06
たくさんの妻を娶ることができる男は、それだけお金があって社会的地位があるということの証明。自分の夫がたくさんの妻を持つことは誇らしく、同時に、一人しか養えないような男はみすぼらしい、というのがこの国の女の意識なのだ。平民よりも貴族や金持ちになるほど、この考えは顕著になる。
もちろん、女が増えることによって自分との時間が減ったり、気に入らない女が妻として加えられるのは嫌がる。しかし、そこをどうなだめて対処するのかが、できる男の見せどころ、と言われることもあるくらいだ。
わたしはそんな文化、クソくらえだと思っているけれど。他人がする分には勝手にしたらいいが、わたしは絶対したくない。
わたしはわたしだけを見てくれる男がいいのだ。
「……社交のできない第八王子だからって、馬鹿にしてるの?」
しかし、わたしの発言は彼に残っていたプライドを傷つけたらしい。暗に、無能、と言ってしまったようなものだし。
自虐するのと他人から言われるのでは、確かに腹の立ち具合が違う。わたしにだって、そういうことの一つや二つはある。
「いいえ。大体、第八王子、と言われましても、この国で順番など、あってないようなものではありませんか」
一夫多妻、という制度を取っているからこそ、子供が多くなるため、長子が跡を継ぐ、と決めることはこの国ではあり得ない。数多くの子供の中から優秀な人間を選んだ方が結果としていいものになるし、なにより数が多いにも関わらず長子が跡を継ぐのでは、早く生まれた子供が暗殺される確立が非常に高くなる。
変な話、今、この国には八人の王子と七人の王女がいるので、長子である第一王子が跡を継ぐことが決まっていれば、単純計算すると最高で十四人分の派閥から狙われるのである。十五人の子供よりずっと多い時代もあった。
だからこそ、第八王子であったとしても、本気になれば次期国王になることは何ら難しくないのだ。……まあ、社交ができない、という点に関しては本人次第なので何とも言えないが。
「わたくし、嫌なのです。また『おさがり』なんて言われるようになるのは。貴族ですから、わたくしを愛する方と、なんて夢は見ませんけれど、少なくともわたくしだけを相手にする方がいいですわ」
「……」
恋愛結婚を望むのは、立場的に難しいものの、政略結婚だったとしても、他の女の影があるのは嫌だ。わたし一人で満足できない、と、暗に言われているようで腹が立つ。
「わたくしであれば、第二夫人以降は絶対に蹴落として迎え入れさせませんし――きっと、安心して魔法道具の研究に没頭できますわよ」
「その話、のった」
わたしの最後の言葉が決め手となったのか、オクトール様はようやくうなずいたのだった。