73
しかも、オクトール様が王になるための切り札として取っておいたものだ。よっぽどのものに違いない。
「今回は何を作るつもりなんですの?」
「形状的にはジョウロか鉢植えかな……。ジョウロの方が効率は良さそうだけど」
ジョウロか鉢植え? 植物を育てる魔法だろうか。確かに、成長速度が早まって、作物の収穫量が増えればかなり有益だよね。魔法や魔法道具の普及によって、飢えからは遠い世の中ではあるけれど、それでもお金がなくて食べ物が買えない、という人が全くいないわけじゃない。
その人たちに直接支援し続けるのは、それはそれでまた別の問題が出てきて難しそうではあるけれど、全体的に供給が増えれば値段は下がるものだし。あ、でも、こういうのって農家を守る為には一気にやりすぎない方がいいんだっけ?
前世でなんとなく聞きかじったニュースをうっすらと思い出しながら考えていたわたしだったが――伝説と言われるだけあって、オクトール様の祖先は凄かった。
「どんな植物でも必ず育つ魔法の再現をしようと思う」
「そんなものが――……『どんな』植物でも『必ず』……?」
わたしは思わず聞き返す。オクトール様はわたしの言葉にうなずいた。
どんな植物でも。
「それは例えば、育て方が分からず、種子だけは残っている過去の植物や、育てるのが非常に難しい薬草とかも、ですの?」
「そうだよ」
そんな凄いものが本当に開発できたら。
このまま絶滅を待つだけだった植物が蘇り、薬草がより多く育てば、薬の値段を下げることも、より多く配ることもできて、死者を減らすことが可能だ。
確かに、これ以上ないくらい、分かりやすい実績。何より――。
「グナダール草を増やすおつもりで?」
わたしが問うと、オクトール様は、緩やかな笑みでもって肯定の意を示した。
グナダール草はとある指定難病を完治させるのに必要な薬草だが、育てるのが非常に困難で、使えるものは一年に一束収穫できればいい方、と言われる程の薬草だ。
指定難病以外にも使い道がある薬草なので、緊急性の高いものから使われていく。そのため、その難病の治療にまで必要数在庫が回ってこないのが現実だ。
そして、その指定難病は――『シックス・パレット』のヒロインの一人、プルプムが抱える病である。すぐに死ぬような病気ではないものの、ハッピーエンドを迎えたとしても彼女の病気は治らない。快調にはなるものの、アインアルド王子と共に完治を目指す、という終わり方になったはずだ。バッドエンドだとプルプムはベッドの上の住人となり、起き上がるのも難しくなるので、こじらせれば大変なことになるのは確実。
そして『シックス・パレット』のヒロインであるということは、わたしを下ろしてアインアルド王子の妃の一人となった女ということ。
アインアルド王子を見返して、王になる手段として、これ以上ない程の一手である。




