ep.1 -あの日、国道に佇む影-
本当に…良かったのか。
私の選択は間違っていたのではないか。
【東葉県 栄ヶ浜市】
人口約7万人の栄ヶ浜市で産まれ育ち50年近く。
海もあり、山もあり都内までは電車で1時間以内買い物には特に困らない。
そんな街が私は大好きだ。
街の小さな食肉加工工場で働いている私は
久し振りの休日に愛車のタントでドライブを楽しんでいた。
日頃フルタイムで働き、たまの休日に買い物がてらこうして
ドライブするのが唯一の楽しみだ。
息子は現在中学生、一人で留守番ができるってのはありがたい。
その代わり、アイスを買ってきてとのご要望。
帰りにスーパーでアイスモナカを買ってあげよう。
窓を開けるとまだ少し冷たい風が入ってくる。
6月なのに珍しく晴れ、絶好のドライブ日和。
もうすぐ夏か…。年々暑くなってくるが今年はどれだけ暑くなるのか…。
交通量の多い国道沿いを走っていると、
4車線道路の脇に5歳くらいの子供が立っている。
髪の毛は長く肩まであるが、服装は黒い上下のジャージ。
男の子かな?
ずっと下を向き、拳を握ったまま動かない。
バックミラーに映る姿も動かない。
何より気になるは 裸足だ。
なぜこんな所に子供が? 迷子?
周りには…誰もいなかったよね…。
少し離れた安全な所に車を停めて
男の子に駆け寄り声を掛ける。
「どうしたの?大丈夫?1人かな?」
話しかけても応答はない、表情も変わらない。
やはり顔つきを見ると男の子のようだ。
困っていると誰かが通報したのか、
パトカーに乗った男性二人の警察官が来て事情を説明する。
「よーし、お兄さん達と安全なところに移動して、
おとうさんとおかあさんを待とうか!」
と、警察官が男の子の腕をつかみ連れて行こうとすると
初めて表情に変化が現れた。
何かに怯え、涙がこぼれそうな顔。
そしてフルフルと左右に動く頭。
すると、もう一人の警察官が私のほうへ来て
「えっと、お名前は沢村葉月さん…でしたよね。
事情は分かりましたので、
後はこちらで引き継ぎます。
お帰りになられて結構です、
ご協力ありがとうございました。」
と、言ってきた。
ペコリと警察官に頭を下げ「は、はい…。
後はお願いします。」
と言い、黙々と離れたところに停めた車に向かい歩き出す。
あの子の怯えた顔が脳裏に焼き付いて離れない。
この選択は、本当に正しかったのだろうか。
あの子が無事に帰れますように…。
【 Ep.1 end 】
※この物語は作者の想像に基づいており、登場する設定や人物はすべて架空のものです。現実の世界とは切り離してお楽しみください。