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――暇だ。
わたしは、ぼんやりと天蓋を眺めながら思った。いや、熱が出ているから暇と言っていいわけじゃないんだけど。
でも、高熱、というわけじゃないからどうしても時間を持て余しているように感じてしまう。立ったり座ったりして作業をする分にはつらいものの、寝ているだけというのはそれもそれでしんどい、微妙なライン。
寝ればいい、というのは分かっていても、既にたっぷり睡眠を取ったあとなので、寝るのにも時間がかかりそう、という具合。
一人だったら本でも読んでしまうが、流石にいつグレーリアやカリスが来るかも分からないのに読むことはできない。何を言われるか簡単に想像がついてしまう。
こうなるともはや食事だけが楽しみになってしまうのだが、体も頭も使わず寝ころんでいるだけなので、どうにもお腹は減らない。
目を開いて天蓋を眺めているから眠れないのだ、目を閉じればいつかは寝ているはず、とまぶたを下ろそうとすると――部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、お休みですかー? 少々よろしいでしょうか」
普段より声量を押さえたカリスの声がする。起きていたから分かったけれど、寝ていたら気が付かないような声。
「起きていますわ、大丈夫」
何か用だろうか、とわたしは体を起こす。一瞬ふらっとしたけれど、頭痛がするわけでも、めまいがするわけでもない。やっぱり寝すぎなのである。
医者が来たか、それとも昼休憩が終わったから一番に様子を見に来てくれたのかと思ったが――全然違った。
「オクトール様がお見舞いに来てくださいました」
「そう、オクトール様が……えっ、オクトール様っ?」
思わず聞き返すと、扉越しにカリスの声で肯定の言葉が返ってくる。
まさか来るとは思っていなかった。いや、婚約者、という立場なら、全然おかしな話でもないのか!?
しかし、わたしはどちらかというと、体調を崩している際には人と極力会いたくないタイプである。
かいがいしく世話をされたい、人恋しくなるから傍にいてほしい、という人がいることは知っているが、わたし自身はそんなこと、一度も思ったことがない。立ち上がることもままならないくらい酷いありさまならば流石に人を頼ることはするけれど、基本的には自分で全て済ませてしまいたい。
だって、顔も洗っていないし髪も整えていない、こんな姿、誰に見せられるというのか。『おさがり』と魅力のない令嬢認識をされているわたしにだって、恥というものはある。
でも、折角来てくれたのだから、不快にならないようにお帰り願わないと、と言葉を探していると――「失礼しますね」とカリスがわたしの部屋の扉を開けてしまった。
プ、プライバシー! メイドなら、入室許可を得てから入りなさいよ、カリス~!




