第9話 オーガと博打その4
「な!馬鹿な!どういう事だ。今までこんなことは一度も…」
オーガの声が震える。目を見開き、皿からこぼれたダイスを凝視している。
アリスも、俺とこぼれたダイスを交互に見て、唇を噛んでいた。
確か、ダイスが皿からこぼれた場合は掛け金の3倍を払うルールだったはずだ。
俺のチップは30枚、金貨3枚分。アリスも金貨3枚分。
その3倍――金貨18枚、払ってもらおうか。
「待て、こんなことはありえない!なにかダイスに細工しやがったな」
おいおい、あんたが投げたんだろ?
大きな勝負で力が入ってミスをする――ギャンブルではよくあることだ。
「そんな馬鹿な…」
オーガはまだ信じられない様子で、手が震えるのを必死に抑えながら皿を凝視していた。
――この国じゃ、ギャンブルの負けは絶対だ。
金貨18枚、払ってもらおうか。
オーガは観念したように、奥から布袋を引っ張り出した。
中には金貨もあったが、ほとんどは銀貨と銅貨。焦るオーガの手がわずかに震えている。
「アリス、これで金貨18枚分あるのか?」
アリスは布袋の中身を並べて確認する。
「ちょっと足りないな…せいぜい金貨15枚分くらいかな」
オーガは不貞腐れた顔で、荒々しく吐き捨てる。
「これが俺の全財産だ。これ以上は逆さに振っても鼻血も出ねぇ。文句があるなら兵士に突き出すなり、なんなりしてくれ!」
なかばヤケになった様子だ。
――じゃあ、アリスをその金貨3枚分で買わせてもらおう。
これで、アリスとオーガの関係は完全に切れる。
「本当に良いのかい?キョウスケ」
アリスは少し不安そうに俺を見上げる。
ここまで勝つには彼女の協力が不可欠だった。言ってみれば分け前のようなものだ。
オーガは吐き捨てるように言った。
「分かった。そんな小娘で良いならくれてやる。もう用は済んだだろう。さっさっと出て行け!」
俺とアリスは勝った金を握り、ヘブンズドアを後にした。
道すがら、アリスが息を弾ませながら話しかける。
「キョウスケ!まさかあの状況で、親方のミスを狙ってたなんて…
でも、どうして今日に限って親方はあんなミスを?」
あれは、大金の勝負で力が入りすぎたせいじゃない。
そんな危険な橋に全財産をかけるはずがない。
「じゃあ、親方の言うダイスの細工ってやつは…?」
アリスの目がキラキラしている。
俺は荷物からブリング焼きを取り出した。
掛け金を上乗せするタイミングでアリスの金を取り出すどさくさに、指に油をつけて皿に軽く塗っていたのだ。
ダイスに気を取られている間、皿の滑りやすさには誰も気づかない。
結果、ダイスは皿からこぼれ――運命は決まった。
オーガも気づいているかもしれないが、時すでに遅し。
この国では、騙されるほうが悪い。
アリスは目を丸くしてつぶやく。
「そんな単純な方法で…」
手品でも、ギャンブルでも、種を聞いてみれば拍子抜けするくらいあっけないもんだ
「でもすごいよ、キョウスケ!これで二人で賭博宮に行けるね!」
「お前、もう自由の身だろ?危ない橋を渡らなくても…」
「忘れたの?私はキョウスケに金貨3枚で買われたんだ。
それに、賭博宮に行く目的もある。嫌だって言っても付いていくよ。相棒でもあるんだから」
――まぁ、アリスのおかげで助かったのも確かだ。
言っても聞きそうにないし、分かった。賭博宮に一緒に行くか。
「そうこなくっちゃ!」
アリスは弾けるような笑顔で抱きついた。
…そう言えば、こいつ、最初は俺を嵌めようとしてたんだっけな。
これで、第一章は終わりです。
心理描写が難しくて、表現に苦労していますが
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