31
わたしの言葉に、オクトール様は「その……」と口ごもった。何を言うのか迷っているようで、言葉を探すように目線が泳いでいる。
「ゆっくりでいいですわよ」
どうせ時間はあるのだし、とまでは言わない。嫌味のつもりはないが、勉強時間がなくなったから、という意味合いに変わりはないので、嫌味ったらしくなってしまう。
「君が、僕のことを庇ってくれるのは助かるし、実際、さっきもベルデリーン嬢との間に入ってくれて、すごくありがたかったんだけど、その……庇われっぱなしは、よくないと、思うというか」
眼鏡がないにも関わらず、癖になっているのか、彼の右手が眼鏡のふちを探してうろうろしている。
「本気で王位を目指す以上、このままでは駄目なのは、分かっているんだ」
ちら、とこちらを見た王子と目があう。しかし、すぐに彼の目線は下がってしまった。
「でも――現状、一人でなんとかなるか、と言ったらそんなことはなくて……だから、でも、その……僕の方がフォローしてもらってばかりだから、僕から言うのは変かもしれないけれど、僕を守ることを前提に考えなくてもいい――よくないけど……」
どっちなんだ、とは流石に言わない。みなまで言われなくたって分かる。オクトール様なりの励ましというか、あまり気負わなくていい、という意思表明なんだろう。かといって、完全に突き放されてしまうのは、今のところ困る、という感じか。
「……ちなみに、どのくらい踊れますの?」
「教師に合格を貰うくらい、かな」
となると、最低限は踊れるということか。わたしと同じくらい、と考えていいだろう。ステップを踏むことに集中していれば間違えることはなくて、でも、かといって、周りやパートナーにも意識を配ってフォローするのは難しいくらい。
となれば、やることは一つ。
「二人でダンスの練習もしましょうか!」
ここまでやることを積んでったらもはや、やけくそである。いや、ダンスのときくらいの、密着状態に慣れたら、急な触れあいで挙動不審になることもないだろうから、触れあいに慣れるための行動と兼ねられるとで実質プラマイゼロ。多分。
「互いに相手へ気配りができないのであれば、わたくしはオクトール様に、オクトール様はわたくしとのダンスを、慣れるくらい練習すればいいだけですわ」
自分ができて、相手ができないことはフォローすればいいし、両方ができないのなら、できるまで共に練習すればいい。幸い、次の次に参加する夜会に間に合えばいいので、時間は多少ある。……わたしの勉強時間が大変なことになると思うけど、まあ、なんとかなるはず。友だちはいても、多い方じゃないから、頻繁にお茶会とかするわけじゃないし……。
「共に王位を目指してアインアルド王子を見返してやろうと手を取り合った仲ですもの。どこまでも付き合いますし、付き合ってもらいますわよ」
わたしがそう言うと、オクトール様は、未だ不安そうな表情をしながらも、こっちをしっかりと見て、うなずいた。




