17話 王の座を賭けて
翌朝。
窓から差し込む光で目を覚ますと、昨夜のアリスの表情が頭に残っていた。
――迷っている相手は怖くない。
自分で言っておきながら、あの言葉が彼女を余計に追い詰めたんじゃないか。
そんな気がして、少し胸の奥がざわつく。
まぁいい。ギャンブルの場に出る以上、自信のないやつが負けるのは当然だ。
勝負の世界は残酷だが、その残酷さがフェアでもある。
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「キョウスケ様、起床されていますか? 本戦会場へご案内いたします」
宮廷付きの執事の1人らしい。
声が無駄に上品で、俺とは相性が悪そうだ。
はいはい、今行きます
着替えを済ませ廊下に出ると、他の参加者達も同じ方向へ歩いていた。
皆、昨日までの軽い気分とは違う。緊張が空気を重くしている。
その中で、ひときわ視線を集めている者がいた。
アリスだ。
……が、昨夜の弱々しい表情とは全く違う。
背筋は伸び、瞳には決意の光が宿っている。
「おはよう、キョウスケ」
そう声をかけられた瞬間、俺は思わず眉を上げた。
ずいぶん変わったじゃないか。何かあった?
「あなたの言葉で気付いたんです。迷っているなら……迷いを消すしかない、と」
アリスは少しぎこちない笑顔を見せた。
「父や姉に勝つ自信は……正直ありません。でも、あなたと一緒にここまで来た時間は、本物です。その“賭け”くらいは、私自身の手で証明したい」
それは決意というより、覚悟に近かった。
俺は肩をすくめる。
いいんじゃないか。結果はどうあれ、自分で選んだ方がスッキリする。
「ええ。……頼りないかもしれませんが、今日もよろしくお願いします」
少し照れ臭そうに言うアリス。
その耳が、ぴょこっと立ち上がっていた。
――やっぱり、笑っている方がいい。
そんな感想を胸にしまい、歩き出す。
そして広間に到着すると、その光景に思わず息を呑んだ。
巨大なホールの中央には、異様なほど精巧なカード台。
その周囲には観客席のような段差があり、上層には王族や貴族らしき連中が並んでこちらを見下ろしている。
昨日よりも明らかに殺気立った空気。
ここが――賭博宮・本戦会場。
すると、玉座のある上段から声が響いた。
「諸君、よくぞここまで勝ち上がった」
国王だ。昨日の食事会では柔らかい口調だったが、今は別人のような威圧感だ。
「本日より、本戦を開始する。裏切りも、騙し合いも、策略も――すべてを許容する。それこそが、このブリング国の“聖なる遊戯”だ」
参加者達がざわめく。
アリスもごくりと喉を鳴らした。
「それでは対戦カードを発表しよう。第一試合スネイルvsキョウスケ。第二試合ローズvsアリス。そして第三試合は私とランドだ。諸君らの健闘を祈る。」
こうして、この国の王の座を賭けた遊戯の火蓋が切られた。




