03
しかし、こうして婚約破棄を言い渡されたのであれば、王子の今の現状を見て考えるに、無事ハーレムエンドに至っただろう。わたしの出番はこれで終わりである。
後は適当にわたしが悔しがってパーティーを退席し、そのまま時が飛んで夜、ハーレムに迎え入れたヒロインたちと年齢制限ギリギリの表現でいちゃいちゃしていればそのままエンディング曲が流れて終わりである。
当然、現実だから時が飛ぶ、なんて、創作物でよくある表現は存在しないわけだが。
さーて、適当に言葉を並べて退場しますか、と、わたしが息を吸い込んだとき――。
「ベルメ、貴様はオクトールと結婚するといい」
そんな王子の言葉を聞いて、わたしの思考は完全に止まった。頭の中真っ白である。
オクトール様と言えば、この国の第八王子である。第八王子、と言っても、国王も複数の女性を妻として迎え入れているので、わたしとそう年齢は変わらない。むしろ、アインアルド王子との間にあった五歳差が、三歳差にまで縮まる。ちなみに両方ともわたしより年上だ。
いや、年齢差はこの際どうでも良くて。
ハーレムエンドに、こんなセリフ、あったっけ。いや、ないはず。ここは、捨て台詞を吐くベルメに興味なんか持たないまま、ヒロインと会話しているはず。
――いや、これがゲームじゃない、からか。
ゲームはここで終わりだったけれど、現実はここで終わりじゃない。むしろ、わたしたちの年齢を考えると、ここからがスタートである。
となれば、わたしだって、貴族令嬢として、誰かと結婚しないといけないわけで。婚約破棄の後が、国外追放や死罪でないのなら、なおのこと。
それにしてもオクトール様か。
オクトール様は、『魔法道具の天才』、と呼ばれているが、その実、部屋にこもりきりで外に出ないお人だ。公務もほとんどしないし、社交にも出てこない。、国の利益になる魔法道具をいくつも開発するからこそ許される生活を送っている。
わたしも会ったことがないどころか、そもそも兄弟姉妹仲もあまりよくないため、王子や王女でもそうそう顔を合わせないという。
今日だって、アインアルド様の誕生パーティーを欠席しているくらいだ。王族だから、貴族よりは休みやすいんだろうけど。貴族はよっぽどのことがない限り、出席しているわけだし。
……いや、オクトール様、逆にアリでは?
引きこもっていたら出会いはない。国内で発表される、新しい魔法道具の開発ペースからして、ずっと自室で魔法道具の研究や開発をしているに違いない。
彼の部屋に唯一自由に出入りできるのは、彼の魔法の師である教師一人のみという噂。かなりのご年輩の方で、一度教師を引退したにも関わらず、オクトール様が彼しか部屋の出入りを認めなかったため、再び城に戻されたのだとか。
少なくとも、女性の影は一切ない。
ここで断ったとしても、他の王子の元へ嫁がされるなら、他に妃がいることは確定しているし、妻が一人でいい、なんて稀有な貴族男性を探すのは骨が折れる。
彼なら一夫一妻のままでいてくれる可能性がかなり高そうだ。
「かしこまりました、喜んで拝命いたします」
脳内で計算をして、話を受けた方がいいな、と判断し、笑顔で返すと、わたしがそう返してくるとは思わなかったのか、王子は虚を突かれたような表情をしていた。
やり返せたみたいで、ちょっとだけ気分がいい。