08
二度目の婚約パーティーだから、まだ前回よりは練習が楽かと思っていたら、全然そんなことはなかった。むしろ、アインアルド王子用に仕上げてきた所作が出てきてしまって、その修正に手こずっている。
オクトール様の方が頭一つ分くらい、アインアルド王子より身長が高いため、自然と目線や歩幅も変わるのだ。
そんな風に練習に戸惑っている中、オクトール様に呼び出され、すわ何事か、問題が発生したか、と慌てて彼の元へ行けば――。
「ベルメ嬢、好きな色は?」
「……暗い赤でしょうか」
王城の応接室で紅茶片手に何故か質問攻めに会っていた。というか、紅茶片手なのはわたしだけで、オクトール様は紙束を手にしている。……今何か書き込んだけど、もしかしてそれ全部質問が書かれているの?
「では嫌いな色は?」
「ありませんけれど……しいて言えば派手な緑色かしら」
わたしの髪の色が鮮やかな赤だから緑を合わせるとクリスマスに浮かれた人みたいになるのだ。この世界にクリスマスないけど。
「――って! そうではなく。何か御用があって呼び出したのではなくて?」
「用ならある」
そう言って、オクトール様は持っていた紙束を軽く揺らした。やっぱりあれ、全部質問が書かれているんだ……。
「ノーディーニが、妻になる女性のことは知っておけ、と言っていてな。確かに一理あると思ったのだ」
だからと言って、こんな質疑応答みたいなことしなくても……。確かに効率はいいけれど、普通、こういうのって段階踏んで会話を重ねて相手を知っていくものでは……?
――いや、でも待てよ。式の練習やドレスの採寸で忙しい中で、何度も呼び出されて、回りくどい会話をしながら質問に答えていくの、そっちのほうが大変そうだな?
色気はないけれど、こっちの方が効率がいいのは確か。
そもそもアインアルド王子はわたしのことを知ろうとしなかったし、こうしてわたしのことを聞いてくれるだけマシだろう。
……それにしても、今日のオクトール様は雰囲気が違う。前はすごく挙動不信で、人に慣れていない様子だったのに、今日ははハキハキ喋るし、堂々としている。
別人みたいだ、と思って、じっと見ていると、「な、なんだ……」と、オクトール様が少したじろいだ。
「か、顔に何かついてるか……?」
居心地悪そうに、オクトール様は眼鏡のふちを撫でた。ああ、成程。何か違うと思ったら、眼鏡をかけているのか。前に会ったときはかけていなかったはず。
「眼鏡、おかけになるんですのね」
わたしがそう言えば、「悪いか……」と目をそらされた。
「これがないとノーディーニ以外の人間とまともに話せない。別に眼鏡くらいつけたとしても、問題ないだろう」
成程。あれがオクトール様の鎧、ということか。
「分かりますわ。わたくしにもそういう、スイッチを切り替える物、ありますもの」
わたしがそう言うと、少し驚いたようにオクトール様が紙束から目線をこちらに移した。