迷惑を被るのはこっちなのよ!」
「すいません」
頭を下げるしかない。
分からないことがわからないから新人なんだよ!
クソが!!
とそんなことを心で思っても態度に出してはいけない。
あくまでも勝手に竿しかないと思い込んだのはわたしなのだ。
「明日以降気をつけます」
しょぼんとした顔をしながら、本日は退場ーーー
で、これからやっと住居にいくはずだけど、ソラリクスの元彼女の家を片付けるというミッションがついてくるんでしたっけ?
「昼も食べてないよね。この世界では、誰もがしっかり食べてしっかり眠ることぐらいは神の裁量でやっているはずなんだけど、なんで食べられてないのかな?」
ソラリクスは、心配そうにしていたのは一瞬、その後は不満げにわたしの顔を見て文句言う。
どいつもこいつもーー
聖女の出した洗い物してたら、昼を食べる暇もなく一日が終わったんだっていうのに。
わたしはゲンナリした顔をして、心の中で盛大なため息をつくしかなかった




