16話 決戦前夜その2
食事会のあと、俺たちはそれぞれ用意された個室に案内された。
個室といっても、内装は豪華すぎて、正直あまり落ち着かない。
俺が部屋の中をぐるぐる見回していると、不意にドアをノックする音がした。
「キョウスケ、いるんだろ? 話したいことがあるんだ」
ドアを開けると、そこにはアリスが立っていた。
いつもの元気さはどこへやら、耳もペタンと垂れている。
これはこれは、お姫様。こんな夜更けに、なんの御用ですか?
軽口のつもりで言ったが、アリスはすがるような目で俺を見上げた。
「……ごめんなさい。あなたを騙すようなことをして」
深々と頭を下げるアリス。その表情は真剣そのものだ。
驚いたけど、別に気にしてないよ。それより訳を聞かせてくれないか?
そう言うと、アリスは小さく頷き、静かに語り始めた。
「もう演技は必要ありませんね。父が言った通り……私はブリング国の第二王妃、アリス・アンギルドと申します。姉のローズとは腹違いの姉妹です。――事の発端は、私の“婚約”に関してです」
婚約? 急に飛びすぎじゃないか。
そう思ったが、口を挟まず耳を傾ける。
「キョウスケも知っているように、口惜しいですが、私はギャンブラーとしての資質が乏しい。それは父も姉も感じていることです。そのせいで、王宮での私の立場はあまり良くありません。そんな私に、父は“他国への輿入れ”を命じました」
アリスの手が震えているのが見えた。
「私は反対しました。顔も知らない相手に嫁ぐくらいなら――ギャンブラーとしての実力を示してみせる、と」
言葉だけ聞けば勇ましい。しかし本人は、声を震わせながら続けた。
「……でも本当は、自信なんてなかったんです。そこで、宮中の占い師に藁にもすがる思いで占ってもらいました。結果は……父や姉に勝てる確率はゼロに近い、と。ただ――変わった卦が出たそうです。その日出会う人物が、私の運命を大きく変える、と」
アリスは俺を見つめる。
「その“出会いの日”……それが、あなたと私が初めて会った日でした」
なるほど、そういう流れか。
「ヘブンズドアの件も、あなたを試すために私が仕組んだことです。オークの店主も臣下の一人。……騙していたこと、怒りますか?」
アリスは不安げに視線を送ってくる。
「最初にも言ったけど、驚いただけだよ。怒ってはいない。そもそも最初に俺をカップ&コインで騙そうとしてただろ? これで二回目だ」
そう答えると、アリスはようやく柔らかな笑顔を見せた。
……俺はこの笑顔に弱いのかもしれない。
「で、アリスはこれからどうしたい? この賭博宮で勝って、女王にでもなりたいのか?」
尋ねると、アリスは再び物憂げな表情に戻った。
「……本当、私はどうしたいんでしょう。父と姉への反発だけで、ここまで来てしまったのかもしれません」
家族の問題だ。俺には踏み込めない。
だが、ギャンブラーとして言えることはある。
迷ってる相手は怖くない。それだけは確かだ
その一言で、アリスの表情はまた陰ってしまった。
まあ、どちらにせよ勝負は明日だ。結果は嫌でも出る。
今日はもう休め。明日に備えないとな
アリスは小さく頷き、自分の部屋へ戻っていった。




