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07

 さて。無事に、と断言できるかは微妙だが、オクトール様との顔合わせは終わった。このまま何もせずに結婚――というわけにもいかない。王族の婚約が決まったのだ。婚約パーティーを開かねばならない。

 非常に残念なことに、二回目の婚約パーティーである。


 アインアルド王子の際に、本当に面倒くさくて二度とやりたくない、と思ったけれど、まさかもう一度やらねばいけない日が来るとは思いもしなかった。王族相手の婚約パーティーならば、多少妥協が許されたのに。

 王族の婚約者として紹介されるわけだから、絶対にミスをすることができず、何度も何度も立ち振る舞いの練習をさせられたし、ドレスを新しく仕立てるのも本当に疲れる。前世では服を買うのは好きな方だったけれど、それは既製品を自分の好きなように買うから楽しいのだ。


 オーダーメイドが基本で、採寸をし、何度もデザインを確認させられ、しかもそのデザインは自分好みではなく伝統としきたりに則ったもので、わたしの意見はあまり反映されない。全然楽しくない。しかも、練習の合間に採寸等の予定が詰め込まれるので、休むこともままならなくなる。

 あと、パーティー当日に向けて、食事も変わるし。ダイエット中みたいな、食べ応えのないメニューになるのだ。何もいいことがない。


 オクトール様との顔合わせを終えた翌日、現実逃避に、わたしは家の書庫へと来ていた。丸一日休みが取れるのは、次いつになるか分からないし。

 書庫にずらりと並ぶ本の中から、魔法道具関連の本を数冊抜き取って、わたしは椅子に座る。


 オクトール様はかなり魔法道具に入れ込んでいるようだったから、少しでも知識をつけた方がいいだろう。天才と名高いオクトール様の知見に、正式に結婚するまでの期間で追い付けるとは到底思っていないが、まあ、会話のネタに困らない程度には多少覚えられるだろう。とっかかりなり、表面上なり、多少の知識があれば、向こうが勝手に話してくれると期待している。


 それにしても魔法かあ。

 ライターとして、シナリオを書いていたときには随分とお世話になったものだ。ストーリーや世界観自体はそこまでとがったものにしていないから、魔法と言う不思議パワーを便利に使ってあれこれご都合主義展開を作ったものだ。そう言う点では、魔法の知識は多少なりともある。

 ただ、わたしが書いたベルデリーンルートでは、家電レベルの魔法道具くらいしか出てこなかったから、魔法道具自体の知識はとぼしい。


 まあ、もうゲームのシナリオはとっくに終わっているのだ。アインアルド王子に婚約破棄されるために今までは動いていたが、これからは自由に、して――……。

 そんなことを考えて本をぺらぺらとめくっていたわたしの手が止まる。


「えっ……オクトール様、本当にヤバくない?」


 思わず素の言葉が出て、わたしは慌てて口を押さえた。一人だからセーフ。

 読んでいた一冊目は、最近開発された魔法道具関連のカタログ本。それはいいのだが、開発者の名前の九割がオクトール様である。天才、という呼び名を甘く見ていたわけではないが、まさかここまでとは。


 ……アインアルド王子より、オクトール様の方が圧倒的に優良物件なのでは……?


 婚約破棄された現実に、わたしは改めて感謝するのだった。

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