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ep.5 - 凍てつく笑顔 -

「あいつ、陽太を置いて消えたんです。」


陽子は震える声で葉月に語った。


そして名前は「小林浩司こはやしこうじ

生活苦から酒に溺れ、暴力がエスカレートしたこと。

金を無心し、時には陽太にまで手を上げたこと。

そして、ある日突然、連絡もなしに姿を消したこと。

陽子は警察に失踪届を出したとも言い、その際に浩司が陽太を虐待していた事実もそれとなく警察に伝えている…と。


しかし、警察も荒れた生活の男が突然姿を消したとなれば、事件性は低いと判断し、単なる家出人として捜査が難航しているらしい。


「浩司は仕事を失ってから、近所でも『日本酒片手にフラフラ歩いてる』とか『金を借りて回っている』って話をチラホラ聞いたの。


奥さんにも見捨てられ、実家にも寄り付かない。

可愛い息子を置いて、ある日忽然と姿を消しても、誰もが『あいつか』と眉をひそめるだけで、本気で捜索しようとする者はほとんどいなかった。」


確かに…そんな人なら急にいなくなっても不思議じゃない…のかな。


「最後に連絡が取れたのが、あの日、国道の裏手にある廃工場付近だったらしいんです。」


陽子はそう言って、浩司の使い古された携帯電話を葉月に見せた。


画面はひび割れ、電池も切れている。まるで持ち主の荒んだ末路を物語るように、その場に投げ捨てられていたという。


思っていたよりもかなり重い話に私は何も言えなかった…。

何を言って良いのかも分からない。


それを察したのか、陽子さんの表情がフッと笑顔になり口を開いた。


「まあ、でも陽太が戻ってきてくれて良かったわ!あなたのお陰ね!」


さっきの冷たい雰囲気から急に春の日差しのような笑顔に戻った。


それから私と陽子さんは玄関から中に入り、ご主人の村田祐介むらたゆうすけさんと陽太くんを改めて紹介してもらった。


ガチャっと玄関のドアを開け家に入ると、外とはまた違った木の香りがフワッと漂ってくる。

違う部屋からバタバタっと軽い足音と共に

「だぁれー?!」と陽太くんが走ってくる。

その後ろを祐介さんが会釈しながらついてきた。


フフッと陽子さんは笑いながら

「ヨータ!お客さんだよー!誰だと思う?

覚えてるかなー?」と陽太くんと目線を合わせる様に問いかける。


私の顔を見て陽太くんの動きが

ピタリと止まった。


「あっ…あっ…」


陽太くんは口をフルフルと開けながら、

困惑した表情になってきた。


「このひとは だれだろうねー?」


陽子さんは相変わらず陽太くんに向かって明るい声で、笑顔で話しかけているが…顔が固まってる…。

横からでも分かるくらいの…言葉では表現できない冷酷さを感じた。


「しっ、しらっ…ない!わかんない!」


陽太くんの口から必死に出た言葉、その言葉を食い気味に、被せるように即座に笑顔で陽子さんが答える。


「知らないわけないよねぇー?

だって、ヨータを助けてくれた人だよー?」


恐怖とこの場を何とかしたい一心で勇気を振り絞り口をちゃん開いた。


「よ、陽子さーん、もういいですよー!

大丈夫、だいじょーぶ!ね!?」


と、軽く笑いながら陽太くんと陽子さんを交互に見た。


少し間を置きずっと陽太くんの方を見ていた陽子さんの顔が、ゆっくりとこっちを向いた。


「そぉよねぇ!これからが大事よねぇ!

もう、逃げないって約束したし!」


「…んっ?」


私は笑顔のままで止まった、ニゲナイ?

なにから?


と、私の笑顔が崩れそうになった時陽太くんの後ろにいた祐介さんが


「まぁまぁ、中に入ってゆっくりお茶でも飲みましょうよ!」

と、その場を収めた。


【Ep.5 end】

※この物語は作者の想像に基づいており、登場する設定や人物はすべて架空のものです。現実の世界とは切り離してお楽しみください。

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