05
結局わたしは一人で応接室へと戻ることになった。王子が気絶してしまって、とても話せる状況ではないからだ。
最初は「オクトール様の自室で待たれては」と、ノーディーニさんが提案してくれたが、流石に前世からのがさつ精神を受け継いでいるわたしでも、部屋の主の許可もなく入室することはためらわれた。
しかも部屋の主はわたしの友人でもなんでもない相手。いくらノーディーニさんが大丈夫だと言ってくれても抵抗があったので、「目を覚ましたら必ず応接室に連れて戻ります」と言った執事の言葉を信じて、応接室へと戻った。
しかし、本当に大丈夫なんだろうか。わたし自身、メイン級のキャラが元だからか、作画――じゃない、顔の造りは悪くないと思うのだけど、まさか卒倒されるなんて。そんな酷い見た目じゃないわ。
加えて、ベルメ・ルビロス、という名前が悪名高い、というわけでもない。『おさがり』として、馬鹿にされる名前ではあると思うけど。
女性、もしくはそもそも人が苦手なのか。それとも、アインアルド様のおさがりということに何か地雷が刺激されたか。ノーディーニさんという前例がいる以上、前者ならばまだ挽回のしようがあるが、後者だったらどうしようもない。わたしがアインアルド様の婚約者だったことは変えられない事実。
どう接していくべきか、と悩んでいると、応接室の扉が叩かれ、開かれる。
そこには、さっきよりもマシな身なりをしているけれど、随分と、今にも死にそうな表情をしているオクトール様がそこにいた。隣にノーディーニさんはいるものの、ガチガチに緊張しているのであろうオクトール様にとって、あまり安心材料になっていないように思う。
……これ、話しかけて大丈夫? わたしが声をかけた途端に、また倒れない?
どう声をかけるか迷っていると、「無理……」という細い声が聞こえてきた。わたしでもノーディーニさんでもない。今この場でメイドや執事といった使用人が話すわけもないから、オクトール様の声なんだろう。見た目より高い声をしている。いや、ちゃんと男性の声ではあるんだけど。
「オクトール王子、貴方様も王族である以上、一人も妻を娶らないわけにはいきませんよ」
ノーディーニさんがそう言うと、「でも、一人娶ったら、二人、三人、って増えていくんでしょ……」と、今にも泣きそうな声が聞こえてきた。
「オクトール様は、複数人、娶るのが嫌でいらっしゃる?」
つい、話しかけると、オクトール様はびくりと肩を震わせながらも、首を上下に振っていた。
「お父様たちみたいにたくさん娶ったって、僕なんかが全員ちゃんと相手できるわけない……。一人でも多いくらいなのに……」
その言葉に、わたしは、絶対この人を逃がさない、という言葉が頭の中に浮かんできた。今、この話が白紙に戻ったら、彼みたいな人は二度と現れないと、直感がそう言っていた。
「ご安心ください、オクトール様。わたくしが貴方様の妻になった暁には、一人で全てこなして見せますわ。……いいえ、第二、第三夫人など、増やしてたまるものですか」
この国の女には珍しい発言に驚いたのであろうオクトール様が、目をぱちぱちとまたたかせていた。