第2話 博打の負けは博打で返す。
博打国家ブリング。
いや、そんな国の名前は聞いたこともない。
それに、人々の姿もおかしい。
目の前の犬耳少女だけでなく、角の生えた青年、羽のある女性。
ほかにも漫画やアニメでしか見たことのないような獣人や亜人が多く歩いている。
もちろん普通の人間の姿もあるが……少なくとも、コスプレイベントなんかではない。
――これは異世界転生?
いや、俺の服は刺された時のままだ。胸元にはナイフで開いた穴が残っている。傷こそ無いが、服はボロだ。
……異世界転位ってやつか。
普通、こういうのは神様みたいなやつが出てきて、チート能力やらスキルやらくれるもんじゃないのか?
俺は体ひとつで放り出されたんだが。
俺の取り柄なんて、ギャンブルぐらいしかないのに――ギャンブル。
そしてここは、博打国家ブリング。
そうだ。
博打国家を名乗るぐらいだ、この国ではギャンブルが重要な位置を占めているに違いない。
だったら前の世界と変わらない。
いや、それ以上に“ギャンブルさえ強ければ”生きていける世界なのかもしれない。
前の世界の最後、俺は読み違いで死んだ。
だが、今こうして俺にうってつけの世界に送られた。
望むところだ。
途中で負けても関係ない。最後に勝てばそれでいい。
博打の負けは、博打で返す。
そう心に決めて、拳を固く握った。
「おっさん、何してんのさ?」
犬耳の少女が、不思議そうに俺をじっと見ている。
「まぁ、こっちは文無しには用は無いし、さっきも言ったけど、とっとと行った行った」
言われて気づく。
確かにギャンブルで勝つにしても軍資金が必要だ。
何か金目のものはなかったか……?
あるとしたらアクセサリーの安い指輪くらい。
異世界で価値があるのかどうかも分からない。
他に何か、と体を探っていると、ズボンの尻ポケットに違和感があった。
――布袋?
取り出してみると、見覚えのない金貨が数枚。
なんだこれ?
随分高価そうだ。
……そうか。
これは刺される前、雀荘で大勝したあの金だ。
仕組みは分からないが、この世界の価値に変換されて持ってきたらしい。
ざっと見て、40〜50万ってところか。
俺が金貨を眺めていると――
「なんだよ兄さん! 持ってるじゃないか!」
犬耳少女の目が輝いた。
おっさん呼びから兄さん呼びへランクアップ。
金の魔力は異世界でも健在らしい。
「ブリング金貨が5枚も! 兄さん、これはどこで……いや、どうでもいい!
兄さん、儲け話に興味は無いかい?
ここは博打国家。
その金が何十倍、いや何百倍にもなるかもしれないぜ!」
儲け話、博打――この言葉で心が動かないギャンブラーはいない。
「詳しく聞かせてもらおうか」
「お、乗ってきたね!」
少女は嬉々として話し始めた。
「ここは博打国家。博打で勝てばなんでも手に入る。
金、名誉、ひょっとしたらこの国さえもね!」
スケール大きい話だが、とりあえず続きを聞く。
「でも兄さん、そんな大金を得たいなら、この場所じゃダメさ。
小さな店なら勝ってもせいぜい2〜3倍。
それじゃ意味がない。
“大金”を稼ぎたいなら、賭博宮に行かなきゃ」
賭博宮?
「そっか、兄さんはこの国のことを何も知らないんだったね」
少女の説明をまとめると、こうだ。
博打国家ブリングの始まりは、なんと初代王が“博打で国を勝ち取った”のが起源らしい。
博打で領土を手に入れ、資源を得て、家臣を獲得して、国を興したという。
そのため、国民は揃いも揃って博打好き。
一般市民、貴族、王族、さらには寺院まで。
あらゆる階層が博打に熱を上げる国なのだ。
今の国王も、生まれてこのかた博打で負けたことがないという化け物らしい。
もちろん王の座も博打で勝ち取ったらしい。
とんでもない国だ。
「で、賭博宮ってところに行けばいいんだな」
「兄さん、話はそう簡単じゃないんだ……まず金が足りない。
賭博宮に入るには、それ相応の大金がいる」
この金貨じゃダメなのか。
「その金貨の2倍……いや3倍あれば、なんとかなると思うけど。
だから兄さん、私と組まないか?」
少女の目が真剣になった。
「私も賭博宮に入るのが目的なんだ。
だけど金が足りない。
兄さんと私の金を合わせて、博打で増やす。
それで一緒に賭博宮に行こうよ!」
正直、うさんくさい。
信用できるかどうかも分からない。
だが、妙な迫力があった。
「でも二人の金を合わせても足りないだろう? どうするんだ」
少女は小声で続けた。
「このあたりで一番大きな賭場があるんだ。
露店の延長みたいな場所だけど、そこなら多少の大金でも怪しまれない。
もちろん勝てる保証はない。
これは兄さんと私の命金。
“負けました”“すりました”じゃ済まない」
そこで少女はニヤリと笑った。
「だから――策を練ったのさ」
俺は思わず前のめりになって、その話に耳を傾けた。




