ep.4 - 明かされた傷跡 -
私は中々冷めない興奮のせいで
「うゎー!うゎー!すてきー!」と声に出しながら1歩2歩と手すりを使いながら階段を上がる。
築何年かは分からないがやはり雨ざらしのせいなのか、所々茶色いシミが多かったり欠けてしまっている所もある。
しかし、そんな事は気にならないくらい素敵だった。
手すりに触れると木のざらりとした感触があり、登っていくと軋む木の音が冒険心をくすぐった。
上に到着するとログハウスの周りにはぐるりとエントランスが広がっている。
本当にアニメや映画で見た事がある光景だ。
上に来たら気付いたけど、ログハウスの裏には物置小屋のような建物があった。
女性の方を見ながら話しかけた。
「改めて…はじめまして、沢村葉月と申します。
先日国道沿いであの子を見つけて…」と話していると女性が急に人差し指を口に当てながら「シッ!」と静かにと言う合図を送ってくる。
私は「??」と困惑した顔をしていただろう。
そしてドアのある玄関の脇から、リビングの様な大きな窓のある部屋の窓の外にグイグイと押され中が見えるか見えないかの所で止まった。
相変わらず女性は人差し指を口にかざしている。
窓の横で女性と2人で並び中を覗く。
なに?何かはじまるの??
心臓がドキドキと高鳴る。
暫くすると中から若い男性と幼い子供の声が聞こえた。
「ねーねー!何して遊ぶのーー?」
「じゃあ、こっちのお部屋でレゴでもやろうか」
「えー、ミニカーがいいなー!」
ガチャっと扉の開く音がすると、小さな男の子と眼鏡の若い男性が順番に部屋に入ってきた。
あの子だ!あの時よりとても顔色が良く、元気そう、何よりあんな声を、あんな風に笑うのか…と微笑ましく思った。
暫く覗いていると女性が無言で私の手を引っ張り、元いた玄関の方に戻ってきた。
「あの日、あの子を助けて頂きありがとうございました。
まさかあの手紙を見つけてもらえるなんて…。
警察に頼んでも仲介はしてもらえないから、微かな可能性に賭けてあこそに置いたんです。
申し遅れました、私は村田陽子と申します。
あの子は小林陽太、5歳です。
でも、あの子は私の子ではないんです…。」
深刻な顔をしながら女性はやっと話をし始めた。
「ああ、そうなんですね。
でも無事でなによりです!」
この多様性の時代、色んな家族の形があるんだから不思議ではなかった。
「あの子の実の父親、私の弟なんですが…その…虐待していたんです…。」
あー、やっぱりそうか。と納得しながらも何故か目線を逸らしてしまう。
「先程下にあった家が2人が住んでいた家で、父親は酒に溺れ日常的にあの子に暴力を奮っていたようです。
そして、あの日も酷かった…みたいで首を閉められたらしく、なんとか抵抗し逃げたようです…。」
やっぱり…。
だから裸足…で。
「何となく…分かって…いました。」
涙が落ちそうだ。瞬きをすると落ちそうだ。
どれだけ辛く苦しかっただろう。
実の父親から日常的に暴言や暴力を振るわれる。
私は体験したことがないから、勿論気持ちはわからない。
けど、死にたくなる程苦しいのだろう。
「何となく…?いつ?」
先程まで無風だった森の中から冷たい風が吹いたような感じがした。
いや、気のせいかもしれない。
それくらい冷たい雰囲気が一瞬で辺りに広がった。
女性の表情が固まった。
「え…あっいや、警察官に…渡す時…かな。
お家に帰るのを嫌がってたんですよ。」
と言うと
「…なのに、陽太を引き渡したんです…か?」
声が小さく、低くなる、何かに、私に怒ってる?
「え…あっ…」
と、目が泳ぐ。何も言えなくなった。
引き…渡す…べきじゃ…なかった…?
だって…まさかこんな酷い状況だとは…。
私は口をもごもごとし、指先が冷たくなってくるのが分かった。
背中には嫌な汗が垂れてくる。
女性は冷たい表情を凍らせたまま口だけを動かしボソボソと話し始めた。
「私はあの男は…悪魔です。」
【 ep.4 end 】
※この物語は作者の想像に基づいており、登場する設定や人物はすべて架空のものです。現実の世界とは切り離してお楽しみください。