04
アインアルド王子の誕生日パーティー、もとい、わたしが婚約破棄されたあの日から十数日。わたしはオクトール様の部屋の前に立っていた。
先日の話をするために、である。
オクトール様との婚約が、正式に決まったのだ。
正式に決まったも何も、パーティーで王子が命じ、わたしがそれを受けてしまったので後からひっくり返すのは難しかったようだ。
勝手に即答するな、と両親には酷く怒られた。
わたしの両親は前向きではなかったみたいだけど、オクトール様の相手が未だに一人も決まっていない王家側からしたら願ってもいないチャンスだったらしく、向こうがかなり乗り気だったので、結果的には同じことだっただろう。
今日は顔合わせ、なのだが、王城の応接室の一室までオクトール様がやってこなかったので、わたしが出向くことになった。応接室に来なかった時点ですんなり出てくるとは限らないので、唯一彼の部屋に出入りできる人物――ノーディーニさんに一緒にきてもらっている。
「オクトール王子、少々よろしいでしょうか」
ノーディーニさんがオクトール様の部屋の扉に話しかけると、数秒して、「何」と扉が開いた。あっさりと。
寝起きだったのか、ぼさぼさの長い髪をそのままに、研究者らしく白衣を羽織っていた。とはいえ、寝食を削るタイプではないのか、顔色は悪くない。聞いていた年齢よりだいぶ大人びて見える顔立ちで、かなり整っているほうだと思う。……というか、彼、ものすごい母親似だな。第五夫人に顔がそっくりだ。
つい、じっと顔を見ていると、オクトール様はわたしに気が付いたのか、びくっと肩を跳ねさせると、扉を閉めようとする――が、オクトール様が扉を閉めるより早く、傍に使えていた執事が間に足を突っ込んだ。
正直、わたしが足を入れそうになったから、先に執事が足を突っ込んでくれて助かった。扉を閉められたら困る、と、反射的に足が出そうになったが、今日の靴で扉に挟まれたら大変なことになるし、なにより貴族令嬢のすることではない。おそらく、それを察して、執事が足を扉の隙間に入れてくれたのだろう。
前世を思い出したのは本当に幼少期の頃。貴族令嬢としてのマナーやたしなみ、ルールが身に付く前に前世の記憶が出てきてしまったから、とっさの行動に、前世のがさつさが出てしまう。
すっと、さりげなく、オクトール様から分からないように半分以上出ていた足をひっこめる。
「王子、こちらはルビロス侯爵家のご令嬢、ベルメ様です。先日、オクトール王子とのご婚約が決定いたしましたので、顔合わせに」
ノーディーニさんがオクトール様へと説明を始める。
オクトール様の反応が反応だからしかたないが、廊下で婚約について話しだすのもそれはそれで凄いな、と思っていると、ドサ、と、何か重い物が倒れる音がした。
――オクトール様が卒倒したのである。